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2022.03.24

医師として知っておきたい「応召義務」について Vol.3

医師として知っておきたい「応召義務」について Vol.3

「医師には応召義務(応招義務、おうしょうぎむ)があるから患者の診察は拒むことができないはずだ!」と言われても、例えば自分の専門外だったり、勤務時間外だったり、診療に協力が得られない患者の場合はどうしたらいいのでしょうか。
医師法19条には「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とあり(1)、これが応召義務の根拠とされています。
ただし「どんなときでも医師は患者の診察をしなければいけない」という理解の仕方は正しくありません。今回は、医師にとって「診療義務が発生するときと免除されるとき」について解説していきます。

1.応召義務によくある誤解

応召義務についてのよくある誤解は、「患者はどんなときでも医師に診てもらう権利を持っている」というものです。じつは、応召義務は医師と患者のあいだに発生しているものではありません。そのため、応召義務を理由に、患者が医師に診療を求めるのは困難と解釈されています(2)。応召義務は、医師が国に対して負っている義務であり、患者に対して負っている義務ではありません。これは勤務医(図1)でも開業医(図2)でも同じです(2)。

 図1. 勤務医の応召義務 

厚生労働省, 医師の応召義務について 第10回 医師の働き方改革に関する検討会 資料
平成30年9月19日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000357058.pdf

 図2. 開業医の応召義務 

厚生労働省, 医師の応召義務について 第10回 医師の働き方改革に関する検討会 資料
平成30年9月19日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000357058.pdf

2. 診療を拒むことができる状態とは

医師は患者に対する応召義務はないと言いつつも、医師法19条では、「診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」としています。

これに対して厚生労働省は2019年12月25日に応召義務に関する通知を出しました(3)。
そこでは、以下のような「正当な事由」があれば、診療を拒むことができるとしています。

1) 診療時間外・勤務時間外の対応

自分の診療時間外・勤務時間外のときは、緊急対応が不要な病状が安定している患者については、診療しないことが可能です。ただし、患者に時間内に再度受診するよう依頼したり、他の診察可能な医療機関への紹介等の対応をとったりすることが望ましいとされています。一方、同一状況下での緊急対応が必要な救急患者に対しては「応急的に必要な処置をとることが望ましいが、原則、公法上・私法上の責任に問われることはない」と明記されました。

2) 迷惑行為のある患者

診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続けるなど、医師-患者間の信頼関係が喪失している場合には、診療を行わないことが認められます。

3) 意図的に医療費の支払いを拒む患者

「支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される」と明示されました。

4) 労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等

勤務医は、あらかじめ決められた労働契約や労使協定の範囲を超えた診療指示等を受けた場合に、結果として労働基準法等に違反することになることを理由に診療等を拒否できるとされました。

5) 専門外の疾患の場合

診療時間内・勤務時間内の場合、「専門性・診察能力、当該状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関等による医療提供の可能性(医療の代替可能性)を総合的に勘案しつつ、事実上診療が不可能といえる場合にのみ」診療しないことが認められます。
*緊急対応が必要でない場合は、「事実上診療が不可能といえる場合にのみ」という文言は入っておらず、診療拒否の正当化は緩やかに判断される

まとめ

いかがでしたか。「医師には応召義務があるから患者を診察する」というのは、上述のように、一部の条件下では免除されます。これは、医師の働き方改革として長時間労働や過重労働の改善を目的に、現在の医療体制に合わせて法律の解釈を検討した結果です。ぜひ一度、医師の応召義務について確認をしてみてください。

もっと詳しく知りたい方へ

参考文献
1. 医師法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201
2. 厚生労働省, 医師の応召義務について 第10回 医師の働き方改革に関する検討会 資料 平成30年9月19日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000357058.pdf
3. 厚生労働省, 応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について 令和元年12月25日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf

<プロフィール>

柴田綾子 (しばた あやこ)先生
施設名:淀川キリスト教病院 産婦人科
役職:医長
大学時代にバックパッカーとして15カ国を旅行し、沖縄で初期研修に参加。2013年より現職。
著書:『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社、2017)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂、2020)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社,2021)
私自身の婚活話については(ほとんどニーズはないと思いますが)、もし希望者がいたら追加で執筆しますので編集部へリクエストをお願いします。

柴田 綾子

医師として知っておきたい「応召義務」について Vol.3

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