記事・インタビュー
民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。
医学書を読むのが大好きな先生方より、医学書のレビューをお届けします。
レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)
臨床推論は、医師としての診療を支える最も重要かつ掴みどころのないプロセスです。
目の前の症例を直感的に“この疾患っぽい”と判断しながらも、時に「実は全然別の病気だった…」と後から気づくことがあります。
本書『臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!』は、そういった“コモンディジーズをマネしている疾患=ミミッカー”に注目し、鑑別診断での“うっかり漏れ”を防ぐ具体的なアプローチを紹介する一冊です。
著者の長野 広之先生は、日々の臨床経験や積み重ねてきた知識をもとに、多くの医師が悩む“臨床推論の落とし穴”を解説。
さらに、臨床推論の大家である志水太郎先生の監修のもと、「ピボット&クラスターストラテジー」を活用してミミック疾患を早期に捉える思考法を示しています。スライドや表、イラストなどビジュアル面も充実しており、“キャッチー”かつ奥深い内容に仕上がっている点が特徴です。
- 書評『臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!』
1.本書のターゲット層と読了時間
【ターゲット層】
- 臨床推論を体系的に学びたい初期研修医、後期研修医
- 救急外来や一般外来でコモンディジーズの“落とし穴”を実感している若手〜中堅医師
- 診断プロセスを強化したい総合診療科、内科系・救急科の医師全般
【推定読了時間】
約7~8時間(全262ページで、イラストや表のわかりやすさもある一方、内容が濃いためじっくり読むと時間がかかる)
2.本書の特徴
本書を一言で表すなら、「Common Diseaseをマネする疾患=ミミッカーに光を当て、臨床推論の“穴”を防ぐ実践書」です。以下に主な特徴をまとめます。
- ①ミミッカーの概念が“キャッチー”かつ実践的
- 「ミミック疾患をあらかじめリストアップしておき、直感的な診断を補強する」という考え方は、研修医の指導でも使いやすく、納得感があります。コモンディジーズを軸にした“ミミッカー探し”が鑑別漏れを減らす効果的な手法として紹介されています。
- ②Pivot and Cluster Strategyの本格的解説
- 臨床推論の重要手法である「ピボット&クラスターストラテジー」を具体的に示し、その中でミミック疾患がどう位置づけられるのかを詳細に解説。理論だけでなく、「実際の症例ではどう展開するか」を示すことで、即実践に移せる内容です。
- ③視覚に訴えるビジュアル重視の構成
- スライドや表、イラストを活用し、例えば急性冠症候群(ACS)のミミッカー一覧や鑑別診断の組み立て方などが一目でわかる形でまとめられています。視覚的に情報が頭に入りやすいので、文章だけの解説より理解が早まるでしょう。
- ④イルネススクリプトも活用している
- 患者さんの症状・経過・背景といった情報を体系的に整理する「イルネススクリプト」の形で、実際にどんな症状が出現するかイラストや画像つきで紹介。時代に即した学習スタイルを取り入れており、読者が自分の診療に素早く取り込みやすい構成です。
- ⑤応用できる症例が豊富
- 心不全、ACS、脳血管障害など、救急外来や一般外来でよく遭遇する病態を中心に、“ミミッカー”がどのように紛れ込むのかを具体的に説明。コモンディジーズの裏に隠れている鑑別疾患リストが、すぐに診療に役立ちます。
3.個人的総評
本書を読んでまず感じたのは、「ミミッカーを探す」というフレーズのキャッチーさと、その裏側にある“臨床推論を深めるための本格的戦略”の両立です。初学者にもわかりやすい導入から始まり、臨床推論の総論までしっかり掘り下げているため、「読んでいて楽しいし、深みもある」というバランスが非常に優れていると感じます。
- 直感と分析を融合する臨床推論
コモンディジーズを見慣れた医師ほど、“だいたいこれかな”という直感に頼りがちになります。そこにミミッカーとなる疾患群をあらかじめ想定しておくことで、労力をかけずに鑑別の漏れを減らせるのは実践的なアイデアです。本書では、どのような疾患がミミッカーになり得るか一覧で整理されており、極めて実務的だと思いました。 - 視覚的に学べる構成のありがたさ
スライドやイラストが豊富なので、文字が苦手という方でもサクサク読み進めやすいです。特に急性冠症候群(ACS)など緊急度の高い疾患のミミッカーを表形式でまとめているのは、臨床現場ですぐ参照できそうだと感じました。 - 後輩指導に最適な一冊
研修医にとって、臨床推論を体系的に学ぶ機会は案外少ないもの。本書では、症候別・疾患別に“ミミッカー”を示す形で、直感的な診断に潜む落とし穴をわかりやすく解説しているので、研修医指導で「この症状のミミッカーは何だろう?」という問いかけを活用できそうです。 - ページ数は多めだが、辞書的利用も◎
250ページを超えるボリューム感は一気に通読するには時間がかかるかもしれません。しかし、救急外来や入院加療で疾患に遭遇した際に「このケース、ミミック疾患は何だろう?」とピンポイントで立ち返る使い方がおすすめ。その都度復習する形で読むと、実臨床の“壁”がどんどん解消される感覚があるでしょう。
4.おすすめの使い方・読み進め方
- ①まずは“ミミッカー”という概念をざっくり理解
- 序章や導入部で示される「ミミッカー」を押さえ、なぜこの方法が臨床推論で大事なのかを掴みましょう。そこから徐々に各症例に当てはめていくと理解が進みやすいです。
- ②興味のある症候・疾患ごとに“つまみ読み”
- たとえば救急外来でACSが疑われる患者さんが来たら、まず本書の該当箇所を参照。スライドや表で要点を整理してあるので、臨床現場でも参照しやすいです。
- ③イラストや表を活用して“記憶のフック”に
- 文字だけでは覚えにくい鑑別リストも、図表やイラストを使えばスムーズに頭に入ります。付箋やメモなどと組み合わせ、自己学習のツールとしてカスタマイズするのも◎。
- ④後輩指導やカンファレンスの題材に
- 研修医やスタッフへの症例プレゼンで「今回は心不全っぽい患者だけど、ミミッカーを考えると何があるか?」といった形でディスカッションすると、学びが深まります。疑問点を本書で調べつつ理論付けできるので便利です。
- ⑤悩んだら“帰ってくる”書籍に
- どうしてもうまくいかない症例や経過が合わない患者さんに直面した際、ひとまず本書を開き、「実はこんなミミッカーが…!」と再認識することで診断ミスを防ぎます。常に手元に置いておきたい安心感があります。
5.まとめ
『臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ!』は、“キャッチー”なキーワード「ミミッカー」を軸に、臨床推論の奥深さと実践的なテクニックを同時に学べる一冊です。
直感による診断と分析的な思考をどう融合させるか、そして“見逃しがちな鑑別疾患”をどうリストアップしておくか――この二つの大切さを、多彩な症例とわかりやすいビジュアルで説得力をもって教えてくれます。
ページ数は250ページ超と少々多めですが、イラストや表で視覚的に理解しやすく、辞書的に使うのも一気に通読するのも自由度が高い構成です。
特に救急外来や内科外来などで“心不全っぽいけど、経過が合わないな…”などと感じる瞬間に、本書が手元にあると非常に心強いでしょう。
研修医や若手医師だけでなく、ベテラン医師にとっても、新しい視点で臨床推論を捉え直すきっかけになるはずです。
6.医書レビュー
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<プロフィール>

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター
立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。
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