記事・インタビュー

2021.04.26

【Doctor’s Opinion】“ 新型コロナウイルス ”

医療法人社団 山崎会 サンピエール病院
理事長・院長

山崎 學

 2019年中国湖北省で新型コロナウイルスによると思われる肺炎を最初の患者(55歳)が発症した。中国政府により感染症情報は秘匿され、11月下旬には39〜79歳の男女9人の感染が確認され、12月31日には感染者が266人に達し、同日中国政府は「原因不明のウイルス性肺炎」で27人が発症したことを公式に認めた。

医療現場では12月30日に武漢市中心病院の女性医師が肺炎の原因を「重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス」と診断した検査報告書を見て危機感を抱き、報告書の写真を友人8人に送信し、グループチャットで情報が拡散した。しかし、警察当局は「デマを流した」として8人を処分し口止めした(3月14日産経新聞)。
その後、新型コロナウイルス感染症は中国全土に飛び火し、春節と相まって世界的な大流行に発展した。発生源については武漢の疾病対策センターからのウイルス漏出、武漢ウイルス研究所で人工的に組み込まれたウイルス漏出、武漢海鮮市場で売られている動物由来からの感染と諸説入り乱れている。

この新型コロナウイルス感染症についてテドロスWHO事務局長は中国政府寄りの発言に終始し、「ヒトヒト感染はない」「世界的規模のパンデミックには発展しない」という寝ぼけた答弁により対応が後手に回り、結果として欧州全土が新型コロナウイルスで汚染されてしまった。感染が欧州全土に広がると、加盟各国は「シェンゲン協定」を無視して国境封鎖に走った。戒厳令扱い並みの外出禁止借置により、生産活動は停止し、経済活動も大幅に制限される結果となった。わが国においては武漢からの帰国者については分散管理が成功し、欧州のように感染は広がらなかった。しかし1月下旬のダイヤモンド・プリンセス号については「水際作戦可能」と判断し、上陸させないで船内対応をとり、結果として721人という大量の感染者を生み出す結果になった。

医療現場でも感染を恐れて外来受診回数が極端に少なくなり、小児科、耳鼻科、整形外科を中心に大幅に収入が減少している。外来患者の減少は入院患者減少となり、病床利用率も低下している。また、重症患者を受け入れている病院は新患・救急患者を受け入れる余裕がなくなり、医療従事者の疲労も限界に達している。
今回の感染拡大で地域の2次救急病院も借り上げて対応し、一定の効果が出たところで経済活動を再開して再び感染拡大を引き起こすといったいたちごっこが続いている。

こうした状況下で政府は補正予算を組んで国公立病院をはじめ、民間病院にも病院経営、院内感染予防について大規模な補助を組んだが、収まる勢いを見せない感染拡大で終息宣言が出せない状況が続いている。新型コロナウイルス感染症は情報不足の中でSARS・MERSと同じ感染症法二類感染症に指定されたが、いまだ特効薬、ワクチンが開発されない割には経験則での治療法が次第に確立され、重症化率も大きく改善し、欧米に比べると死者数も大幅に少ない。

マスコミも90%を占める無症状の患者数を毎日報道して、むやみに国民の不安をかき立てるのをそろそろやめなければならない。人口呼吸器、人工心肺装置を装着している重症者数を都道府県別に報道するべきであろう。また、時間軸で変異するウイルスに対応するワクチンに対して、過大な期待を持つことは危険である。
今まで人類が経験したことのない遺伝子ワクチンを拙速な治験結果に基づいて国民に接種するのは大きなリスクを伴う行為である。

新型コロナウイルス感染症に対しては3密を避け、マスク着用、手洗いといった基本的な感染予防の原則を徹底して守り、地域的な発生については重症化リスクを回避する程度の生活態度で十分と思われる。現在は終息宣言を出せる状況下にはなく、新型コロナウイルス感染症と共存しながら経済・生産活動を続けていくことが現実的な選択と思われる。

やまざき・まなぶ

1966年日本大学卒。1977年防衛医科大学校専任講師、日本大学医学部精神神経科兼任講師を経て、1982年医療法人慈光会慈光会病院
理事長・院長に就任。2010年社団法人日本精神科病院協会会長就任。社会福祉法人宏志会天界園理事長、群馬県精神保健指定医、厚生労働省認知症サポート医。

※ドクターズマガジン2021年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

山崎 學

【Doctor’s Opinion】“ 新型コロナウイルス ”

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