記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】自治体病院のイノベーション「独立行政法人化へ」

宮城県病院事業管理者
木村 時久

■はじめに

私は、1997年よりほぼ10年間、宮城県旧古川市(現・大崎市)の古川市立病院(現・大崎市民病院)病院事業管理者兼病院長を務めました。

当時、病院の努力目標を毎年定めており、2001年度は「Innovation(革新)」としました。今でこそInnovationは、一般的に広く用いられる言葉ですが、当時はまだ新しい言葉でした。また2006年に本誌上(№82、9月号)にて、「地域医療に望むのは“赤ひげ”にあらず。誰にでも動かせるシステムを構築したい」と述べましたが、後に同様の表題の本も見受けられるようになりました。

2007年より宮城県病院事業管理者として宮城県立循環器・呼吸器病センター、宮城県立がんセンター、宮城県立精神医療センター3病院の地方公営企業法全部適用病院(全適病院)の経営責任を負っています。

以前は全国的にも全適病院は少なかったのですが、現在は165団体335病院と、その数も多くなってきました。また、最近は地域医療提供体制が複雑化して、地方独立行政法人(公務員型、非公務員型)、指定管理者設置、民間譲渡など、自治体病院の経営形態も多様化しています。
このような多岐にわたる形態は、自治体病院の経営が困難に直面しているためと考えられます。なお、来年度より宮城県立病院も独立行政法人化いたします。

■地方独立行政法人病院の時代的要請

全国の自治体病院は地方公営企業法の一部適用ないし全部適用であります。

全適病院は病院事業管理者を置くことが必要ですが、管理者は医師でなくても可です。しかし、自治体病院の管理者の多くは医師が務めています。地域医療提供体制を構築するには、医療の専門家である医師が適切であると考えられるからです。ちなみに、一部適用病院には管理者を置く必要がなく首長が兼任します。

近年は、全適病院の多くが赤字経営になっています。全国的な自治体病院における医師不足と、診療報酬のマイナス改定(2010年度の改定では医療技術料のプラス、薬剤のマイナス改定で全体的には0.19%のプラス改定)や、薬剤購入にともなう消費税の病院負担等、自治体病院の赤字要因は依然として存在します。これらは自治体病院ばかりでなく、一般医療機関にとっても赤字の要因になります。

全適病院の管理者は合理的、能率的な経営を行うために一般の行政から分離され、独自の権限を有します。管理者は地方公営企業の業務に関しては一般的な指揮管理を受けず、病院経営に相当な自由権限を持っています。そして、職員の任命、給与、予算原案、決算書の作成、料金、使用料の徴収、借り入れ、労働協定の締結等に責任を負います。しかし、全適病院の職員人事権は地方自治体の人事部にあります。

そのほか、自治体病院特有の問題で大きいのは、病院事務職員が2〜3年ごとに病院部門以外の部門に異動することです。短期間で病院経営にあたる職員が異動するので、中長期の経営計画や経営戦略を立てづらくなります。また、有益な自治体医療を提供するには、現行の職員配置では在職期間が短く、医療専従職員が不足します。加えて、自治体の医療経営は年度予算のため、計画の実現が遅くなり(2〜3年)、早期に対応を必要とする医療現場には適していません。

これらの、全適病院の欠点を改善して、時代のニーズに合う医療提供体制をめざすのが、地方独立行政法人化(独法化)病院です。

独法化した自治体病院は現在、都道府県立14団体32病院、市町村立6団体9病院、町村組合立1団体1病院の計21団体42病院です(2010年度)。前述のように、宮城県立3病院も2011年4月1日から、全適病院から地方独立行政法人宮城県立病院機構(非公務員型)に移行する予定になっております。

自治体病院を独法化(非公務員)する最大のメリットは、地方自治体の職員定数条例による職員の削減がなくなること。これにより、病院で必要職員を雇用し、十分なサービス提供が可能な病院を構築できるようになります。

このまま地方公務員の定数条例による職員の削減が進めば、自治体病院では、医療サービスの質が低下し、医療事故等の要因にもなるでしょう。実際、全適病院では必要職員を雇用できず、不備な点を改善できない歯痒さがあります。マンパワー不足による病院革新の後れが、病院全体のマンネリズムにつながり、患者様のニーズに十分応える病院構築の弊害になっています。

自治体病院には、このようなジレンマから抜け出し、必要なスタッフをそろえ、地域が求める医療サービスを迅速に提供し、患者様に喜ばれる医療提供システムの向上と経営の改善を図ることが求められています。

■おわりに

現在は、患者様に思いやりのある医療が求められる時代です。医療人としても「和顔・愛語」の精神が求められ、医療はサービス産業であるとの自覚が大切です。単に、独立行政法人化すればいいというものではなく、経営志向型の自治体医療は時代の要請にそぐいません。思いやりと優しさのある医療を心がけると、必然的に経営はついてきます。「異体同心」なれば万事を成し、「同体異心」なれば諸事叶うことなし。日蓮の言葉の如くです。

※ドクターズマガジン2010年9月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

 

木村 時久

【Doctor’s Opinion】自治体病院のイノベーション「独立行政法人化へ」

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