記事・インタビュー
藤田医科大学 ばんたね病院 統括副院長 脳神経外科 教授
加藤 庸子
近年医療業界は多様な社会的課題に直面しています。人口の少子化と超高齢化、医療費の増加、医師不足などが挙げられます。女性医師の導く革新的なアプローチは、これらの問題解決の一助になると期待されています。特に、働き方改革からくる時間外労働制限、タスクシフト、AIやロボット手術、多様性の視点からの変革が望まれています。
ー働き方改革とタスクシフト
従来、医師の働き方は過酷で、長時間勤務と時間外労働が一般的でした。女性医師の参入に伴い、ワークライフバランスの重要性がより認識され、柔軟な勤務体制の導入や時間外労働の制限が提案されています。これらの変革は、医師全体の働きやすさを向上させるとともに、長期的なキャリア形成を促進します。また、効率的な勤務スケジュールの導入により、医療の質の向上、医療事故のリスク減少も期待されています。
また医師不足の解消策として期待されているのは、診療看護師へのタスクシフトです。これは、医師が行う一部の業務を、適切に訓練された看護師が代行することで、医師の負担軽減と効率的な医療提供を促進するものです。
ーAIやロボット手術の導入
AIやロボティクスの進化により、医療の分野でも革新的な取り組みが行われています。AI、ロボット手術により、低侵襲手術の精度が向上し、患者の負担が軽減されます。また、遠隔地にいる専門家が手術をサポートすることで、地域医療の向上にも寄与します。
ー多様性の推進
女性医師の活躍は、医療現場における多様性の重要性を再認識させました。多様なバックグラウンドや経験を持つ医師が活躍することで、患者とのコミュニケーションがより円滑になり、患者のニーズに合った適切な治療法を提供できる可能性が高まりました。また、多様性を認める医師がリーダーシップを発揮し、組織内の意思決定に多様な視点を取り入れることで、医療の質も向上します。女性医師の増加により、性別や文化の違いに対する理解が深まり、患者のニーズにより適切な治療法を提供することが可能になります。医療現場における多様性の推進は、医療の質の向上とともに、医師の職業満足度や労働環境の改善にも寄与するでしょう。
ー少子化と超高齢化時代への対応
医療業界は少子化と超高齢化社会に直面しており、新しいアプローチが求められています。女性医師は、ワークライフバランスを考えながらも、高齢者向けの専門医療や在宅医療の拡充に取り組んでいます。地域と連携したネットワークの構築や予防医療の強化を進めることで、高齢化に伴う医療ニーズに対応することが重要です。女性医師のこの領域への取り組みにより、地域医療が強化され、高齢者の健康寿命が延伸されることが期待されています。
女性医師が導く医療革新は、働き方改革が追い風となり、AIやさらにIT導入で医療業界に新たな風を吹き込んでいます。これにより、より持続可能な医療システムの構築と、質の高い医療の提供が期待できます。少子化と超高齢化時代を迎える中、女性医師が果たす役割はますます重要となり、社会全体の健康と福祉に寄与していくでしょう。
さらに、女性医師がリーダーシップを発揮することは、医療組織全体の推進化を促進させます。女性は一般的にコミュニケーション能力や協調性に優れているとされています。これらの特性を生かし、医療現場におけるチーム医療の推進や患者中心のアプローチの強化が進みます。また、海外では一般的である女性リーダーが増えることで、組織内の意思決定においても多様な視点が取り入れられ、より包括的かつ効果的な政策が策定されるでしょう。何でもありのわれわれ研修医時代からみれば、今では規律が仕事への創造性を阻む可能性もある時代のようにも思います。しかしわれわれのゴールはひとつ、いかに患者様の心と病を治すかの一言でしょうか。このためには国境もなければ、むしろ国境に強固な橋をかけ世界がひとつになり立ち向かうべきことのように思います。
総括すれば、女性医師が導く医療革新は、高齢者の健康寿命の延伸含め支える貢献に相してよいものと思われる超高齢化時代への対応、医療業界に新たな風を吹き込み、女性医師の専門性とリーダーシップを生かし、より持続可能で包括的な医療システムの構築に向けて、今後も積極的な取り組みが期待されます。
加藤 庸子 かとう・ようこ
1978 年愛知医科大学卒業。2006年藤田保健衛生大学医学部で日本初の脳神経外科の女性教授、2012年日本脳神経外科学会で初の女性理事に、日本脳神経外科女医会を発足。2014年、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院、2016年より現職。公益財団法人加藤庸子国際基金 代表理事。「ゴッドマザー」と呼ばれ、3千例超の手術件数は女性外科医として世界一である。「ドクターの肖像」2013年10月号に登場。
※ドクターズマガジン2023年11号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
加藤 庸子
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