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2022.02.22

初期研修中に知っておきたい労働基準法の3つのこと Vol.2

初期研修中に知っておきたい労働基準法の3つのこと Vol.2

コロナ禍でさまざまな変更と制限を余儀なくされ、初期研修が非常に大変になっていると思います。なかにはスタッフの不足によって長時間労働などが必要になっている職場もあるかもしれません。長時間労働や夜間勤務、そして感染のリスクによって心と体に大きなストレスと負担がかかっています。労働基準法は「働く人の健康や権利を守る法律」の1つで、自分や家族を守るために非常に重要です。ところが、研修中に労働基準法について学ぶ機会はほとんどありません。今回は労働基準法のなかでも「研修中に知っておきたい3つのこと」をご紹介します。

1.未払いの給料や賃金は過去にさかのぼって請求できる

長時間労働や休日返上での勤務、給料が支払われていないのを諦めていませんか?
未払いの給料や賃金は過去にさかのぼって請求することが可能です。
2020年4月から未払い賃金を請求できる期間が「3年間」に延長されました(1、2)。請求できる賃金のなかには、時間外・休日労働の割増賃金、年次有給休暇中の賃金、休業手当も含まれます。
また、退職金請求権の消滅時効期間は5年です。
退職時には、これまでの賃金が適切に支払われていたか確認してください。
もし退職時に適切に支払われていないことが判明したら、さかのぼって請求することが可能です。請求に応じてくれないなど悪質な場合は、未払い額に利息をつけて(遅延損害金)、追加で請求することもできます。事業者には、賃金台帳などの記録を3年間保存することが義務づけられています。

2.労働基準法違反は、労働基準監督署に相談と申告ができる

ブラックな労働環境が多い医療界ですが、労働基準法違反に対しては誰でも労働基準監督署に相談や申告ができます。長時間労働、賃金不払い、求人情報と実際の労働条件に大きな乖離がある場合などに、労働基準監督署へ情報提供することが可能です。

 ①相談をする場合 
・誰でも匿名で、無料で可能
・メールや電話で行う
・労働基準監督署が立入調査をするかどうか検討してもらえる
・原則は労働基準監督署から返信や回答はもらえない
(ただし、申告時に連絡先と氏名を記入しておくと後日連絡がくることがあります)
・実際に労働基準監督署が介入するという保証はない

 ②申告をする場合 
相談に加えて、実際に労働基準監督署に対応を求めたいときに行います。この場合は、労働基準法に違反していることが分かる証拠(タイムカードや給料明細等)を持参して、管轄の労働基準監督署を直接訪問する形になります。自分1人で行うのが難しい場合は、弁護士などに相談・依頼することもできます。申告をする場合は、自分の名前(実名)や住所などを申告用紙に記載して提出する必要がありますが、労働基準監督署には守秘義務があるため、雇用主や事業者に知られてしまうことはありません(が、その他の原因により知られてしまう可能性はあります)。

<労働基準監督署への相談や申告窓口>
●メール
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/mail_madoguchi.html
●電話&直接訪問
https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shozaiannai/roudoukyoku/index.html

3.有給休暇は、1年間に5日間は必ず取得できる

労働基準法の改正により、2019年4月から「1年間に有給休暇を5日間(以上)取得すること」が義務づけられました(注)。これは雇用主に対する義務なので、もし労働者に5日間の有給休暇を取得させていなければ、雇用主は労働基準法違反として30万円以下の罰金が科されることがあります。有給休暇は「労働者本人が希望した時季に与えること」が原則とされていますが、もし有給休暇の取得希望日が重なって勤務継続が難しい場合には、雇用主は他の時季に変更することができます(ただし1年間に5日間は必ず取得させなければいけません)。また、有給休暇の時効は2年間で、前年度に取得できなかった場合は翌年度に繰り越せるので、「取得できなければ消滅」というわけではありません。

※注意
詳しくは、①雇入れの日から6か月継続して勤務し、②全労働日の8割以上出勤している労働者に対しては、原則として有給休暇を1年に10日間は必ず与えなければならない、そのうち5日間は必ず取得させなければならないとしています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。実は2年後の2024年からは、労働基準法における「時間外労働の上限規制」が医師にも適用となるため、働き方がいろいろと変わることが予測されています。ぜひ一度、労働基準法についてチェックしてみてください。

もっと詳しく知りたい方へ

1. 未払賃金が請求できる期間などが延長されています 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf
2. 改正労働基準法等に関するQ&A. 厚生労働省労働基準局. 令和2年4月1日
https://www.mhlw.go.jp/content/000617980.pdf
3.労働基準法-管理監督者編- 東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501863.pdf
4.労働基準法-割増賃金編- 東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
5. 医師の宿日直許可基準・研鑚に係る労働時間に関する通達 厚生労働省労働基準局長
令和元年7月18日
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000530052.pdf
6.年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説. 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf

<プロフィール>

柴田綾子 (しばた あやこ)先生
施設名:淀川キリスト教病院 産婦人科
役職:医長
大学時代にバックパッカーとして15カ国を旅行し、沖縄で初期研修に参加。2013年より現職。
著書:『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社、2017)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂、2020)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社,2021)
私自身の婚活話については(ほとんどニーズはないと思いますが)、もし希望者がいたら追加で執筆しますので編集部へリクエストをお願いします。

柴田 綾子

初期研修中に知っておきたい労働基準法の3つのこと Vol.2

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