特集

2021.04.28

【特集】医師×医院継承

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日本の高齢化問題は、医院の継承問題にもおよんでいます。開業医の高齢化が加速し、後継者がいないためにやむを得ず廃業する医療機関も増えています。そんな状況のなかで注目されているのが、第三者による医院継承です。今回は様々な角度から医院継承のメリットやデメリットに迫り、医院継承を成功させるためのポイントを紹介したいと思います。

1. 医師の高齢化により増加する医院継承問題
2. 高齢化による医院の休廃業が急増
3. “新規開業”と“継承開業”
4. 医院継承にもリスクはある
5. 医院継承を成功させるポイント
6. 医院継承は地域医療への貢献にもなる

1. 医師の高齢化により増加する医院継承問題

まずは開業医の高齢化と、廃業する医療機関が増加傾向にあることを知っていただくため、
各種のデータを確認してみたいと思います。

診療所・病院の開設者・代表者数

病院(医育機関附属の病院を除く)の開設者、又は法人の代表者数 5,149
診療所の開設者、又は法人の代表者数 71,888

全国の医師数319,480人のうち、約24%の77,037人が病院・診療所の開設者や代表者となり、開設者や代表者である71,888人はいずれ継承について考えなければならない時期がくると予想されます。

以下は診療所の医師の平均年齢が高い事を示しているデータです。

【 医師の平均年齢 】
医育機関附属の病院 38.8
病院(医育機関附属の病院を除く) 46.7
診療所 59.6
【 年代別にみた、診療所の医師数 】
「診療所」の医師数 102,457人のうち
60~69歳 29,580
70歳以上 18,866

(厚生労働省の「平成28年 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」による)

「診療所」の医師全体の構成割合を100 %とすると、「診療所」における60歳以上の医師の割合は47.3%と半数近くにのぼり、一般企業であれば定年を迎え引退する年代が半数近くを占めています。これらのデータからも継承問題に直面している診療所の院長も多い事が予想されます。

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2. 高齢化による医院の休廃業が急増

医療機関の倒産件数が減少するなかで、医療機関の休廃業・解散件数は増加傾向にあります。

帝国データバンクの「2014年 医療機関の休廃業・解散動向調査」によると、休廃業・解散した医療機関は前年比12.7%増の347 件(「休廃業」が239 件、「解散」が108 件)で、集計を開始した2007年以降で最多となったそうです。
業態別にみると、「病院」(30 件、前年比42.9%増)、「診療所」(271 件、同10.2%増)、「歯科医院」(46 件、同12.2%増)と全業態で増加しており、特に「診療所」の休廃業・解散が圧倒的に多いことがわかります。

次に、休廃業・解散に至った医療機関の代表(理事長)の年齢について確認してみましょう。

【 休廃業・解散に至った医療機関の代表(理事長)の年齢 】
70歳代 62件(構成比27.0%)
60歳代 56件(構成比24.3%)
80歳代 54件(構成比23.5%)

休廃業・解散に至った医療機関の代表(理事長)の年齢は、60 歳代以上が74.8%を占めており、高齢によって休廃業・解散した医療機関が増加しています。
(帝国データバンク 「2014年 医療機関の休廃業・解散動向調査」による)
高齢化による世代交代が加速すると考えられていますが、後継者(親族など)がいない場合、多くの医院が廃院の道を進むことになります。しかし、廃院は地域の患者のことを考えるとなかなか決断することが難しく、かといってバトンタッチできる後継者がいないため、引退したくても引退できない医師も多く、益々高齢化が進んでいくのが現状です。休廃業・解散に至った医療機関の代表(理事長)の年齢で80歳以上が60代、70代と同じくらい多いのは、こうした理由も一つにあると考えられます。

一代で築いた、また先代から継承した大事な医院を後継者がいないために存続できないことは、当事者はもちろん、地域の患者にとっても不幸な出来事です。こうした問題を解決するのが医院継承です。

3. “新規開業”と“継承開業”

医師が開業する方法は、“新規開業”か、“継承開業”の大きく2つに分かれます。
“継承開業”のイメージとして大きいのは親族間による継承ですが、後継者難といった問題を抱える医療機関の増加により、第三者への医院継承が注目されています。

開業を考える医師のなかには、設備資金などの費用が準備できない、集患に不安があるなどの理由から開業を躊躇する医師もいます。確かに、新規開業であれば、医療圏調査、土地探し・物件探しなど、いちから考える必要があります。そこで、継承開業の特徴を踏まえ、選択肢になり得るか検討してみましょう。
では、“新規開業”と“継承開業”、実際にはどちらがいいのでしょうか?
まずは“継承開業”のメリットを考えていきましょう。

【 継承開業の主なメリット 】

開業費用が安く済む(金銭的リスクが少ない)

新規開業と比較して金銭的リスクが圧倒的に少ないのは継承開業の大きなメリットです。新規開業の場合、不動産費用、医院の内装費、医療機器(電子カルテ、レントゲン撮影、超音波診断、内視鏡、心電計など)、什器備品(待合室のソファー、診察机や椅子、通信設備など)、当面の運転資金、医師会入会金、広告宣伝費などが必要となってきます。しかし、継承開業の場合は、費用負担が大きい不動産費用、医院の内装費、医療機器を大きく抑えることができ、低コストでの開業が可能となります。
また、それまでの医院の実績があるため、継承開業当初から集患がある程度見込める事から銀行からの融資も新規開業した場合より受けやすいこともメリットにあげられるでしょう。

患者や地域の特性を知るスタッフを引き継ぐ

引き継いだスタッフは患者や地域の特性を知っており、患者サイドも顔見知りのスタッフがいることで院長が変わっても来院しやすいため、継続的な診療が見込めます。引き継いだスタッフは大きな経営資源となるだけではなく、さらに仕事のしやすさにも繋がります。へき地における自治体立の診療所では数年置きに自治医大出身の医師が院長として赴任することが多いのですが、お話を聞くと、「スタッフが患者さんや地域のことに詳しいため、診療がしやすく非常に助かっています」という声をよく聞きます。スタッフを引き継げることは経営から医療まで様々な面でメリットがあります。

集患が容易になる(カルテを引き継ぐ)

新規開業はゼロから患者を集める必要がありますが、標榜が同じであれば、継承開業は前任者からの患者を引き継ぐことができるため、集患対策の急を要しません。開業の初期段階から相当数の診療が可能であり、既に患者のいる状態からスタートすることができ、個人情報の関係で難しくはなりましたが、継承時の契約形態や内容によってはカルテを引き継ぐことができるため、集患のみならず、診療履歴の把握が可能な場合もあります。 患者側の心理としても、今まで通っていた医院、前任者からの実績のある医院は利用しやすいと言えます。さらに、患者からの認知度が既にあるため、広告宣伝費のコストも低く抑えることができます。

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4. 医院継承にもリスクはある

継承開業のメリットを紹介してきましたが、そのメリットは継承の仕方によって逆にデメリットになる場合もあることを知っておきましょう。

【 医院継承の主なデメリット 】

売却価格、診療スタイル、経営理念などの相違

売却価格(譲渡価格)は医院の財産や医療資源(土地・建物、医療器械、実績や信頼など)により決定しますが、実績や信用などの付加価値の評価は簡単ではありませんし、建物の老朽化による修繕費がかさんだり、継承後に前院長さえ知らなかった契約や負債などが発覚し、問題となるケースもあります。
また、院長によっては、経営理念、診療スタイルなどもそのまま引き継ぐことを希望するケースや、継承後も前院長が診療や運営に対して意見を挟んでくることもあり、こうしたことが原因で継承の失敗や引き継いだ医院の運営が上手くいかなくなることがあります。

急な継承による多くの患者離れ

継承には一定数の割合で患者離れが生じます。問題なのは、事前にしっかりとした予告や説明もなく、急に院長が交代したことにより多くの患者が離れてしまうケースです。特に都市部では、地方やへき地とは異なり狭い地域に多くの競合医院が存在するため、患者がそれまで通っていた医院を変更するのは容易であり、注意が必要です。
予告なしや説明不足など、患者に一度でも心理的に嫌な印象を与えてしまうと、それを取り戻すことは容易ではありません。たとえ前院長のときにはなかった最新の医療機器を導入したとしても、それで患者数が維持、または増加するというわけではありません。多くの患者離れを防ぐためには、事前に患者に対してしっかり引き継ぎの旨を丁寧に説明することが重要となります。

引き継いだスタッフとの関係と、立地問題

引き継いだスタッフとの相性が合わないことや、継承物件情報を基に、近隣に新規開業や事業拡大などを考える医師/組織なども勘案する必要があります。スタッフの引き継ぎには必ず一人ひとりに面談を行い、経営や診療方針の話し合いをする必要があります。場合によっては新たなスタッフを追加募集し、新体制でスタートする方が良いこともあります。
立地の問題も、しっかりと周辺を調査することで競合医院の建設情報などが分かるはずです。さらに、周辺地域の人口の増減傾向などもチェックし、数十年という長期的な視野で考えることが重要です。

5. 医院継承を成功させるポイント

様々なリスクを回避し、スムーズな医院継承をするためのポイントは…

信頼できるコンサルタントを見つけ、早期に取り組み、段階的に継承していくことです。

まず、大前提として医院継承のリスクのほとんどが準備不足から生じるものです。
医院継承を成功させるには、継承する側、継承される側の当事者間で、じっくりと余裕をもって話し合うことが大切です。
金銭面や様々な条件面などの調整は、双方の間にコンサルタントを立てることも必要でしょう。コンサルタントが仲介し、契約や約束事項を文書化しておくこともリスクの回避になります。
そうして細かなことを一つひとつ確認しながらクリアしていくことで、いざ契約という段階で問題が露呈して、医院継承が振り出しに戻ってしまうことや、破棄になることも避けられます。

また、医院継承による急な院長の交代は、患者はもちろん、スタッフにとっても良い印象を与えるものではありません。継承の際は、前院長と2人で診療を行いながら患者の引継ぎを行うことを勧めます。継承する前にある程度の期間を医院で勤務医として働きながら、スタッフとの充分なコミュニケーションを図り、患者の引き継ぎをしっかり行うことができればベストです。
こうして段階的にスタッフと患者からの信頼を得た上で継承すれば、スタッフ間との相性や患者離れなどの問題も大きく回避することができます。

さらに、医院継承では会計、税務、法務などに関する知識が必要であり、医院の形態が個人か法人かによって手続きの方法が異なってきます。こうした手続は非常に煩雑であり、手違いがあれば開業できなくなってしまう恐れもあります。医院継承には、医療制度、法律、税務、労務など様々な専門知識が必要になるため、信頼できるコンサルタントを見つけ、各種の申請や手続きに精通した専門家を選定して進めていくことも、医院継承の成功に欠かせない条件となります。

6. 医院継承は地域医療への貢献にもなる

後継者がいない医院は、いずれ廃業するしか道はありません。
特に医療資源が乏しい地域での医院廃業は地域住民にとって大きな影響を与えます。たとえばその地域に一つしかない医院が廃業することで、住民は遠くにある医療機関に通うことになり負担は大きくなるでしょう。さらに、医院が廃業になることで、他の医療機関にも影響が及ぶ場合があります。同じ地域に3つあった診療所の2つが廃業となった場合、その2つが受け持っていた患者が残りの1つに流れ込むことで、その医院が対応できるキャパを超えてしまい、医療の質が落ちてしまうなどの悪循環が生じる場合もあります。
特に医療資源の乏しい地域における医院の廃業は、住民にとっても切実な問題であり、第三者による継承開業によって医院が継続できることは、地域医療への大きな貢献となります。

今回は、新規開業だけではなく、継承開業を紹介しました。特に、医療資源の乏しい地方やへき地に目を向けると、継承開業は地域医療を守る社会貢献という側面もあります。自分の希望する立地や条件だけではなく、やりがいも含めた自分にとって最適な開業方法を考えるきっかけになればと思います。

【 記載データ・記事内容について】
※記載された内容は厚生労働省の資料などを参考に民間医局がまとめたものです。この記事の内容は下記の資料やデータなどを参照しています。

厚生労働省 平成28年 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/16/index.html

帝国データバンク 医療機関の休廃業・解散動向調査
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p150306.html

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