記事・インタビュー

2023.08.31

3Rで整理する 輸液の基本の「き」 ~Redistribution:低K血症の補正~

はじめに

輸液の3Rのうち、前回からはRedistributionである補正を取り扱いました。特にあえて無視されがちな酸塩基平衡である代謝性アルカローシスを扱いました。今回も同じくRedistributionで、代謝性アルカローシスに次いで頻度の高い、代謝性アシドーシスを扱います。特に比較的悩みやすいであろうポイント、反射的になんとなくやってしまいがちなポイントについて、皆さんと学びを深めたいと考えています。

【症例】

56歳男性。アルコール依存症の各種問題で入退院を繰り返している。精神科通院もドロップアウトしがちな方である。数日前から連絡がとれないとのことで、会社の同僚が見に行くと、患者が家で倒れて動けない状態であり、救急搬送された。既往歴はアルコール依存症で、現在内服薬はないとの自己申告であった。

来院時のバイタルサインは以下の通り:JCS Ⅰ-3、血圧100/68mmHg、心拍数 92回/分 整、呼吸数14回/分、SpO298%(室内気)。すぐに血液ガスをとったところ、以下の所見であった。動脈血液ガス:pH 7.51 PaO2 80Torr, PaCO2 44Torr, Na 130mEq/L, K 1.4mEq/L, Cl 88mEq/L,でHCO3 34 mEq/Lあった。またECGでQTc: 0.58のQT延長が目立った。

テーマ予定

シリーズ1. 輸液の適応を3Rで整理する

シリーズ2. 救急外来でのリアルワールド輸液を再考する:Non criticalとCriticalに分類

シリーズ3. Resuscitation:Criticalな患者の輸液総論~“ROSD” 敗血症を例に~

シリーズ4. Resuscitation:敗血症のOptimization phaseをどう乗り切るか?~特に侵襲的モニタリングなし~

シリーズ5. Resuscitation:敗血症のStabilizationやDe-escalation phaseをどうするか?

シリーズ6. Redistribution:あえて代謝性アルカローシスを例に考える

シリーズ7. Redistribution:代謝性アシドーシスを例に考える

シリーズ8. Redistribution:低K血症の補正※今回

シリーズ9. Routine maintenance:Non criticalの急性期維持輸液

シリーズ10. Redistribution:低Na血症の補正を超深掘り

Redistribution:低K血症の補正
【Key point】
1)低K血症のK欠乏量は実はかなり多い。
2)低K血症の治療はKの絶対値やECG異常、筋力低下で決まる。
3)重度の低K血症でも、内服をうまく使うとスマートに診療できる。
4)RedistributionとしてKCl入りの輸液をする場合、KClの濃度や速度に気を付けよう。
低K血症は軽視されがち?!

K濃度の異常は電解質異常の代名詞といっても過言ではないでしょう。実際、研修医の先生方と話をしても、高K血症の怖さは皆さんよく勉強しています。不整脈、突然死のリスクであり、Kの絶対値と心電図異常から緊急度を判断して、各治療法(グルコン酸Ca、GI療法、β吸入薬、重炭酸、利尿薬、K吸着薬)を組み合わせる、といった具合です。

一方で、低K血症はどうでしょうか?入院患者の20%にみられるという頻度の高い低K血症1)ですが、その重要度は実は過小評価されている可能性がありそうです。低K血症は、QT延長などを介して、Torsades de Pointes(TdP)や心室頻拍、心室細動の致死的不整脈を誘発することが知られています。特にこの影響は心疾患をもつ患者で有名です2)。ほかに、透析患者でもその影響が大きいことが知られています。透析患者では、死亡リスクはKの濃度でU字カーブをとることが知られており、高K血症と同様に低K血症は死亡リスクであるというのです3)。しかし、この重要度が必ずしも世に周知されていないことを示唆する日本のデータがあります。とある日本の単施設のERからの報告ですが、重度の低K血症のうち、30%は心電図検査をせず、40%は24時間以内に静脈でのK補充を行っておらず、17%は入院していないという驚愕の報告です4)。この対応は不適切と考えられ、実際、重度の低K血症のうち、16%がERでの対応後に死亡していると報告しています4)。どうでしょう、低K血症は頻度が高いのに、軽視されがちです。でも、軽視すると怖い目に合うということが、皆さんにデータとして実感いただけたでしょうか?なお、蛇足ですが、低K血症が軽視されがちなのは、患者背景もあるかもしれません。というのも、特に重度の低K血症の最多の原因は、栄養失調とされています4)。この栄養失調の中には、がん等の慢性疾患の終末期、神経性食思不振症、アルコール依存症などの患者さんが多くを占めると筆者は考えますが、どうしても不慣れだと、こういった患者さんの背景だと陰性感情が時に芽生え、不適切な対応をとってしまいがちなのかもしれません。

電解質異常は「in-Out-shift」で考えよう

さて、低K血症はもちろん、足りない分のKを補充することが大事なのはいうまでもありません。ただ、その補充量を理解する、あるいは長期的な低K血症の再発予防のために原因検索をするためにもKの体内での挙動を理解することがとても大事です。まずは、Kに限らず一般的な電解質異常のイメージを整理しましょう(図1)。

 

K異常をはじめ、多くの電解質異常は上図のように「In-Out-Shift」で考えると、病態をもれなくイメージしやすくなります。具体的にKで同様に考えてみます(図2)。

 

「図2になって急に数字が出始めた…。こんな数字、知っておく必要ある?」と思われる読者もいるかもしれません。やや苦痛かもしれませんが、しばらくお付き合いください。といいますのも、このあたりの数字の概要を押さえておくと、低K血症の原因診断やK補充の際に、皆さんが納得して理解する、その助けになるからです。さて、Kは通常、1日に100mEq程度が摂取されており、腎臓から90mEq程度が尿として排泄され、腸からは10mEq程度が大便として排泄されます。ただ、この血清K濃度を4mEq/L程度の濃度に安定して保つためには、Shiftの機序が大事とされており、実際にはほぼすべての細胞がKの「リザーバー」として働き、K濃度が上がろうとすると細胞内に取り込まれ、K濃度が下がろうとすると細胞内から放出され、うまくバランスがとられます。特に細胞内にリザーバーとしてたまっているKは約3500mEqとされており、体内のKの98%は細胞内(つまり、血清中のKは体内の2%程度)とされています。この血清KはKの総量のうちのわずかしか含まれない、逆に言えば、血清K濃度の低下は一見軽くても、Kの欠乏総量は意外に多いということを是非イメージしてください。

重度の低K血症は緊急補正が必要

低K血症ではK<1.5mEq/Lや、ECG異常、筋力低下がある場合は急ぐとされています(図3)。今回の症例ではK 1.4mEq/Lなので1.5mEq/L未満であり、ECG異常や筋力低下もあり、最も急ぐ状況です。

 

低K血症が重度の場合、中心静脈からの補正が一般的である一方、中心静脈カテーテル(以下、CV)の準備に少し時間がかかるのもまた事実です。診療所や小さい病院など、施設によってはCVのハードルが高いし、次の紹介先まで少し時間がかかってしまい、その間に不整脈で急変したらどうしようということもあるでしょう。

意外に知られていませんが、こういった重度の低K血症でも、実は内服のK製剤をうまく利用できれば、早期に低K血症の補正を開始できます。ただし、コツがあります。具体的には、初回量を80~120mEq程度にしてK製剤を1度に内服するという点です(筆者の施設では、K製剤のオーラルパルスと呼んでいます)。実は、低K血症時に内服も大量に行えば、迅速に血清K濃度が上昇することが知られています。

たとえば、内服でKを40~60mEq内服すると、一時的に血清K濃度が1.0~1.5mEq/L程度、内服でKを135~160mEq内服すると、一時的に血清K濃度が2.5~3.5mEq/L程度上昇することが知られています5)。筆者の施設では重度の低K血症で内服ができる方は、まず、必ず100mEq程度のKCl徐放錠を内服してもらうことにしています。この意味で、筆者は嚥下障害がないかを重度の低K血症では確認しています。通常、低K血症の筋肉の症状は四肢が中心で、重篤時に呼吸筋とされており、嚥下の筋群の障害は原則稀です。

しかし、致死的な低K血症で嚥下障害の報告がある6)ため、筆者は念のため確認しています。また、若年者では問題になりませんが、高齢者ではもともと軽度の嚥下障害があり、KCl徐放錠が大きくて飲めないなどの問題もたびたび起こります。

【症例続き】

JCSⅠ-3の意識レベルなので、信ぴょう性のある問診は本人から取れない状況であった。独居であり、本人の様子を詳しく知る人もいない。身体所見をとると、四肢の脱力は左右差なく、MMT:3程度であった。嚥下障害はなかった。

嚥下障害がないため、KCl徐放錠を100mEq程度内服させながら、CVを挿入します。KClの点滴での許容濃度は、末梢では静脈炎・血管痛の観点から40mEq/L以下が一般的とされています。一方で、中心静脈の場合は、周囲の血流速度が速く、濃度はさらに高くても問題がないとされています。成書によってその記載内容に差異がありますが、100~200mEq/L以下とされているものが多いです。実際、ICU管理の低K血症の患者で、KClを200mEq/L、300mEq/L、400mEq/Lの濃度で中心静脈から補正した場合、血行動態不安定化や不整脈などはどの群でもなかったという観察研究7)があります。さらに、CVからとはいえ、KClの原液投与でも、厳格に管理すれば、200mEq/L濃度の投与と同様に不整脈や血行動態の変化は出なかったという中国からのRCTの報告すらあります8)。もちろん、KCl濃度が高くなればなるほど、投与速度を誤った場合など、事故のリスクが上がることは言うまでもありません。そのため、筆者はCVからの補正は、ICUやそれに準じた厳格に管理できる場所で行い、200mEq/Lまでの濃度を原則としています。心不全や重症呼吸不全などでどうしても輸液の水分量を減らすためにKClを原液で使いたい場合は、原則医師が立ち会い、頻回に回診でチェックしています。

【症例続き】

嚥下障害はなく、本人も薬は飲めるとのことだったため、KCl徐放錠(1錠 8mEq)12錠(=96mEq)を内服させつつ、CVを挿入した。生食500mL+KCl 100mEq(約 200mEq/L)で150mL/h(≒30mEq/h)でKの経静脈投与を開始し、1時間ごとにKチェックとした。またMg欠乏が予想される患者背景のため、Mg濃度を測定しつつ、生食100mL+硫酸Mg 20mEqを 30mL/hで開始した。
1時間後の静脈ガスでK: 2.3mEq/Lであった。その後も1~2時間毎にKをチェックし、KCl入りの点滴速度を調節しながら管理した。厳密、かつ早期の電解質補正が必要なRedistributionであったため、24時間の点滴で補正を続けた。2日かけて、K: 4.0mEq/Lまでに安定させた。四肢の脱力は消失し、歩行可能になり、心電図変化も消失した。

再発予防には原因検索が大事

低K血症はK補充して血清Kが正常となれば終わり…とはなりません。再発予防、慢性期管理という意味で、低K血症の原因を詰める必要があります。この記事は輸液がテーマで、電解質異常ではない関係上、低K血症の原因検索の概要だけご紹介します(図4)。興味がある方はさらに成書をご参照ください。

 

終わりに 

今回はRedistributionとして、低K血症を扱いました。軽視されがちな電解質異常である低K血症。その治療にはいろいろなコツがあることをご理解いただけたでしょうか?次回はRoutine maintenanceの輸液を扱います。「まぁ、適当にやっておいて」と上級医から言われがちなRoutine maintenance。そこを深掘りしてみます。お楽しみに!

<参考文献>

1)Udensi UK, Tchounwou PB. Potassium Homeostasis, Oxidative Stress, and Human Disease. Int J Clin Exp Physiol. 2017;4(3):111–22.

2)Kjeldsen K. Hypokalemia and sudden cardiac death. Exp Clin Cardiol. 2010;15(4):e96-99.

3)de Rooij ENM, Dekker FW, Le Cessie S, Hoorn EJ, de Fijter JW, Hoogeveen EK, et al. Serum Potassium and Mortality Risk in Hemodialysis Patients: A Cohort Study. Kidney Med. 2022 Jan;4(1):100379.

4)Makinouchi R, Machida S, Matsui K, Shibagaki Y, Imai N. Severe hypokalemia in the emergency department: A retrospective, single‐center study. Health Sci Rep. 2022 Apr 14;5(3):e594.

5)Nicolis GL, Kahn T, Sanchez A, Gabrilove JL. Glucose-induced hyperkalemia in diabetic subjects. Arch Intern Med. 1981 Jan;141(1):49–53.

6)Ogami T, Sotomatsu A, Moody S, Yaegashi M. A Case of Extreme Hypokalemia Whose Histologic Findings on Autopsy Resemble Distal Renal Tubular Acidosis. CHEST. 2012 Oct 1;142(4):320A.

7)Hamill RJ, Robinson LM, Wexler HR, Moote C. Efficacy and safety of potassium infusion therapy in hypokalemic critically ill patients. Crit Care Med. 1991 May;19(5):694–9.

8)He Q, Wang J hua, Liu Y lin, Tang P xian, Chang Z gang, Du L qing, et al. [Study on safety and efficacy of concentrated potassium chloride infusions in critically ill patients with hypokalemia]. Zhongguo Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue. 2008 Jul;20(7):416–8.

<プロフィール>

柴﨑 俊一

柴﨑 俊一(しばざき・しゅんいち)
ひたちなか総合病院 総合内科
2010年、筑波大学医学専門学群医学類を卒業。諏訪中央病院にて初期研修を経て、2012年に同病院内科研修医。
その後、名古屋第二赤十字病院腎臓内科にて国内留学、諏訪中央病院にて腎臓・糖尿病内科/総合内科として勤務後に2017年から現職。
個人としては”日本の墨子”を目指し、組織としては、茨城1愛ある診療を目標にかかげる。市中病院改革:特に教育改革、ボトムアップ型組織マネジメントを進めている。

柴﨑 俊一

3Rで整理する 輸液の基本の「き」 ~Redistribution:低K血症の補正~

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