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2024.03.08

けいれん、てんかん、意識障害―研修医からできるトリアージと専門医へのコンサルテーション―vol.5

はじめに

けいれん、てんかん、意識障害をテーマに以下の全5シリーズでお届けします。

本シリーズでは発作時の初期対応から始まり、病態の鑑別方法、けいれん・てんかんのフィジカル、さらには脳神経内科で間違えやすい用語を順にお届けしました。シリーズ5となる今回、レジデントのみなさんが脳神経内科に意識障害についてコンサルテーションするというセッティングで解説したいと思います。

シリーズ5. 意識障害の鑑別から脳神経内科へのコンサルテーションまで

まずは一般的な「意識障害の鑑別」について改めて確認しましょう。というのも、意識障害そのものはコモンな病態ですので、その鑑別作業では必ずしも脳神経内科にコンサルテーションするわけではないと思います。

鑑別リストとしては「AIUEOTIPS」が有名ですが、時間軸が意識できない点など実臨床においてやや使いにくさがあります。病歴やフィジカル、バイタルサイン、あるいは緊急性の高さなどを参考に鑑別を進めることが臨床では多いでしょう。また大事なことは、意識障害が主なプレゼンテーションであれば、その病態として脳卒中など脳の器質的病変は必ずしも検索すべき上位に位置しないということです。意識状態が悪いならまず頭部CT! と短絡的に判断しないようにしましょう。

表1.意識障害の鑑別リスト
1.   まずチェックしたいもの
● 血糖異常、低酸素、CO­₂ナルコーシス 、CO中毒、ビタミン欠乏
● 体温の異常、血圧の異常
2.   血液検査でチェックしたいもの
● 肝不全、腎不全、電解質異常
3.   脳 の検索
● 頭蓋内病変(CT/MRI)、脳炎/髄膜炎(髄液検査)、てんかん(脳波検査)
4.   その他
● アルコールや薬剤、精神疾患などAIUEOTIPSも参考に、取りこぼしがないかチェックする
1.意識障害の鑑別手順

繰り返しですが「意識障害=脳の病気(特に脳卒中)」と安易に考えてはいけません。緊急性があり、かつコモンなものから除外をしていくと良いでしょう(表1)。そこでまずは低血糖と低酸素から検索します。低血糖がある場合やアルコール多飲歴がある場合にはチアミン補充も同時に検討しましょう。バイタルサインの評価や血液ガス検査、血液検査での精査を進めつつ、頭蓋内病変の検索も行っていくという流れになります。逆に、バイタルサインと血液ガス検査、血液検査でカバーできないような鑑別疾患が「脳由来」の意識障害ということになりますので脳の画像検査に進むことになります。そして頭部CTやMRIなどの画像検査でも診断が難しい病態に「てんかん性の意識障害」があり、その診断には脳波検査が必要となります。

2.どんな時に脳波をオーダーすべき?

どのようなタイミングで脳波検査をオーダーすべきかというと、基本は「脳由来の意識障害が疑われるものの、画像検査で異常がない、あるいは説明可能な異常所見がない場合」と考えましょう。具体例を表2に示しています。なお、意識障害というプレゼンテーションであっても、それが覚醒の問題ではなく失語症による反応性の低下ということもありますから神経診察がやはり大事です。スクリーニングとしては、自発言語があるのか、言語理解が保たれているのかをまずは確認しましょう(物品呼称や復唱課題などでチェックします)。

ところでいざ脳波検査を緊急でオーダーし、臨床検査技師さんが脳波の記録を開始してくれたものの、肝心の脳波判読ができないというジレンマが現場にはあると思います。その脳波、誰が読むの? という問題です。脳神経内科医や脳神経外科医に相談したいところですが、アクセスが悪いという環境も少なくないでしょう。専門医が現場に到着するまでの時間で、少しでも自分で脳波のスクリーニングができればいいのにと思いますよね。そこで活用したいのが「脳波のトリアージ」です。ここでは脳波のトリアージとしての概念を説明したいと思います。もしファーストタッチとしての脳波判読ができるようになれば、とても頼もしいレジデントになるはず。

表2.NCSE疑いとして脳波検査を行うセッティング
● 全身けいれん後に、もうろう状態が遷延
● 術後の覚醒が悪い状況が遷延
● CTやMRIでみる急性期病変と症状に解離がある
● 言語に器質的病変がないのに意識変容や失語がある
● 繰り返す一過性の行動変化や行動異常

Herman ST, Abend NS, Bleck TP, Chapman KE, Drislane FW, Emerson RG, Gerard EE, Hahn CD, Husain AM, Kaplan PW, LaRoche SM, Nuwer MR, Quigg M, Riviello JJ, Schmitt SE, Simmons LA, Tsuchida TN, Hirsch LJ; Critical Care Continuous EEG Task Force of the American Clinical Neurophysiology Society. Consensus statement on continuous EEG in critically ill adults and children, part I: indications. J Clin Neurophysiol. 2015 Apr;32(2):87-95. doi: 10.1097/WNP.0000000000000166. PMID: 25626778; PMCID: PMC4435533.を参考に作成

 

3.脳波のトリアージ

そもそも、なぜICUで遭遇する意識障害に脳波検査をするのかというと、それは「目の前の意識障害の患者に対して、抗てんかん薬の適応があるかどうか」を早く知りたいからです。そう考えると、脳波で鑑別する意識障害は2種類しか存在しないことになります。つまり1)抗てんかん薬が必要な意識障害2)抗てんかん薬の不要な意識障害です。この2種類をトリアージすることに特化したのが脳波のトリアージだと考えましょう。その判定ステップは2つだけ。1. spikeがあるかどうかと2. 背景活動に異常があるかどうかの2ステップです。これにより脳波を4つのカテゴリーに分類し(図1)、『抗てんかん薬が必要な意識障害』を迅速にトリアージすることができます。

図1

実際の判読手順を見ていきましょう。2つの症例を提示しています(図2)。サンプルAの方は頭部外傷後の意識障害が遷延した症例の脳波です。脳波の波形にspikeはないものの、背景活動は異常なパターンです。よって、てんかん性ではない意識障害というカテゴリーに分類されます。一方の症例Bは臨床的に肝性脳症が疑われた脳波です。ここではspikeがあり、背景活動の異常も示しています。つまり、てんかん性の意識障害というカテゴリーに分類されますので、抗てんかん薬での治療介入を念頭に精査を進めていくことになります。意識障害の首座が代謝性脳症だけではなく、てんかん性の意識障害も混在していたことになります。具体的には、抗てんかん薬を準備しつつ専門医にコールすると良いでしょう。このような脳波のファーストタッチについて、判定方法などの詳細は拙著もご参照ください。(著書についてはこちら>>)

図2

まとめ

意識障害の鑑別の中での脳疾患の位置関係と、てんかん性の意識障害の診断までの流れを解説しました。脳波判読の詳細は専門性が高いですが、脳波をとるべきタイミングを知っておくことが大事です。また脳波のトリアージまでであれば非専門医でもできる対応ですので、ぜひ挑戦してみてください。

はじめての脳波トリアージ: 2ステップで意識障害に強くなる
音成秀一郎 (著)/ 南江堂
発刊:2024/2/9
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<プロフィール>

音成 秀一郎

音成 秀一郎(ねしげ・しゅういちろう)
所属先:広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学 助教、広島大学病院 てんかんセンター
2008年に大分大学医学部を卒業。脳神経内科での後期研修を経て2015年より京都大学大学院医学研究科臨床神経学講座(同てんかん・運動異常生理学講座)で、てんかんと脳波の臨床研究に従事。福島県立医科大学ふたば救急総合医療支援センターでの復興医療支援を経て2019年4月から現職。脳神経内科での診療に加えてICUでのcritical care EEGにも従事。主催するてんかん・脳波のウェブセミナーには全国から年間のべ3000名以上の医師が参加。管理するLINEチャットでの遠隔脳波診断・診療サポートにも300名以上の臨床医が参加。著書に脳波判読オープンキャンパス~誰でも学べる7STEP~(診断と治療社)がある。

音成 秀一郎

けいれん、てんかん、意識障害―研修医からできるトリアージと専門医へのコンサルテーション―vol.5

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