記事・インタビュー

2020.08.26

30代の医師が開業する意義

さとう埼玉リウマチクリニック 院長
佐藤 理仁

私は、埼玉県戸田市で関節リウマチに特化したクリニックを経営しております。

私が普段から思っていることは、「1%でも将来開業する可能性のある方は、30代での開業を決断するべきである」ということです。それはなぜか? 気力や体力のピークが過ぎた50代で開業すると、社会の変化にあっという間に飲み込まれ、それまで勤務医として築いた地位や蓄えの全てを失ってしまう可能性があるからです。

医療業界は保険医療に守られたぬるま湯で、特に地方では何でも診る開業医スタイルや、生活習慣病患者の2週間処方などで成り立ってきました。しかし、2020年4月現在、新型コロナウイルス感染症の蔓延で緊急事態宣言が発出されました。その結果、院内感染を懸念したり、不要不急の外出を控えようとする患者が多くなり、前月まで患者であふれていた待合室が閑散としてしまったのです。売り上げが半減してしまったために、緊急で融資を受けたり、スタッフの給与や人数を減らしたりと、緊急対応で大慌てです。ぬるま湯体質は一変してしまいました。

多くの医療機関からは「こんなことになるなんて思わなかった」「今までこんな事態になったことがない」「早くコロナウイルス感染が終息してほしい」といった悲鳴にも似た声が上がっています。多くの開業医は、開業時に数千万円〜数千億円単位の借り入れを行います。後は返済していくだけだと思っていたら、急激な売り上げ減少・赤字転落で倒産の危機、それを乗り切るためにさらに数千万円の借り入れが必要、こんなリスクを50歳〜60歳の時にしなければなりません。しかも、現時点でコロナの終息の気配は無く、どこまで患者が減り続けるのか分かりません。

一方で「これはオンライン診療や自費診療を進めるチャンス」といった新しいことへの挑戦をしたり、「患者数はむしろ増えている」という医療機関もあります。この違いはなんでしょうか? それは二つあると考えています。一つは「今までの経験にとらわれず変化・成長していく柔軟性をトップが持っているか」、二つ目は「本当に必要性のある医療は残る」という点です。そしてその両方を持っているのは30代の若手院長だと私は思います。

〜今までの経験にとらわれず変化・成長していく柔軟性〜

私もそうですが、人間は過去の経験から物事を判断し、その範囲内で行動しがちです。特に過去の成功体験に縛られています。そこから出て新しいことに挑戦すると失敗するかもしれない、という恐怖が生まれます。その結果、人間は新しいことに取り組まなくなります。その道のベテランであればあるほど、年齢を重ねるほど、自分の成功体験がより強固に確立し、失敗により失うものが大きくなる傾向があると思います。今まさに組織のトップである院長が「今までの経験にとらわれず変化・成長していく柔軟性」を持っているかどうかが、医療機関が生き残るかどうかの分かれ道になっていると思います。

〜本当に必要性のある医療は残る〜

患者は緊急事態宣言によってなぜ来なくなったのでしょうか? 自粛すべき不要不急の中に医療機関の受診は入っていないため、本来なら今まで通りに受診をしてくれるはずです。その答えは、厳しいようですが、「今まで患者に価値を届けることができていなかったので、クリニックを受診することは不要不急であると患者が判断した」ということなのでしょう。受診をして得られる価値と、通院や待合室での感染への恐怖を患者が天秤にかけ、残念ながら負けてしまったということです。これは私自身も戒めとして感じています。

これはたまたま新型コロナウイルス感染症により表面化しただけで、今起きたのではなく問題はずっと昔からあったのかもしれません。これからは患者に不要不急と判断されてしまうような、3分診療や、Do処方、薬局で買えるような風邪薬や花粉症薬などのための診療は難しくなってくると思います。これからの変化の激しい時代をむしろ楽しんでチャンスに変え、より患者に価値ある医療を提供することが必要です。ここでしかできない圧倒的な価値を提供できる専門性が高い医療、対面診療をしたくないというニーズに応えるオンライン診療、保険診療ではできない最先端医療技術を用いる自費診療など、本当に必要性のある医療を提供できる30代の院長が活躍する医療機関が求められることを確信しています。

さとう・みちひと

2007年昭和大学卒業。昭和大学リウマチ・膠原病内科から日本赤十字社医療センターアレルギー・リウマチ科、埼玉メディカルセンター膠原病内科を経2016年にさとう内科ファミリークリニック開院。2018年にさとう埼玉リウマチクリニックに名称変更し現在に至る。「関節エコーでの診断」と「生物学的製剤での治療」に力をいれている。

※ドクターズマガジン2020年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

佐藤 理仁

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