記事・インタビュー

2023.02.09

【Cross Talk】スペシャル対談:小児総合診療医編<前編>


日本に小児総合診療を根付かせようと奮闘する2人の医師がいる。 東京都立小児総合医療センターの松島崇浩氏と、沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの利根川尚也氏だ。 松島氏は、2019年に「GHPJ 日本こどもの総合診療」という小児総合診療医のグループを立ち上げた。 利根川氏はメンバーのひとりである。それぞれが臨床の現場で日々感じている小児医療の現状や、 小児総合診療医が果たすべき役割、これから求められる小児科医像について、対談していただいた。

<お話を伺った方>

松島 崇浩

松島 崇浩(まつしま・たかひろ)
2005年金沢大学卒業。埼玉医科大学総合医療センターで初期臨床研修後、国立病院機構東京医療センター小児科レジデント、東京都立小児総合医療センター 総合診療科サブスペシャルティレジデント。東海大学医学部付属八王子病院小児科、多摩北部医療センター小児科を経て、2014年から東京都立小児総合医療センター総合診療科に勤務。2021年から現職。

<お話を伺った方>

利根川 尚也

利根川 尚也(とねがわ・なおや)
2009年昭和大学医学部卒業。太田西ノ内病院にて初期臨床研修後、国立成育医療研究センター小児科専攻医プログラム、国立成育医療研究センター感染症科 臨床研究員、沖縄海軍病院を経て、2016年から現職。民間医局コネクトでのセミナーも大人気。

あらゆる症例の窓口となり小児診療を支える

 松島 先生 ︙成人の総合診療に関しては、専門医制度により日本でもかなり浸透してきました。同じように小児医療における総合診療という専門性についても、もっと知られてほしいと思っています。

 利根川 先生 :日本小児科学会では、小児科医を「子どもの総合医」と定義しており、そもそもの土台として小児科医には総合診療のスキルが求められます。そうした前提があるため、小児の領域においても総合診療医が必要だということに、これまでそこまで強く目が向かなかった背景があります。

 松島 先生 ︙小児総合診療医は「何でも屋の小児科医」というイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、決してそうではないですよね。

 利根川 先生 :はい。オーケストラでいうところの指揮者のような存在。小児総合診療医が最も力を発揮するのは、医療ケアや、その他必要とされるケア全体の連携をコーディネートすることです。小児総合診療医が主治医となって、小児の各領域の専門家の医師たちや医療以外の専門家、患者さんの家族と連携を取る。それが、一連のケア全体の質を高めることにつながります。すでに諸外国では、General Pediatricsが、小児診療の中心的な役割を担っています。

 松島 先生 ︙国内で最初に小児総合診療科ができたのは、2002年。国立成育医療研究センターから始まり、その後、長野、神奈川、沖縄をはじめ、私が所属している東京都立小児総合医療センターや各地の中核となる小児病院で開設されていきました。

 利根川 先生 :子どもの専門病院や規模の大きな総合病院では、その必要性が徐々に見いだされているのではないでしょうか。

 松島 先生 ︙そうですね。それぞれの病院で小児総合診療科が果たす役割は異なっていて、例えば救急患者を受け入れるかどうかによっても変わってくる。その中で、当院と利根川先生がいる沖縄県立南部医療センター・こども医療センターは、比較的同じような役割を担っています。

 利根川 先生 :救急対応もしていますし、専科がすでに担当している患者以外は、ほとんどの小児患者の主治医を担当しています。

 松島 先生 ︙当院にはER専門の医師がいるのですが、小児総合診療科の医師が昼間も夜間も救急に入り、一緒に初療に当たる体制です。また、ICU やNICUで全身管理をしている患者さんの症状が落ち着けば、一般病棟で受け入れるのも私たちの役割。退院後に医療的ケアが必要であれば、その準備も進めます。

 利根川 先生 :当院は小児総合診療科が窓口となっているので、かなりの数の新規患者を受け入れています。

 松島 先生 ︙その他、専門外来では、不定愁訴や発達の遅れ、地域の開業医院では診断がつかない患者さんたちの診療もしています。利根川先生のところだと、さらに沖縄の地域医療全体にも関わられていますよね。

 利根川 先生 :はい。予防やワクチンなど県全体の政策に携わることもあります。沖縄には有人離島が無数にあるので、島の家庭医の先生たちとの連携も今以上に充実させていきたいです。

専門科を的確にサポート求められるのは圧倒的な総合力

対談

  利根川 先生 :病院に小児総合診療科があることで、小児循環器科や小児消化器科といった小児の各専門科の先生たちからは「助かった」と言ってもらえることも多いです。

 松島 先生 ︙そう言ってもらえると純粋に嬉しいですよね。

  利根川 先生 :臓器別の診療科しかない病院だと、風邪をこじらせたような肺炎など、よくある小児疾患を小児の各専門科の医師が当番制で診ているところもあります。そうすると、それぞれの専門領域で力を発揮しなければならないときに、一般診療に時間を取られるもどかしさが生まれる。そこを私たちが一手に引き受けることで、各専門科の先生方は本来の仕事に集中できるようになります。

 松島 先生 ︙特に外科系の先生は、私たちの存在に価値を感じてくださっているようで、先天異常のある患者さんなど、手術のリスクが高いケースでは、入院時から「併診をお願いします」と依頼していただくこともあります。

 利根川 先生 :小児の各専門科の先生たちも、もともと小児科医としてベースに総合診療の考え方がありますから、「トータルな視点で患者さんを診たい」という気持ちがあります。本当はやりたいのに、充分にできないことがある、というジレンマがあるからこそ、そこをサポートする私たちの存在が喜ばれているのだと思います。

 松島 先生 ︙ただ、診療内容と人数の比率を考えると、小児総合診療科はまだまだ人が足りません。今、当院では常勤医が7人、研修医と合わせると常時20人くらいの体制です。それでもギリギリだなと。それに、私たちは総合診療がベースにある小児の各専門科の先生たちよりも、さらに上の総合力が必要とされる。いうなれば、「圧倒的な総合力」を目指さなければなりません。小児総合診療医には、その覚悟が必要だと感じています。

小児総合診療を専門に選んだきっかけ

対談

 松島 先生 ︙利根川先生と初めて会ったのは、10年ほど前。私が東京都立小児総合医療センターに赴任したばかりで、利根川先生は国立成育医療研究センターで研修をしていました。

 利根川 先生 :松島先生は私の3歳上の先輩で、先生が企画された2病院合同の勉強会に参加したんですよね。

 松島 先生 ︙そのときは、利根川先生が小児総合診療を選ぶとは思っていなかったので、まさかこんなに語り合える仲になるとは(笑)。先生が小児総合診療に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

 利根川 先生 :もともとは、外科医を目指して三次救急の病院で初期研修を受けていたのですが、もっと患者さんとの関わりを持ちたいという思いが強くなり、小児科に転向しました。総合診療を志す原点になっているのは、祖父の存在ですね。町医者をしていた祖父の葬儀には、たくさんの患者さんが来てくれました。そこで泣き崩れる患者さんたちを見ていたら、人の人生に深く関われる「良い仕事だな」と。松島先生は?

 松島 先生 ︙私は、一般病院の小児科で研修を受けたので、小児科の専門医は取ったものの、小児の心臓疾患や代謝疾患といった稀な病気はほとんど診たことがなかったんです。あまりにも分からないことが多くて、小児の専門病院でサブスペシャルティレジデントとしてもう一回、各専門科で学び直しました。ICUや循環器、消化器とローテーションするうちに、幅広い知識が身に付いて、総合診療に戻ったときに、とても面白く感じたんですよね。

 利根川 先生 :たしかに専門疾患の知識があって、さらに各診療科との関係性が築けていると、総合診療は一気に面白くなりますよね。

後編に続く。

※ドクターズマガジン2023年2月号に掲載されました。

松島 崇浩、利根川 尚也

【Cross Talk】スペシャル対談:小児総合診療医編<前編>

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