記事・インタビュー
三重大学大学院医学系研究科家庭医療学・医学部附属病院総合診療科 教授
竹村 洋典
日本は、アメリカやヨーロッパのエビデンスをすぐ受け入れてしまうようにも思われる。それが科学的に信頼できるエビデンスであれば、至極もっともであるが、西洋人のつぶやきでさえも、日本において、なぜか真実になっていることもある。絶対などないと思う私には、これが不安でならない。ところで、最近、「総合診療科」の文字が紙面をにぎわすようになってきた。海外ではその存在も珍しくないから、それも参考に、いろいろな議論がされているようである。でも、日本では、そのようなジェネラリストは、どんな医師であると、日本の住民にとって、または日本の効率的な医療にとって、よいのだろう。西洋人の言っていることだけでは心配になる私は、いろいろと調査してみた、ここ日本で。
まずは、医療の包括性。提供できる医療などの種類が多いほどよさそうには思える。そこで2731人を対象に調べてみると、提供できる医療のレパートリーが狭い医師にケアを受けていると、その患者の受診頻度、入院頻度、救急車の利用回数などが増えてしまうらしい。地域のジェネラリストは、包括的なケアを提供できていたほうがよさそうである。
次に、連携度。専門医などとの連携はあったほうがよさそうに思える。741人を対象に調べてみると、いろいろな専門診療科医師と連携が取れている医師から医療を受けていると、その患者の医療への満足度は高く、医療の患者中心性も患者から高く思え、さらに、血圧などのコントロールもよりうまくいくらしい。自分で全部ケアしなくても、適宜、専門診療科との連携も重要そうである。
そして近接性。かかりつけの医師が近所にいたほうが住民は満足しそうに思える。しかし4199人を調べた結果では、重要なのは医療施設と患者の家との距離ではなく、到達するのにかかる時間のようである。近くにあっても、自宅から時間がかかるところに医療施設があると、住民は有意に医療に不満足らしい。しかも、65歳未満の若い住民がそのように思っている。さらに自宅からかかりつけ医療機関までの時間がかかるほど、有意に受診頻度、入院頻度、救急車の利用回数が増加、また健診・検診の受診率は有意に低下するも明らかになった。時間的近接性も、ジェネラリストに重要な要件らしい。
では、継続性は。1年間しか診てもらっていない医師よりも30年間も診てもらっている医師のほうが、過剰な医療の必要が少ないと思われる。しかし、調査してみると、長い間、ケアを受けている医師であろうが、短い期間しか診てもらっていない医師であっても、年齢で補正すると、その患者らの受診頻度、入院頻度、救急車の利用回数に影響がないらしい。
最後に医療の患者中心性。まず重要なこと。そもそも、患者は病気だから医師を訪れるのではない。患者が病気だと思い、医療機関にかかるほどの状態だと思ったから来院する。例えば街の診療所や病院、および大学病院で風邪患者について調べてみた。そしたら、診療所・病院では、患者の9割以上は薬をほしくて来院していた。一方、風邪で大学病院に来院する患者(このような患者もいる!)は、6割以上が検査を目的としていた。そう、大学病院に来る風邪患者は、自分が風邪だなんて思っていない。だからジェネラリストは、患者の病気の診断や治療のみならず、患者が何を考えて医師のもとに来たのか、思いをはせる必要もある。さらには、患者の思いもよらない世帯の同居家族の人数、世帯の自動車の所有、仕事の有無、年収、学歴、飲酒状況等の社会的な状況や、不安になりやすさなど心理的な状況も受療行動に有意に影響していることが、我々の調査で分かった。そう、患者背景を考慮したケアも、ジェネラリストには重要である。でも本当にこのような患者中心性が、患者を健康にしているのか?心配性の私は、3096人を対象に調べてみた。患者中心の医療を行うような医師からケアを受けていると、脂質異常症や不眠症などの患者は、確かに有意に病気が良くなるようである。一方、高尿酸血症の患者はこのような医師にケアされると、病気が悪化するようである。ただし、それでもその患者らはその医師に満足していることもわかり、日本の患者が医療に何を求めているか、まず患者に接するジェネラリストはよくよく考える必要がある。
ああ、やっぱり調べておいてよかった。日本には、日本の地域住民に適したジェネラリストが、今後どんどんと育ってほしい。
※ドクターズマガジン2013年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
竹村 洋典
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