記事・インタビュー

2023.02.15

【Cross Talk】スペシャル対談:小児総合診療医編<後編>


日本に小児総合診療を根付かせようと奮闘する2人の医師がいる。 東京都立小児総合医療センターの松島崇浩氏と、沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの利根川尚也氏だ。 松島氏は、2019年に「GHPJ 日本こどもの総合診療」という小児総合診療医のグループを立ち上げた。 利根川氏はメンバーのひとりである。それぞれが臨床の現場で日々感じている小児医療の現状や、 小児総合診療医が果たすべき役割、これから求められる小児科医像について、対談していただいた。

<お話を伺った方>

松島 崇浩

松島 崇浩(まつしま・たかひろ)
2005年金沢大学卒業。埼玉医科大学総合医療センターで初期臨床研修後、国立病院機構東京医療センター小児科レジデント、東京都立小児総合医療センター 総合診療科サブスペシャルティレジデント。東海大学医学部付属八王子病院小児科、多摩北部医療センター小児科を経て、2014年から東京都立小児総合医療センター総合診療科に勤務。2021年から現職。

<お話を伺った方>

利根川 尚也

利根川 尚也(とねがわ・なおや)
2009年昭和大学医学部卒業。太田西ノ内病院にて初期臨床研修後、国立成育医療研究センター小児科専攻医プログラム、国立成育医療研究センター感染症科 臨床研究員、沖縄海軍病院を経て、2016年から現職。民間医局コネクトでのセミナーも大人気。

医師に求められる能力をバランス良く習得できる

 松島 先生 ︙ここ数十年で、小児の疾病構造は大きく変化しています。予防接種の体制が整ったことにより、重症化するリスクの高かった細菌性髄膜炎や急性喉頭蓋炎などは、ほぼ診なくなりました。その一方で増えているのが、貧困問題に端を発する疾患や精神疾患。特にコロナ禍においては、自殺や不登校が増加しています。

 利根川 先生 :私が今、力を入れているのが、学童期の後半から思春期にかけて発症する起立性調節障害など、自律神経が関係した疾患のケアです。病院に行っても診断がつかずに、それが原因で不登校になっている子どもも少なくありません。

 松島 先生 ︙いくつかの要素が複雑に絡み合っているため、診断にも治療にもとても時間がかかりますよね。

 利根川 先生 :そうなんです。病気だと気付かずに苦しんでいる人も多い。起立性調節障害について知ってもらうために、沖縄の新聞に記事を掲載したところ、各地から多くの問い合わせをいただきました。学童期から青年期は、体も心も大きく変わっていく時期。その子のこれからの人生を考えて関わるということが、最も大事なことだと思っています。

 松島 先生 ︙経済的なことや社会状況など、健康の社会的決定要因(SDH)に関わることについても、小児科医はどんどん取り組んでいくべきですよね。そう考えると、できることはまだまだいくらでもあります。

 利根川 先生 :小児総合診療には、非常に幅広い能力が求められると思います。全ての医師に必要な能力として、諸外国が、医師のコンピテンシーとして、診療能力だけでなく、コミュニケーション能力や連携する力、リーダーシップ、プロフェッショナルなどを示しています。それらを「バランス良く」持ち合わせて診療をしているのが小児総合診療医。

 松島 先生 ︙患者さんを取り巻く問題について、まるごと受けとめられるのが小児総合診療の魅力。患者さんが困っていることを、「これは専門外だから」と断らずに、いったん引き受けることができる。それは、医師としての根源的な喜びでもあります。

 利根川 先生 :単に医療技術が身に付くだけでなく、おのずと人間性も高まりますよね。常に先を見据えて、自分を磨き続けなければなりません。

 松島 先生 ︙小児総合診療科にいながら専門的な知識を深めても良いですし、自分がやりたいことをどんどん広げていける。病院の医療安全や、地域の教育、福祉、あらゆる分野に関わることができます。

 利根川 先生 :小児総合診療医は、「自分が何者か」という診療科としてのアイデンティティを明確に表せない難しさがありますね。

小児総合診療医をつなぐ全国ネットワーク「GHPJ」

対談

 松島 先生 ︙だからこそ、私たちがどんなことをしているのかを知ってもらうことでその面白さが伝わり、興味を持ってくれる人が増えるはずです。

 利根川 先生 :実際に当院の研修医の中にも、小児総合診療を専門に選ぶ人は確実に増えています。私の目標は、小児総合診療科を日本に根付かせること。そのために今は岐阜大学で医療者教育学を学んでいます。自分が診療を通して身に付けたスキルや思いを、世代を超えてもっと多くの人たちに伝えていきたいです。

 松島 先生 ︙若い医師たちの教育はとても大事ですよね。小児科医の地域偏在が問題になっていますが、私は専門医プログラムのシーリング(定数制限)があるだけでは、根本解決にはならないと感じます。人や組織を育てるノウハウを身に付けた“未来の指導医”を育む研修環境が必要です。そこで立ち上げたのが、小児総合診療医のネットワーク「GHPJ こどもの総合診療」。利根川先生もメンバーとして参加してくれています。

 利根川 先生 :学会とも違いますし、小児専門病院だけの集まりでもない。全国で小児総合診療に関わる医師たちをつなぐ、画期的な取り組みだと思います。

 松島 先生 ︙地道に頑張っている仲間たちが各地にいるので、それぞれが孤軍奮闘することなく、情報を共有しながら一緒にこの領域を高めていきたい。東京に限らず、素晴らしい指導医がいる病院は全国にあります。GHPJを通して、まずはそのことを発信していくつもりです。地方でも質の高い指導を受けられる環境がありますから、安心して小児科医を目指してほしい。

 利根川 先生 :成人の総合診療医に比べると、まだまだ小児総合診療医のキャリアは「道なき道」のように見えるかもしれません。でも、私たちは日々の診療を通して、病院の中だけでなく社会からも必要とされているのを実感しています。ぜひ希望を持って、この道に入ってきてほしいと思います。

※ドクターズマガジン2023年2月号に掲載されました。

松島 崇浩、利根川 尚也

【Cross Talk】スペシャル対談:小児総合診療医編<後編>

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