記事・インタビュー
国際医療福祉大学救急医学 主任教授・同成田病院 救急科部長
志賀 隆
「志賀先生、それは上から目線ですよ」
と友人から忠告をされたことがありました。
それは私が、「あの方は、上品ですね」と発言したときでした。確かに私は知らないうちにバイアスを持ってしまい、人の外見や雰囲気を上から目線で評価していたのかもしれません。多様性についての自分の勉強不足を感じたところでした。
医療の現場でも、救急医の私は日々多様性と接しています。特に、われわれが接するのはお困りのことが多い患者さんです。空港の近くにある私の病院には、旅行中や技能実習の外国の方も多くいらっしゃいます。また、独居で孤立してしまった日本人、貧困で苦しんでいる方もいらっしゃいます。今の職場で一緒に学ぶ・働く皆さんも、7人に1人は外国からの医学生や日本各地・アジアからの研修医など、若い学習者も多様化しています。
●人工知能を活用する世代とのコミュニケーション
デジタル化に対する対応も世代によって多様化しています。DXの最たるものとしては人工知能でしょう。ChatGPT を使えば、多くの大学のレポート課題などはできあがってしまいます。われわれもAI対策サイトなどを使ってみることもありますが、AIのほうが遥かに進歩が速いでしょうから、AIと共に学ぶ時代になるのでしょう。
研究の領域でも、AIで論文の作成が可能になってきている、という報告もあります。医師はどうやって生き残るのかを考える必要がありますよね。もちろん、言語処理や画像処理に必要な教師データを作ることができる能力も大事ですね。AIが判断するルール自体を作る仕事、新しい領域や産業を作る独創的な発想や創造の力、人との関係性を作ること、救急のように問題が何か分からない中で徐々にチームで解決策を見出す力、一人一人に個別化された治療のオプションを考えて実行する力、などなのでしょう。
●人工知能を活用する世代とのコミュニケーション
― 多様性はどんどん増えていく ―
多様性は今後どうなるでしょうか? 増えていきますよね。2015年ごろにCOVID-19による社会変化を予想できた方はいなかったでしょう。コロナ禍以前にはワクチンを忌避する社会の流れもありました。その中で、政府の対応には限界がありました。既存システムの限界の中、「こびナビ」のようにプロボノの団体が社会貢献として科学的知見を集めて解釈をして、コラボレーションを繰り返し、見事なリスクコミュニケーションを体現しました。
アサーティブネスという言葉は聞き慣れないかもしれませんが、互いに意見を主張しあって妥結点をうまく見つけ進めていくコミュニケーションスタイルのことです。今は、知事とインフルエンサーがTwitter上で激論を交わす、そんな時代になっています。医療の世界でも、かつては「立場・役職が」「品格・品位が」などという視点もありましたが、EBMの流れでどんどん科学的な妥当さ・頑健さが重要視されるように変化しています。過去の「型」にこだわる生き方をして、「何が効率良く社会貢献につながるのか?」という視点が抜けていると、多様性のある社会では生きていけないと考えています。良い忖度はあっていいのですが、悪い忖度は萎縮を招きます。結果として「多様なアイデアが出てこない・採用されない」、手続きにお金や時間がかかるため「既得権益層が居座ってしまう」という現象が日本の医療でもあるかと思います。激変する社会への柔軟性としては、?がつきます。
現在、都内のコンビニエンスストアで外国の方にお目にかかることは珍しいことではなくなっています。外国から働きにきている皆さんにとって日本が魅力的である必要があります。また、少子化で人口が減るのならば、われわれの医療技術も海外を見据えていかねばなりません。過去の栄光は思い出にして、我々はどんどんと変化する社会の中で、若い世代や外国の皆さんを「リバースメンター」として、日々学ぶ必要があるのでしょう。
逆行するようですが…昭和世代の私は高田純次さんというベテランの俳優が好きです。彼が言っていたのは「自慢話をしない」「昔話をしない」「説教をしない」という三つの原則です。昭和の方ですが、多様性の中で生きるうえでは、私もこの点が大事だと思っています。
冒頭のエピソードですが、ご指摘を受けて「気品のある方」という表現に変えました。成長を妨げるバイアスを棚卸しして、学び続けることを大事にしたいと思っております。
志賀 隆 しが・たかし
2001年千葉大学卒業。東京医療センター初期研修医、在沖米国海軍病院、浦添総合病院救急部を経て、2006年米国ミネソタ州メイヨー・クリニック研修医、2009年ハーバード大学マサチューセッツ総合病院指導医。2011年より東京ベイ・浦安市川医療センター救急科部長。2017年7月より現職。後進の育成に熱く力を注いでいる。
※ドクターズマガジン2023年7号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
志賀 隆
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