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2022.02.15

医学部で教えてくれない労働基準法~働くときに重要な3つのこと~ Vol.1

医学部で教えてくれない労働基準法

コロナ禍で、医師の働く環境と条件が激変しています。さらに2年後の2024年4月からは、労働基準法の改正の一部(時間外労働の上限規制)が医師にも適用となります。労働基準法は「働く人の健康や権利を守る法律」の1つで、自分や家族を守るために非常に重要です。ところが、医学部在学中や研修中に労働基準法や働き方について学ぶ機会はほとんどありません。今回は、医学生に知ってほしい「働くときに重要な3つのこと」をご紹介します。

★時間外・休日・深夜の勤務は割増報酬になる

勤務医・研修医は労働者であり、1日8時間、週40時間が基本的な労働時間(法定労働時間)です(開業医や雇用主は労働者ではないので労働基準法は適用されません)。
法定労働時間を超えた時間は「時間外労働」となります。
時間外労働や休日・深夜労働に対しては、賃金を増やすことが労働基準法で義務化されています(図1)。医師・医療者であっても、法定労働時間を超えて働かせる場合は「36協定」を雇用主と労働者の代表(または労働組合など)で締結し、労働基準監督署長に届ける義務があります。

図1. 労働基準法で定められた割増賃金

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdfより引用

ちなみに年俸制や管理職(部長職等)であっても、残業代を請求できる場合があります。年俸制の場合は「基本給と残業代が明確に区別されていない」場合や「実際に働いた分の残業代が、年俸制のなかの規定された残業代より多い」場合は、追加で残業代の請求が可能です。管理監督者は、実際に「出社や労働時間が本人の自由な裁量に任されている」「地位や給与で特別な待遇がされている」ことが重要で、これらに当てはまらない「みせかけの管理職」の場合は、残業代の請求が可能です。また、管理監督者であっても深夜割増賃金や有給休暇は請求することができます。

★落とし穴★

医師の場合、当直の時間を夜勤とするか「宿日直」とするかで、労働時間や給料が大きく変わります。時間外労働を「宿日直」とすると、時間外労働の割増賃金、休日手当を支払う必要はなくなり、労働時間にも含まれません(ただし、宿日直でも夜間の割増賃金は支払う必要があります)。
宿日直は雇用主に有利な制度のため、宿日直でできる内容は厳格に決まっています。
また事前に宿日直とする勤務を労働基準監督署に申請して労働基準監督署長の許可を得ることが必要です。
許可を得ていない場合は宿日直とすることはできません。

★働くときに重要な3つのこと

1.労働時間を記録しよう

未払いの給料を過去にさかのぼって請求するにも、労働基準監督署に申告するにも、弁護士に相談するにも、労働時間の記録は必須です。タイムカードが理想的ですが、日記でもスマホのアプリでも構いません。

参考:1分で分かる労働時間の記録方法(動画)

 

K・I・R・O・K・U・S・H・I・R・O(記録しろっっ・・・!)
制作:ブラック企業被害対策弁護団
YouTubeの説明文のところに解説があります

2.雇用契約書(労働条件)を確認・保存しよう

雇用主は、労働条件(労働期間・就業場所・業務内容・賃金・退職の条件など)を必ず明示しなければならないと労働基準法で定められています。原則は書面で渡す必要がありますが、2019年4月からは電子メール等でも明示できるようになりました。労働条件について知らされていない場合は、雇用主に雇用契約書等を請求してみましょう。

3.36協定、宿日直許可の有無を確認しよう

時間外労働や休日・深夜労働をさせるには36協定の締結が必要で、宿日直を医師にさせる場合は宿日直許可を労働基準監督署に申請する必要があります(申請していない場合は違法になります)。当直を「宿日直」扱いにすると、時間外労働にカウントされず、割増賃金が支払われなくなるため報酬が大幅に減ることになります。所属する施設が労働基準監督署から宿日直許可を得ているのか、確認してみてください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
労働基準法は、自分や同期、家族を守るために非常に大切なものです。
ぜひ働く前に一度チェックしてみてください。

もっと詳しく知りたい方へ

1.労働基準法-管理監督者編- 東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501863.pdf

2.労働基準法-割増賃金編-  東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf

3. 医師の宿日直許可基準・研鑚に係る労働時間に関する通達 厚生労働省労働基準局長
令和元年7月18日
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000530052.pdf

4. 平成31年4月から、FAX・メール・SNS等での労働条件の確認ができるようになります
https://www.mhlw.go.jp/content/000481175.pdf

<プロフィール>

柴田綾子 (しばた あやこ)先生
施設名:淀川キリスト教病院 産婦人科
役職:医長
大学時代にバックパッカーとして15カ国を旅行し、沖縄で初期研修に参加。2013年より現職。
著書:『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社、2017)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂、2020)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社,2021)
私自身の婚活話については(ほとんどニーズはないと思いますが)、もし希望者がいたら追加で執筆しますので編集部へリクエストをお願いします。

柴田 綾子

医学部で教えてくれない労働基準法~働くときに重要な3つのこと~ Vol.1

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