記事・インタビュー
社会医療法人財団慈泉会 相澤病院 理事長
相澤 孝夫
2025年は団塊の世代が75歳以上となる年であり、総人口が減少する中でも増加を続けてきた75歳以上の高齢者人口はこの年を境に2200万人超で高止まりをする。しかし、現役世代(15~64歳)が減少するため、2060年には4人に1人が75歳以上という超高齢社会になり、高齢者の医療・介護における負担と給付が大きな問題となる。この問題は、単純に社会保障の給付を削減し、負担を増やすだけでは抜本的な解決とならず、これまで主として急性期医療を担ってきた一般病床における入院医療提供体制の改革は避けて通れない喫緊の課題である。
人口構造の推移は、地域ごとに大きく3つのタイプに分けられる。東京都に代表される「都市型」では、現時点の人口がピークで、緩やかに人口が減少し、75歳以上の高齢者人口が急激に増加する。秋田県に代表される「過疎地型」では、すでに人口のピークが過ぎ、急激に人口が減少していき、75歳以上の高齢者人口はほとんど増加しないか減少していく。長野県に代表される「地方都市型」では、すでに人口のピークは過ぎて人口は次第に減少し、75歳以上の高齢者人口は増加していく。自病院の診療圏がどのタイプの人口構造推移であるかの把握は、自院の方針を決断する重要な判断材料となる。
自病院の方針を決めるために大切なことは自院の診療圏の広さを知ることである。比較的狭い地理的範囲(自院を中心とする限られた地域、地域によってその範囲は異なる)から多くの入院患者を受け入れている病院は、近隣型医療(主として罹患率も高く治療法も確立している傷病を治療)を展開している病院と考えられ、入院患者の傷病分類や年齢構成を解析することが必要となる。また、自病院の入院患者の急性期率(入院患者に占める急性期患者の割合)を明確にしておくことも重要である。いずれにしろ、近隣型医療を展開している病院(以後、地域密着型病院)は地域に密着して地方自治体や地域社会、地域医師会、かかりつけ医、介護などとの連携を強め、地域包括ケアの一翼を担う重要な存在になるべきであり、その期待は大きい。地域密着型病院は必然的に急性期患者ばかりでなく、急性期後の患者(回復期患者)の入院も担うことはいうまでもない。2025年問題を乗り切るためには、地域密着型病院が地域に適切に分散されて存在することが必須となるであろう。
一方、多くの専門医療スタッフが協働する組織的医療や専門的医療、高度医療などを行っており、広い診療圏を有する病院は、患者がアクセスの利便性よりは医療機能を重視して選択する広域型医療を行っている(以後、広域型病院)。広域型病院の中には、専門病院と地域の中核的医療機能を有する病院があると思われる。広域型病院は入院患者の傷病分類や治療実績などを調査して、自病院の得意とする医療を明らかにし、ベンチマークを行って、地域における自院の立ち位置を明確にする必要がある。また、入院患者の急性期率を把握して、自病院の必要急性期病床数を明らかにするとともに、急性期治療後の患者の動向を知ることが重要である。専門的医療や高度医療の需要は、今後減少が見込まれることから、広域型病院間の役割分担や医療集約化などを模索することが必要となる。年齢階級別・疾患別退院患者統計により入院需要を予測するときは注意が必要である。入院需要は1日の入院患者数×平均在院日数であるので、入院需要は平均在院日数の影響を強く受けることを忘れてはならない。その傷病の1日の入院患者が増えても平均在院日数が短縮すれば、入院需要は想像していたよりも少なくなる。広域型病院は自医療圏の人口変化を十分に見定めた上で自院の入院医療の方針を定め、担う医療と病床機能・病床数の調整を広域型病院間で行うことが必要となる。広域型病院と地域密着型病院の混合型病院もあるが、このような病院では将来構想の早期決断が必要となる。
いずれにしろ、病院は自院の等身大の姿を自覚して決断し、覚悟と勇気を持って新たな姿に挑戦することが必要である。
あいざわ・たかお
1973年東京慈恵会医科大学卒。同年信州大学医学部第二内科入局。1981年特定医療法人慈泉会相澤病院副院長を経て、1994年 医療法人慈泉会 理事長就任、同相澤病院院長就任。長野県松本市に位置する相澤病院は、日本で6番目、甲信越地方では初の「JCI」(世界各国の医療機関を評価する機構)の認定を受けている。
※ドクターズマガジン2017年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
相澤 孝夫
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