記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】医師と住民が語り合うことが地域病院を支える

国民健康保険藤沢町民病院事業管理者
佐藤 元美

 私にとって、医療でいちばん大切なことは、人の役に立つということです。私は自治医科大学を卒業後、岩手県沿岸の2つの県立病院で内科医として仕事をしました。診断と治療だけを行い、退院後の生活をサポートしない医療では、そのまま人の役に立つことは難しいと感じました。

卒後13年目に、岩手県藤沢町から保健医療福祉を統合したサービス提供をめざし、新病院をつくりたいのできてほしいと誘われました。37歳の私は、自分のマネジメント能力と経験のなさを十分に自覚しながらも、予防と連携して防げる病気は予防し、診断と治療が終わっても、さらに生活を支える施設や在宅での介護も一体的に運営できたら、自分の知識や能力が人の役に立っている実感が得られるのではないかとの期待に負けて承諾しました。医師不足の岩手で医師を集め病院を開設するのは本当に困難な仕事でした。しかし、母校や近隣の県立病院、医師会の先生方の支援を受け、どうにか1993年7月に国民健康保険藤沢町民病院は診療を開始しました。予防の分野では保健センターの保健師と連携して禁煙活動を行い成果が見られました。介護との連携では病院に隣接して以前からあった特別養護老人ホームに、1996年には新たに老人保健施設、その後、認知症のためのグループホーム、訪問看護ステーションなどを加えられました。それぞれの施設に病院の医師をあて、病院と一体になったサービス提供をめざしてきました。

医療の質改善のためにさまざまな試みを行ってきましたが、中でも藤沢町で適していると思われた方法は、意外なことに住民と医療者が話し合うことでした。病院ができて1年をすぎたころから病院へのクレームが増大しました。内容は、無診察投薬を認めてほしいということと、長すぎる待ち時間について。「町民病院は無診察投薬を認めない方針だから待ち時間の長い不便な病院になっている」という不満でした。無診察投薬について診察室で議論をすることは不毛でした。

そこで、診察室を飛び出し、患者としてではなく住民として医療を考えてもらおうと企画したのが地域ナイトスクールです。農業が忙しくない秋から冬にかけて、町内を3から10ヵ所に分け、夜に病院から大勢のスタッフを引き連れて地域の集会所に出かけ、住民と医療のあり方について議論をしました。無診察投薬は危険で不法で病院にとっても利益にならない医療であることを説明し、病院が健全に発展していくためには排除すべきと主張しました。また、病院がなくなっていちばん困るのは住民であり、住民こそが医療を育てて守っていく当事者であると話しました。住民の理解は驚くほど早く、無診察投薬を求める患者はほとんどいなくなりました。

それに気を良くして、時間外診療の利用についての適正化や増大する自己負担金の未払いなど、モラルに関連することも翌年のナイトスクールで議論しました。それらからも大きな成果が得られました。これまで15年間継続してきたナイトスクールの議論から、住民の自発的な活動として「町民病院を守る会」がつくられました。また、若い研修医と住民との交流の場として、研修医の研修報告会を町民に公開し、研修医と町民が意見交換を行う意見交換会も定期的に行うようになりました。

当初は診察室で解決できない問題を地域で解決したいという思いで始めたナイトスクールですが、今、振り返ってみると町民病院の仕事を地域と時代に適合させていくためのダイナミックな改善運動でもありました。誰かの役に立っている、誰かの幸せのためになっていると実感できる医療は、地域で住民と議論して毎日の仕事の中に組み込んでいくことで実現できました。

私は若い医師にあまり説教をしません。院長の顔を見ていても良い医療はできないからです。訪問医療やナイトスクールなどの機会に地域住民に接して地域から病院を見ることで、どのような医療が求められているかを知り、必要な知識や技術を身につけていくことが良い医療には欠かせないと思います。今は、できないことをできるようにすること、知らないことをわかるようになるには、たいへんな努力が求められる時代です。住民に信頼され、上司に信頼されて、初めて自分を信頼することができる若い医師も少なくないように見えます。

医師などの医療提供者の狭い議論から飛び出して、地域住民に「私たちの医療はあなた方の役に立っているでしょうか?」と問う柔軟な姿勢が、今、もっとも欠けているのではないでしょうか。

※ドクターズマガジン2010年11月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

 

佐藤 元美

【Doctor’s Opinion】医師と住民が語り合うことが地域病院を支える

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