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2022.10.07

けいれん、てんかん、意識障害―研修医からできるトリアージと専門医へのコンサルテーション―vol.2

はじめに

けいれん、てんかん、意識障害をテーマに以下の全5シリーズでお届けします。

まずは救急外来やICUなどのセッティングを想定し、研修医からできるけいれん発作時のトリアージを確認していきましょう。けいれん発作は救急診療のcommonであり、神経救急(neurocritical)の登竜門です。そこには研修医だからこそ活躍できるポイントがたくさんあります。

また入院中の症例で「予期せぬけいれん」に遭遇することもしばしばあります。正しく、焦らずに対応するためのポイントや鑑別点も整理していきましょう。そしてシリーズの後半では、これからローテーションする脳神経内科病棟での研修を想定した予備知識を概説します。

以上5回のシリーズを経て、神経救急での初期対応、カンファレンスでのプレゼンテーション、上級医への報告、さらには専門医へのコンサルテーションに自信が持てるようになることを目指します。

シリーズ2. 発作が止まっても安心しない:思考を止めない研修医必携の鑑別リスト

<症例:シリーズ1の続き>

自宅で倒れてけいれんしているところを発見され搬送された80代女性。けいれん発作は10分以上持続していたため、早期てんかん重積状態(early status epilepticus: eaHy SE)と判断し末梢ルート確保後にジアゼパム1A(10mg)を投与した。けいれん発作は直ちに止まったが、意識はもうろうとしていた。血圧 140/80 mmHg、脈拍 90/分、体温 37.5度、呼吸数 20/分で、SpO2 96%(酸素2L/分投与)。救急外来での諸検査を経て緊急入院した。

<発作は「止まればOK!」ではない>

症例の内容を見ると、救急外来での迅速な対応もあり無事に発作は止まり、バイタルサインも安定したようです。しかし「あとは患者の意識が徐々に回復してくるのを待つばかり」と安堵してはいけません。発作は「止まればOK!」なんてことはないのです。例えばCPA(心肺機能停止)はROSC(自己心拍再開)すればOK!ではありません。火のないところに煙は立ちません。あらゆる発作には必ず理由があります。無事に発作が止まったならば、発作の原因究明(火事の現場検証)へと切り替えていきましょう。鑑別のポイントは「その発作はemergencyか?」です。

<発作の原因検索:てんかんかそれ以外かでトリアージ>

けいれん発作を引き起こす病態は様々であるため、緊急性のリスクに応じたトリアージをします。ざっくりと言えば「けいれん発作の原因が慢性のてんかんである場合は緊急性なし、逆にてんかん以外が原因でのけいれん発作は緊急性の可能性あり」と判断します(下記の図)。そのため、てんかんの既往のチェックは重要です。

臨床ではもう少し実践的なトリアージを行います。具体的には
1)初回発作かどうか
2)てんかんと診断されたことがあるか
3)過去の発作と比べて今回は異なる点があるか
の3つで判定します(下記の図)。

初回発作であれば無条件でemergencyとして対応しましょう。また過去に発作の既往があるものの、その原因がいまだに不明な場合も一旦はemergencyとして対応します(例えば数日前にけいれんで搬送され、診断はつかずに一旦は経過観察となるも、再度の発作で搬送された場合など)。一方で、既にてんかんと診断されているケースは緊急性が低いと判断できます。ただし、てんかん患者であっても普段の発作と比べて今回の発作の性状が異なるようなら、何か見落としている原因がてんかん以外にないかどうかの鑑別をすすめます。具体的には「普段と発作の種類が異なる」や「普段より発作が強い」などです。なお、ここで述べている「緊急性ありとしての対応」というのは後述する急性症候性発作との鑑別が必要というニュアンスでのemergencyです。

<なぜてんかん患者の普段の発作は緊急性が低い?>

てんかん患者では同じ発作が繰り返しみられます。つまりてんかんとは、発作を繰り返す慢性的な脳の病態なのです。「てんかんは脳の不整脈」という表現はしっくりきます。例えばPAF(発作性心房細動)で考えてみましょう。PAFの患者でAF(心房細動)が一時的に出現したとしても、循環動態が安定していればその場での応急処置は不要でしょう。ただし「普段は循環動態に影響を与えないAFしか出ないはずなのに、今日はバイタルサインが不安定になるようなAFが出現している」というケースでは頭のスイッチを切り替えなければいけません。あるいはPAFの患者なのに違うタイプの不整脈(例えば完全房室ブロック)が出現した場合も、これはemergencyです。このように、てんかんも普段と違う発作であればemergencyとして一旦対応しましょう。

<発作を引き起こす病態リスト>

遭遇した発作の原因が「てんかん患者の普段と同じような発作」でないのであれば、何かしらの急性疾患によって引き起こされた発作の可能性があります。すなわち急性症候性発作の可能性を考えます。急性症候性発作とは脳血管障害や中枢神経感染症などの急性中枢神経系障害に関連して発生する急性の発作で、多くはけいれん発作であり、てんかん重積状態に至ることもしばしばあります。表1のように様々な急性の病態により引き起こされます。そして最も大事なことは急性症候性発作の場合は発作そのものへの治療(ジアゼパム投与など)だけでは不十分であり、発作を引き起こしている背景疾患への治療が必要不可欠なのです。

表1. 急性症候性発作の原因病態

 病態 <出現時期>原因疾患・病態の例
 脳血管障害  <7日以内>脳出血、脳梗塞、脳動脈解離、脳静脈洞血栓症など
 頭部外傷  <7日以内>脳挫傷、外傷性くも膜下出血、硬膜下血腫、頭蓋内手術
 中枢神経感染症  <7日以内>あらゆる感染症
 自己免疫性疾患  <7日以内>自己免疫性脳(髄膜)炎、脱髄性疾患(多発性硬化症など)
 代謝性疾患  <主に24時間以内>低血糖、電解質異常(Na, Ca, Mg)、甲状腺クリーゼ、副腎不全、腎不全、肝性脳症、アルコール中毒・離脱
 低酸素血症  <7日以内>蘇生後脳症
 その他  子癇、薬剤性
<急性症候性発作のred flag sign>

急性症候性発作を引き起こす背景疾患の検索では、血液検査、髄液検査、画像検査等が参考にはなりますが、やはり病歴も大事です。てんかんらしくない病歴や、何かしらのactiveな疾患を彷彿させる病歴には敏感になりましょう(表2)。

表2. 急性症候性発作のred flag sign

 運動中の卒倒  心血管イベントの可能性
 24時間以内に繰り返す発作  activeな病態(進行性の病態)が潜んでいる可能性
 頭痛、嘔気嘔吐などの先行症状  髄膜刺激徴候
 発作前の行動異常や精神症状  脳炎の可能性
 5分以上持続する発作  てんかん重積状態に進展させる病態
<急性症候性発作:発作を引き起こすカットオフ値>

前述の病態だけでなく、血糖や電解質異常などの代謝異常により発作が引き起こされる急性症候性発作もあります。電解質異常であれば高Na、低Na、高Ca、低Ca、低Mgは発作の原因となり得ます。どの程度の異常値であれば発作を引き起こしやすいのか、については知っておくと良いでしょう。つまり発作のカットオフ値です(表3)。例えばNa値であれば115 mg/dl以下が要注意です。しかしNa <115 mg/dlであれば必ず発作を起こすというわけではありません。またカットオフ値に至らなくても発作が出る場合があります。例えば、脳挫傷の既往のある高齢者というそもそも発作を引き起こすリスクを持った症例であれば、Na 120 mg/dl台でも低Na血症が発作閾値に関わる可能性はあるでしょう。

表3. 急性症候性発作の原因となる代謝異常のカットオフ値

 血糖  <35 mg/dlまたは>450 mg/dl
 血清Na  <115 mg/dl
 血清Ca  <5.0 mg/dl
 血清Mg  <0.8 mg/dl
 尿素窒素  >100 mg/dl
 クレアチニン  >10.0 mg/dl
<発作閾値を下げる薬剤のチェック>

薬剤誘発性にけいれん発作が生じる場合もあります(表4)。もし発作が薬剤誘発性であったとすれば、抗てんかん薬の導入は本質ではなく、再発予防のためには原因薬剤の整理が必要です。特に高齢者では薬剤の影響を強く受けるだけでなく、そもそもポリファーマシーとなっている症例も多いでしょう。よって、発作を機に薬剤整理が可能であるかを考えます。また、最近は処方機会が減っていると思いますが、テオフィリンは発作閾値を下げることでよく知られています。

表4. てんかん患者で注意すべき併用薬剤

 種類 薬剤名の一例
 鎮痛剤  フェンタニル、ペンタゾシン、トラマドール
 抗菌薬  βラクタム系(ペニシリン、イミペネムなど)、ニューキノロン系(シプロフロキサシンなど)、
抗菌薬とNSAIDsの併用、イソニアジド、メトロニダゾール
 抗うつ薬  三環系(アミトリプチリン、イミプラミン)、軽度ながらSSRI
 抗腫瘍薬  メトトレキサート、ビンクリスチン
 抗精神病薬  クロルプロマジン、ハロペリドール
 気管支拡張薬  アミノフィリン、テオフィリン
 局所麻酔薬  リドカイン、ブピバカイン
 その他  抗ヒスタミン薬、抗認知症薬、交感神経刺激薬(エフェドリン)、免疫抑制剤、
気分安定薬(リチウム)、ベンゾジアゼピン系の離脱時
<研修医へのメッセージ>

シリーズ1では、二次的脳損傷を回避すべく早期の鎮火活動の重要性を説明しました。しかし、発作は止めればOK!ではないというのも今回のシリーズ2を通してわかったと思います。むしろ発作は「止めてからが勝負」なのです。素早い発作の鎮火活動に加え、丁寧な現場検証という名の初動において、研修医の先生が活躍できるポイントは豊富であり、その初動が患者の転帰に与える影響は極めて大きいでしょう。

<参考文献>

日本神経学会監修.「てんかん診療ガイドライン」作成委員会編集.てんかん診療ガイドライン2018. 医学書院. 2018
池田昭夫他編集. てんかん、早わかり!~診療アルゴリズムと病態別アトラス~. 南江堂. 2020
日本てんかん学会編集. てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版~てんかんにかかわる医師のための基礎知識~. 診断と治療社. 2020

<プロフィール>

音成 秀一郎

音成 秀一郎(ねしげ・しゅういちろう)
所属先:広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学 助教、広島大学病院 てんかんセンター
2008年に大分大学医学部を卒業。脳神経内科での後期研修を経て2015年より京都大学大学院医学研究科臨床神経学講座(同てんかん・運動異常生理学講座)で、てんかんと脳波の臨床研究に従事。福島県立医科大学ふたば救急総合医療支援センターでの復興医療支援を経て2019年4月から現職。脳神経内科での診療に加えてICUでのcritical care EEGにも従事。主催するてんかん・脳波のウェブセミナーには全国から年間のべ3000名以上の医師が参加。管理するLINEチャットでの遠隔脳波診断・診療サポートにも300名以上の臨床医が参加。著書に脳波判読オープンキャンパス~誰でも学べる7STEP~(診断と治療社)がある。

音成 秀一郎

けいれん、てんかん、意識障害―研修医からできるトリアージと専門医へのコンサルテーション―vol.2

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