記事・インタビュー
はじめに
先月は救急外来での輸液では特にNon criticalとCriticalに分けるとわかりやすいとお伝えしました。今回はCriticalなケース(=輸液の適応3RのResuscitation)を救急外来や一般病棟からICUやHCU入室直前までの流れがイメージできるよう輸液の知見を共有していきます
テーマ予定
シリーズ1. 輸液の適応を3Rで整理する
シリーズ2. 救急外来でのリアルワールド輸液を再考する:Non criticalとCriticalに分類
シリーズ3. Resuscitation:Criticalな患者の輸液総論~“ROSD” 敗血症を例に~※今回
シリーズ4. Resuscitation:敗血症のOptimization phaseをどう乗り切るか?~特に侵襲的モニタリングなし~
シリーズ5. Resuscitation:敗血症のStabilizationやDe-escalation phaseをどうするか?
シリーズ6. Redistribution:あえて代謝性アルカローシスを例に考える
シリーズ7. Redistribution:代謝性アシドーシスを例に考える
シリーズ8. Redistribution:低K血症の補正
シリーズ9. Routine maintenance:Non criticalの急性期維持輸液
シリーズ10. Redistribution:低Na血症の補正を超深掘り
Resuscitation:Criticalな患者の輸液総論:“ROSD” 敗血症を例に
1) 重症患者の輸液では4つのフェーズ「ROSD」を知ろう!
2) Rescue期のボーラス輸液は大事!でも、「画一的な投与量には懐疑的」が今のトレンド?!
3) 輸液必要性・輸液反応性・輸液耐性という、この領域の用語をおさえよう!
Resuscitation:集中治療領域の輸液はフェーズを分けるべし!
輸液の適応3RでのResuscitationに相当する集中治療の重症患者の輸液は、ちょっと考え方にコツがいります。先月のお話の復習ですが、魔法の呪文「ROSD」を知る必要があるんでしたね。「なんのこっちゃ?!」と思われる方もいらっしゃると思うので順にお話していきます。
集中治療の輸液の研究は、特に敗血症を中心に発達してきました。その中でわかってきたことは、患者の状態・時期によって適切な輸液はダイナミックにかわるということです。重症患者の状態・時期は4つに分けることが一般的です(図1)1)。Rescue期(文献によってはSalvage期としているものもあります)-Optimization期-Stabilization期- De-escalation期(文献によってはDe-resuscitation期としているものもあります)です。この4つのフェーズでは輸液やカテコラミンの戦略が大きく異なります。イメージは図1のとおりです。この4つのフェーズの頭文字をとって、「ROSD」とお伝えしました。実際、筆者は自施設の若手医師には「ROSDのフェーズを重症患者の輸液では意識しよう」と指導しています。
敗血症のガイドライン:SSCGを通してRescue期を考えてみる
さて、この4つのフェーズ「ROSD」のうち、今回は特にR:Rescue期について敗血症を例にもう少し深めてみます。敗血症では世界的なガイドライン「Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock」:通称SSCGが有名ですね。最新版はSSCG 20212)ですが、この中に輸液項目がいくつかあります。一緒に覗いてみましょう。
このSSCG 2021には、敗血症によって誘発された低灌流または敗血症性ショックの最初の輸液について記載があります。「ROSD」のR:Rescue期に該当するものです。ここでは「最初の3時間以内に少なくとも 30mL/kgの晶質液(細胞外液)の投与を開始する」とあります。実際、この文言を受けてRescue期の輸液として、30mL/kgの細胞外液をボーラス投与する方も多いでしょう。ただ、実はこの輸液量の文言はSSCGの歴史の中で変わっていることをご存知でしょうか?実は1つ前のSSCG 2016ではこの 30mL/kgのRescue期の輸液は推奨度が「強く推奨」で、文中の文言も「Recommend」という表現がなされていました3)。ただ、SSCG 2021ではこの推奨度が「弱く推奨」に実は下がっており、文中の文言も「Suggest」と弱い表現に変わっています。この30mL/kgという値は過去の観察研究をもとにしているためです。
この「体重あたりの画一的な投与量」については懐疑的になりつつあるのが、現在のトレンドのようです。実際、敗血症におけるシンプルな(にしすぎた)輸液治療は不適切かもしれない4)、American College of Emergency Physicians ® Task Force on sepsisでは体重あたりの画一的な(Rescue期の)ボーラス輸液は推奨しない5)といった提言も出ています。こういった経緯も含めて、筆者は30mL/kgの投与量は目安にはしますが、過度にこだわっていません。実際、輸液必要性がある敗血症の患者には「ROSD」のRescue期として500~1000mLのボーラス輸液をまずします。その後もボーラス輸液をするかどうかは、輸液必要性と輸液耐性を評価し、ケース・バイ・ケースで判断しています。
輸液必要性?輸液耐性?
重症患者の輸液:Resuscitationでは、特有の用語が出てきます。先程出てきた輸液必要性と輸液耐性がまさにそれです。さらにもう1つのキーワード、輸液反応性と合わせて用語の解説をしていきます。
輸液必要性があるとはまさに「輸液が必要な状況」を指し、循環不全:Circulation failureとほぼ同義です。では、何をもって輸液必要性があると判断するか、「厳格に」定義することは実は難しく議論があります。「目安」としては、測定した心拍出量が低下している、または組織低灌流の所見がある(乳酸上昇、尿量低下、毛細血管再充満時間:Capillary refill timeの延長、斑状皮疹:Mottlingの出現など)があります。
一方で、輸液必要性があれば、、輸液をどんどんするかというと決してそうではありません。輸液をして実際に反応があるかどうかを確認することが重症患者では多いです。輸液をすることで反応があることを輸液反応性:Fluid responsivenessがあるといいます。ただしこの言葉は誤解が多いことで知られます。輸液をして反応があるかどうかは、決して血圧ではなく、心拍出量(やそれに準じたもの)で判断されます。輸液反応性の判断の詳細は、来月以後にまた皆さんと共有しますが、でICUでの様々なデバイスを使って測定することが一般的です(自発呼吸なしで陽圧換気している患者でのStroke volume variation: SVVの測定や、心拍出量をほぼリアルタイムにモニタリングしながPassive leg test: など)。
最後に輸液耐性:Fluid toleranceです。これはこの数年注目されている概念です。文字通り、輸液をことに耐えられるか、うっ血にならず、体の害にならずに輸液を受けられるかというものです。輸液耐性があるかどうかのも、まだ厳密に確立はしていません。目安としては、POCUSによる、心臓・肺・IVCの評価(EFが低くないか、肺にびまん性のBラインが出ていないか、IVCの拡張がないか)は簡便で使い勝手はよいでしょう。さらにIVC拡張が目立つ場合、うっ血の程度を半定量的に評価するのに、VExUSを行うことが今のトレンドです。「Fluid tolerance」「VExUS」とYouTubeで検索すると、わかりやすい解説動画、実際のエコー評価の方法が複数見つかります。ぜひ、興味のある方はトライしてみてください。
ICU入室前の輸液をどこまで「厳格」にやれるか?リアルワールドで考える。
ICU入室前の救急外来や一般病棟などでは、重症患者のの4つのフェーズ「ROSD」のうち、Rescue期を行うことが一般的でしょう。では、どういったアプローチがよいでしょうか。例えば、Monnetらは以下のような輸液戦略のアルゴリズムを提言しています6)(図2)。なるほど、わかりやすいですね。
一方で、読者の立場にたつと、少し困った問題が浮上してくると心配します。例えば、輸液必要性の判断についてです。心拍出量低下や組織低灌流の所見があれば、輸液必要性があると判断することは先程お話ししました。…が、どうでしょうか?皆さんは心拍出量を測定できるでしょうか?筆者は恥ずかしながら、エコーで心拍出量を正確には測定できません。古典的なSwan-Ganzカテーテルのような侵襲的モニターだけでなく、動脈圧解析で心拍出量を計算できる社のフロートラック センサーや、電極パッドを体表に貼り、バイオリアクタンス法で心拍出量を計測するCheetah Medical社のなど非侵襲的な心拍出量モニターの方法は年々増えていますが、一般病棟や救急外来でこれらを潤沢に使える施設は極めて限られているでしょう。つまり、ICUに入室すれば、様々なデバイス、モニターを使って心拍出量は計測しやすくなると思いますが、一般病棟や救急外来では、心拍出量の低下の判断は不慣れな人には敷居が高いと予想されます。同様に、動的変化から心拍出量の変化を予想する輸液反応性も、一般病棟や救急外来では、正確な判断は敷居が高く、 一部の特殊な施設を除いて、筆者は非現実的だと思っています。そのため、よりリアルワールドで使いやすいように、筆者は、重症患者の輸液の初期アプローチ、ICU入室前のRescue期の輸液は以下のようにしています(図3)。
この図では、
- 輸液必要性を組織の低灌流があるかどうかに絞って判断する
- 一般病棟や救急外来では輸液反応性の判断は難しいので、輸液で害が生じるかどうか:輸液耐性でボーラス輸液の追加を判断
としています。厳密性を犠牲にしてシンプルに表記した案のため、当然、賛否は分かれるとは思いますが、読者の皆さんの参考になれば幸いです。
今回は重症な患者の輸液(のResuscitation)の全体像、4つのフェーズ「ROSD」と、特にR:Rescue期のICU入室前までの輸液を、現実に即して考えてみました。いかがだったでしょうか?次回は「ROSD」のO:Optimization期について皆さんと勉強していきます。お楽しみに!
<参考文献>
1) Hoste EA, et al: Four phases of intravenous fluid therapy: a conceptual model. Br J Anaesth. 2014; 113: 740.
2) Evans L, et al: Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock 2021. Intensive Care Med. 2021; 47: 1181.
3) Rhodes A, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43:304.
4) Leisman DE, et al: Predictors, Prevalence, and Outcomes Of Early Crystalloid Responsiveness Among Initially Hypotensive Patients With Sepsis and Septic Shock. Crit Care Med. 2018; 46: 189.
5) Yealy DM, et al: Early Care of Adults With Suspected Sepsis in the Emergency Department and Out‐of‐Hospital Environment: A Consensus‐Based Task Force Report. Ann Emerg Med. 2021; 78:1.
6) Monnet X, et al: Prediction of fluid responsiveness: an update. Ann Intensive Care. 2016; 6:111.
<プロフィール>
柴﨑 俊一(しばざき・しゅんいち)
ひたちなか総合病院 総合内科
2010年、筑波大学医学専門学群医学類を卒業。諏訪中央病院にて初期研修を経て、2012年に同病院内科研修医。
その後、名古屋第二赤十字病院腎臓内科にて国内留学、諏訪中央病院にて腎臓・糖尿病内科/総合内科として勤務後に2017年から現職。
個人としては”日本の墨子”を目指し、組織としては、茨城1愛ある診療を目標にかかげる。市中病院改革:特に教育改革、ボトムアップ型組織マネジメントを進めている。
柴﨑 俊一
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