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2022.05.30

アルバイトを始めるときに知っておきたい4つの注意点 Vol.5

アルバイトを始めるときに知っておきたい4つの注意点 Vol.5
医師免許を取得すると、たくさんアルバイトをして稼ぐことができる、と考えている方もいらっしゃるでしょう。ここでは実際にそうなったときに、注意が必要な4つの点について解説します。
まず、一般的に医師が診療に関するアルバイトを開始するのは、2年間の初期研修が終了してからとなります。これは医師法16条(注)で、診療に従事しようとする医師は2年以上臨床研修を受けなければならないとされているためです。医学部を卒業し国家試験に合格すると、医師免許を取得し医療行為ができるようになります。しかし、この時点では自分一人の責任では臨床行為や開業をすることはできません。まず初期研修として指導医の下で診療にあたります。その2年間の初期研修を終了することで、初めて自分の責任のもとに診療行為が行えるようになります。それと同時に保険医の登録申請を行い保険医登録票の交付を受けると、保険診療が可能となります。なお、医療行為をする場合、万が一医療事故がおきてしまったときのために賠償保険は必須です。自分が加入している賠償保険がアルバイトの場合でもカバーできるかを確認しておきましょう。
注釈:医師法16条2「診療に従事しようとする医師は、二年以上、都道府県知事の指定する病院又は外国の病院で厚生労働大臣の指定するものにおいて、臨床研修を受けなければならない。」

アルバイトの契約をするときに注意が必要な4つの点

医師アルバイト

さて、アルバイトを開始するときには雇用契約を結ぶ必要があります。雇用契約書に印鑑を押す前に、契約内容を十分に確認しましょう。特に以下の4点については注意が必要です。

1.雇用契約なのか業務委託なのか

たとえば今、募集の多い新型コロナウイルスのワクチン接種業務などは業務委託になっていることも多くあります。この2つの契約形態には以下のような違いがあります。


・雇用契約
その施設で使用者が相手を労働者として雇う契約です。雇用契約の場合、労働者は労働保険(労災保険と雇用保険)、社会保険、有給休暇の取得、残業代の請求、一方的な解雇の禁止など労働基準法で規定された権利を得ることができます。


・業務委託

フリーランスなどの個人に対して、施設から特定の業務を委託する契約です。施設が労働者として雇用するわけではなく、独立した事業者間での契約となり、委託された個人は、該当の業務を完成させることで報酬を得ます。そのため、労災保険の適用や残業代などの請求は一般的には難しいとされています。
2.給与形態

給与形態が日給制(1日あたり〇円)なのか時給制(1時間あたり〇円)なのか、もしくは月給制なのか年俸制なのかを確認します。
年俸制の場合は、残業代が含まれているのか、固定残業制(報酬の中に一定の残業代を含んでいるとするもの)なのかも注意が必要です。
施設側(もしくは使用者)に多く誤解されているのは「年俸制なので残業代や当直代は支払わなくてもよい」というものです。しかし実際には、年俸制でも規定された労働時間外の労働に対する残業代や当直代の支払いは必要となります。また固定残業制の場合は、就業規則や賃金規程において、残業代として含まれるものの詳細を事前に施設側(もしくは使用者)が明記しておくことが必要です。そのため、月給制や年俸制の場合はそこに当直代や各種手当が含まれているのかを確認します。

3.雇用期間と退職の取り決め

雇用期間の開始と終了が決まっているもの(有期雇用契約)であるか、雇用期間の終了が明記されていないもの(無期雇用契約)であるかを確認します。
退職する場合、有期雇用契約では「やむを得ない」事情が無い限り、契約期間中は働く必要があります。一方、無期雇用契約では労働者からの意思表明によって、いつでも退職をすることが可能です。民法では、退職の申し出は2週間前(民法627条:注)とされていますが、雇用契約や就業規則に、別の記載(例:退職する3ヶ月以上前に申し出なければいけないなど)があれば、そちらが優先されます(2)。
※注釈:民法には「雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了」という記載がある

4.所属施設への報告や確定申告

2024年4月から、医師にも働き方改革関連法の時間外労働の上限規制が適用されます(医師以外の方には2019年から適用:注)(3)。労働時間の中には、主となる所属先以外での勤務時間も含まれる形で議論が進んでいます。また「勤務間インターバル」として
注:大企業は2019年から、中小企業は2020年から適用になっている

・通常の日勤後の次の勤務までに9時間以上のインターバルを確保すること
・当直明けの日については、28時間までの連続勤務時間制限を実施した上で、次の勤務までに18時間以上のインターバルを確保すること

などのルールがあります(3)。主となる勤務先では、これらのルールから逸脱していないか確認が必要となっており、アルバイト等の勤務時間の報告が求められることがあります。また「複数の勤務先から収入があり、それらの所得の合計が20万円以上の場合」は確定申告をしないと脱税となってしまいます。年末に渡される源泉徴収票を無くさないように保管し、確定申告を忘れずに行なってください。

参考文献
1. 保険診療の理解のために【医科】 平成30年度 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/dl/shidou_kansa_01.pdf
2. 仕事を辞めるとき、辞めさせられるとき 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000171203.pdf
3.医師の勤務実態把握マニュアル 第13回 医師の働き方改革の推進に関する検討会、令和3年8月4日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000806377.pdf

<プロフィール>

柴田綾子 (しばた あやこ)先生
施設名:淀川キリスト教病院 産婦人科
役職:医長
大学時代にバックパッカーとして15カ国を旅行し、沖縄で初期研修に参加。2013年より現職。
著書:『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社、2017)、『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂、2020)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社,2021)
私自身の婚活話については(ほとんどニーズはないと思いますが)、もし希望者がいたら追加で執筆しますので編集部へリクエストをお願いします。

柴田 綾子

アルバイトを始めるときに知っておきたい4つの注意点 Vol.5

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