特集
日本では外科医不足が問題となっていますが、それゆえ、外科医のニーズは地域を問わず非常に高く、外科医は引く手あまたといってもいい状況にあります。
また、きつい勤務イメージのある外科ですが、近年は「働き方改革」(2024年施行)により労働環境の改善や業務の効率化が進んでいますし、ライフスタイルの多様化によってワークライフバランスを重視した働き方も可能になっています。さらに外科医の多くが「外科医になってよかった」と感じているなど(※)、外科は充実度が高く、非常にやりがいのある診療科です。
そこで今回は「外科医になろう!」をテーマに、外科医のなり方(専門医資格の取得)や働き方、さらに求人、転職、転科事情などについても解説しながら、外科医の魅力を紹介していきます。
1. 外科医になるには?
外科医になるには、2年間の初期臨床研修を修了後、外科に関する専門的な研修(外科専門研修プログラム)を3年以上受け、日本外科学会による外科専門医の資格を取得する必要があります。
外科専門研修プログラムの修了要件には、「350例以上の手術手技経験」が必要であり、専門医申請のための手術手技実績を証明するために【一般社団法人National Clinical Database(以下、NCD)】への登録が必須となります。
【NCD】は診療実績を証明するインフラとして活用されるだけでなく、手術成績から見た医療の質の評価も可能とする症例集約システムです。
初期臨床研修期間中の手術手技経験についても、要件を満たすものは外科専門研修の経験目標に加算できるため、外科医を目指す方は初期研修医のうちに「NCDへの登録」と「日本外科学会への入会、及び修練開始の登録」をしておきましょう。
※【NCD】について、詳しくはホームページをご確認ください。
外科専門研修プログラムを修了すると、専門医認定試験の受験資格が得られ、一定の資格認定試験を経て認定されることで外科医になることができます。
外科専門医になるのは最短で卒後6年となります。
2. 外科専門医試験の概要
受験資格について
①日本国の医師免許証を有し、医師としての人格および識見を具えていること
②日本外科学会会員であること(年会費を完納していること)
③自身の3年間の研修記録を研修実績管理システムへ登録していること
④プログラム統括責任者から専門研修修了の判定(修了判定)を得ていること
⑤以下の修了要件をすべて充たしていること
研修期間
最低3年間の専門研修を行っていること。また、最低6ヶ月以上、基幹施設・連携施設それぞれにおいて研修を行っていること。
診療経験
最低手術経験数350例
- 領域別分野を問わず術者として120例
- 術者・助手を問わず
消化管及び腹部内臓:50例、乳腺:10例
呼吸器:10例、心臓・大血管:10例
末梢血管:10例、頭頸部・体表・内分泌外科:10例
小児外科:10例、外傷:10点 - 領域別分野、術者・助手を問わず
内視鏡手術:10例
学術活動
- 業績(研究発表/論文発表)
筆頭者として学術集会または学術刊行物に、研究発表または論文発表をしていること。 - 日本外科学会定期学術集会への参加
日本外科学会定期学術集会へ1回以上参加していること。 - 日本専門医機構認定の共通講習受講
日本専門医機構認定の共通講習(医療安全講習会、感染対策講習会、医療倫理講習会)を各1時間(各1単位、計3単位)受講していること。
試験内容について
MCQ(Multiple Choice Questions:多肢選択式問題)による試験で、過去出題した問題を中心に計100題(上部消化管:15題、下部消化管:15題、肝胆膵脾:15題、心臓+血管:15題、呼吸器:10題、小児:10題、乳腺・内分泌:10題、救急+麻酔:10題)が出題されます。
※外科専門医試験について、詳しくは「日本外科学会のホームページ」をご確認ください。
※専門医資格については新専門医制度の発足によって更新条件の変更なども発生しており、また、今後も研修内容、受験資格、更新条件の追加変更も予測されます。専門医については必ず各学会や日本専門医機構のホームページをご確認ください。
3. 外科のサブスペシャルティ
専門医制度では、基本領域とサブスペシャルティ領域の2段階制が採択されています。
サブスペシャルティ領域は、基本領域を細分化したより高い専門性を必要とし、サブスペシャルティの専門医を取得するには、まず基本領域の専門医を取得する必要があります。
基本領域である外科専門医は、外科のサブスペシャルティ領域や外科関連領域の専門医取得に必要な資格となります。
新専門医制度における日本専門医機構で認定されている外科のサブスペシャルティ領域は以下の6つとなります。
※消化器外科,心臓血管外科,呼吸器外科,小児外科,乳腺,内分泌外科の6科目
外科のサブスペシャルティ領域
最低3年間の専門研修を行っていること。また、最低6ヶ月以上、基幹施設・連携施設それぞれにおいて研修を行っていること。
診療経験
最低手術経験数350例
4. 外科医として必要な手技
外科(一般外科)は、消化器、腹壁、乳腺、甲状腺、肛門などの疾患に対する外科治療を行います。医療機関によっては外傷(切創、挫創、打撲、捻挫、骨折、脱臼)などの整形外科領域への対応や、消化器外科を中心に外科系専門科と兼務することもあり、創の縫合閉鎖、動脈採血、中心静脈脈穿刺、胸腔内トロッカー挿入、胸腔穿刺、胃管挿入、直腸診、尿道カテーテル挿入、肛門鏡など幅広い基本的手技が求められます。
消化器外科医、呼吸器外科医、心臓血管外科医、小児外科医、乳腺外科医、内分泌外科医などサブスペシャルティ領域の専門医であれば、より専門的で高度な手技力が必要となります。
VRやYouTube、セミナーの活用で手技習得も高度シミュレータや動画の普及により、手術手技のコツがつかみやすい時代に
外科の基本手技の代表といえば縫合術です。心臓血管外科や消化器外科では、血管縫合など、より高度で精緻な縫合が求められます。
それゆえ「外科は好きだけど、手先が器用ではないから…」という理由で外科医を諦める人もいるでしょうが、はじめから縫合をはじめとした手技をテキパキとこなせる外科医はいません。手技の向上には症例経験を積むしかありませんが、機会に恵まれなかったり、なかなかコツがつかめず上手くできないことも多々あるでしょう。
しかし、近年は生体により近い正確なシミュレータや、バーチャル・リアリティ(VR)による手術シミュレータも登場するなど、技術の進歩により一人ひとりの患者さんの情報を反映した手術手技訓練も可能になってきています。
さらに、手の動きや器具の使い方のコツが理解しやすい解説つきの手術手技動画など、最近では動画コンテンツの普及もあって質の高い自己トレーニングができるようになり、手技力を獲得しやすくなっています。「外科は好きだけど、手先が器用ではないから…」という理由で外科医を諦めてしまうのは非常にもったいない時代であるといえます。
「民間医局コネクト」ではスキルアップに役立つセミナーを定期的に開催しており、動画による手技のわかりやすい解説なども提供しています。研修医の先生や外科を目指している先生は、ぜひお役立てください。
5. 外科医の働き方(ワークライフバランス)
外科医不足だからこそ、率先して取り組まれる「働き方改革」
勤務時間の不規則や、長時間勤務、時間外勤務が多いなどの理由で外科医志望者が減少している一方で、若い世代の女性外科医は増加しています(2017年時点で外科専門医取得者の22%が女性医師)。
女性医師はキャリアアップの時期と結婚・出産・育児とが重なりやすく、特に外科においては専門医取得・更新に手術症例数が必要であるため、ワークライフバランスを保ちつつ外科医を続けられる環境整備が強く望まれています。
また、外科医不足の要因は「変わらない職務環境である」として、外科医が率先して職場環境の改善に努めるなど、外科では「働き方改革」やワークライフバランスなど若手医師が働きやすい環境づくりが推進されている診療科です。
外科医の働き方は幅広く、ワークライフバランス重視も可能!
勤務時間が不規則なイメージのある外科ですが、呼吸器外科や乳腺外科などは緊急手術が少ないため、ワークライフバランスを実践しやすく、女性医師が働き続けやすい分野であるといえます。
また、外科医は常勤、非常勤ともに求人数が非常に多く、常勤で、【当直なし】、【オンコールなし】、【残業なし】、【ゆったり勤務】など勤務条件を絞り込んだ求人案件も比較的多くあるため「ワークライフバランスを重視したい!」という働き方も可能です。
「民間医局」の求人検索では、“ワークライフバランス重視”などの条件をチェックすることで、希望する求人情報を容易に探していただくことができます。
6. 外科医の転科
自分の腕(技術)が大きな資本となる外科医は、年齢や体力の衰えによって高い技術を維持できなくなるときが必ず訪れます。そのため、年齢を重ねるごとに手術件数を減らして他の業務を増やしたり、転科する外科医も多くいます。
転科の成功には、徐々にキャリアチェンジをしながら診療の幅を広げていくこと
特に専門領域に特化した大学病院の医局に所属している外科医は、幅広い対応が求められる地方やへき地の病院などに異動し、内科的対応や病棟管理など幅広い経験を積んでおくと良いでしょう。
その点、市中病院に勤務する外科医は普段から幅広い領域の診療に携わることもあるため、転科しやすい傾向にあります。
また、転科への準備を目的とする転職をしたり、内科系アルバイトで経験を積むのもいいでしょう。内科系のアルバイトは求人数も豊富で、科目不問や年齢制限も幅広いため外科医であっても探しやすいはずです。
外科医が転科しやすい分野と診療科
外科医の転科は難しいと考えがちですが、親和性のある診療科への転科は考えているほど難しくなく、また専門性の高さを活かすことができるなど、大きく活躍することができます。
外科医としての専門性を活かすことができる転科の例をいくつか挙げてみます。
-
- 一般外科医 ⇒ 一般内科(総合診療医)・在宅医療
一般外科医はジェネラリストであり、一般内科(総合診療科)への転科がしやすく、また一般内科や在宅医療分野などでは外科的処置も求められるため活躍できます。 - 消化器外科医 ⇒ 消化器内科
転科しても専門臓器が変わらない消化器内科領域へシフトする。外科医は解剖に熟知しているため、内科医としても有利に働きます。 - 呼吸器外科医 ⇒ 呼吸器内科
転科しても専門臓器が変わらない呼吸器内科へシフトする。日本では老年人口が多くなるため今後ますます呼吸器疾患が増加すると予想されており、需要は高いです。 - 心臓血管外科医 ⇒ 循環器内科
転科しても専門臓器が変わらない循環器内科へシフトする。また、循環器系疾患を得意とする内科医になる。外科医は周術期の全身管理にも携わっているため内科系にも有利に働きます。
- 一般外科医 ⇒ 一般内科(総合診療医)・在宅医療
外科医にも需要が高い、「在宅医療(訪問診療)」や「老人保健施設(老健)」
近年は、「在宅医療(訪問診療)」のニーズが非常に高く、外科医からのキャリアチェンジも歓迎しています。
「在宅医療(訪問診療)」の求人の多くは科目不問で、受け入れ年齢の幅も広く、在宅医療の未経験医師へのサポートや教育制度が充実した医療機関もあり、外科医でも十分対応できるようになります。
この他、「老人保健施設(老健)」なども、患者さんへの対応力や病院長、施設長として管理能力や人柄が大きく求められる傾向にあるため、外科医であっても需要は高い傾向にあります。
外科医にとって、若いうちから転科について考えることも大切であり、内科系の知識や技術を学ぶためにアルバイトや転職をして、将来のために備えておくことも重要です。
「民間医局」では「スポット(単発)」と「定期アルバイト(定期非常勤)」の両方のアルバイト情報を取り扱っています。内科系アルバイトをお探しの先生は、「民間医局」のアルバイト情報をぜひご活用ください。
7. 外科医の求人
外科医は地域を問わず不足傾向にあり、全国的に求人ニーズは非常に高いです。
外科は常勤、アルバイトともに求人数は多いため、「専門性に特化して働きたい!」、「専門分野のスキルを磨きたい!」、「ワークライフバランスを重視したい!」、「給与の高いところがいい!」など、個々の条件、希望にあった医療機関を見つけやすいでしょう。
外科医の求人数は多いが、医療機関によって求められるスキルは異なる
外科は医療機関の規模や地域、標榜する診療科によって求められるスキルが異なってきます。地域医療の場や、中小規模の病院ではジェネラルな対応を求められる傾向があり、初診の外来担当や、プライマリケアにおける外科的処置が中心であったり、医師数の少ない病院では内科の兼任を求められることもあります。
療養型病院などでは、胃ろう造設や尿道カテーテル留置、褥瘡処置を行うなど、外科医が求められるスキルは医療機関によってさまざまです。
高い専門性を活かしたり、手技の研鑽を目的とした場合は、大都市や地方の中心部に位置する設備の整った大規模な医療機関が中心となりますが、求人の競争率が高くなる傾向があります。
給与水準が高いのは都市部よりも地方の病院、実力で稼ぐなら美容外科
外科医の年収は、医師全体の募集年収と比較して高い傾向にあり、2,000万円以上の求人も他科と比較して多く見られます。
外科の年収は経験やキャリア年数が増えるほど高くなり、また手術などの専門性を活かして働く場合は年収2,000万円以上も可能ですし、外科医は全国的に医師不足であり、特に地方やへき地における外科医不足は深刻であるため都市部より給与水準が高い傾向にあります。
また、実力で稼ぎたいなら美容外科で働くという選択肢もあります。美容外科は自由診療であり、医療費は各医療機関で独自に決められているなど、個々の技術料や出来高で報酬を得ることができますし、日帰り手術がほとんどで夜勤がなく働きやすいのも特徴です。
外科医としての手術手技研鑽にアルバイト求人を活用
外科医として重要な要素は手技力です。これは経験の積み重ねでしか得ることはできません。外科医がアルバイトで得られるのは収入だけではなく、常勤病院にはない症例や手術手技対応などの経験が幅広く積めるというメリットもあります。外科医としてのさまざまなスキルを磨くためにアルバイトを活用することもオススメします。
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