記事・インタビュー

2020.04.08

山あり谷あり谷底あり! ドイツ留学(16)

ドイツはノルトライン=ウェストファーレン州にあるボン大学で循環器内科のフェローとして働いている杉浦 淳史です。
この記事では、日本生まれ日本育ちの循環器内科がドイツでの研究・臨床留学の中で経験するさまざまな困難・葛藤・喜びを、ありのままにお伝えします。

猛威をふるうCOVID19

今回は新型コロナウイルス(COVID-19)に関する状況をドイツから報告します。

3月上旬からコロナウイルスがヨーロッパやアメリカで爆発的に広まりました。ヨーロッパでは現時点で北イタリア、スペイン、フランスが悲惨な状況です。外来や病棟はコロナウイルス感染の患者が次々に運び込まれてあふれ返り、人的資源、機材資源の限界を超え、ついに北イタリアでは70歳以上に人工呼吸器を使わないことが決まったようです。

それがどんなにカオスな状況か。高齢者を中心に毎日700-1000人の死者が出る。どんどん呼吸が苦しくなる中、家族との面会も無いか数分でしょう。多くの人が助けを求めているにも関わらず「何もしない」でおく――。自分の医療現場や家族に当てはめて想像すると、ゾッとします。

(統計値は4月4日時点のworld meter: https://www.worldometers.info より引用)

状況は国・都市ごとに異なります。人口、人口密度、他との交通の多さが大きな要因かと思います。ドイツの中でもベルリンやミュンヘンの状況はより深刻です。ボンは旧首都ですが、人口30万人程度の町なので爆発には至っていません。

ボン大学カテ室では最近、待機的治療を延期してベッドを確保するよう要請があり、症状の安定している患者の冠動脈治療はほとんどなくなり、緊急カテがメインになりました。

その一方で、なかなか減らない弁膜症カテ。理由は、心不全や突然死に直結しうる病気で、待機患者が109人(4月1日現在)いるからのようです。それでも今後、もう少し減らさざるを得ないと思います。

症例 症例数
大動脈弁 TAVI 62
僧帽弁 MitraClip 13
僧帽弁 Pascal 2
僧帽弁置換術 1
三尖弁 MitraClip 6
三尖弁 Pascal 2
86

2020年3月実績(稼働日数22日)

ドイツのコロナウイルスに対する政策と、メルケル首相のスピーチ

以下に、ドイツが行ってきた政策をまとめます。

3月9日 1000人規模のイベント自粛要請、クラブ(ナイトクラブ)への訪問、誕生日パーティーや各種団体会合について、中止することができないかよく検討するよう推奨
3月13日 州内全ての学校・幼稚園を休校・休園措置(3月16日から4月19日までの間)。不必要な旅行の自粛を呼びかけ。
3月15日 オーストリア、スイス、フランス、ルクセンブルク、デンマークとの国境で暫定的な国境管理
3月16日 社会生活のロックダウン宣言
3月17日 全ての陸路の国境制限
3月18日 空路・海路の国境制限
3月22日 国民の日常生活に関するガイドラインおよび禁止行為発表 (参照)
3月23日 中小企業への給付金の規定を発表
4月2日 現状のロックダウンをさらに2週間延長することを発表

(グラフは4月2日時点のworld meter: https://www.worldometers.info より引用)

メルケル・ドイツ首相が発表したガイドラインの要旨

(1)同居家族等以外の他人との接触は絶対に必要な最低限とすること。
(2)公共空間において、他人との距離を必ず最低1.5メートル、可能であれば2メートル以上とること。
(3)公共空間における滞在は、単身または家族以外の1名、または家族の同伴に限り認められる。
(4)職場への通勤、緊急時ケア(託児・高齢者介護等)、買い物、通院、試験や会議等重要な日程、他者の支援、個人によるスポーツ、屋外での新鮮な空気を吸うための運動やその他必要な活動のための外出は、引き続き認められる。
(5)ドイツにおける深刻な状況に鑑み、グループによるパーティーは公共の場所か私的な空間(住居)かを問わず許容されない。秩序局または警察が取り締まり、違反行為には罰則が適用される。
(6)すべての飲食店は閉鎖する。ただし、配達サービスや持ち帰り等により個人が自宅で飲食するための料理の販売は例外。
(7)理髪業、美容サロン、マッサージ業、タトゥー業など、身体のケアに関わるサービス業は近距離での身体の接触を避けられない職種であり,本ガイドラインに合致しないため、すべて閉鎖する。ただし医療上必要な治療は引き続き認められる。
(8)人々との接触があり得るすべての現場については、公衆衛生に関する規則を守り、従業員や訪問客に対する効果的な保護措置を実施することが重要である。
(9)上記の措置の適用期間は最短2週間とする。

※※メルケル首相のスピーチ、和訳
※※※メルケル首相のスピーチ、動画

人との接触を避け、自然の中でゆったり過ごす

ロックダウンによって、学校は休校し、カフェやレストランも閉まり、外出の制限(3人以上は禁止)や対人距離を取ることが義務付けられている今、人々はどう生活しているのでしょうか。

マクロな視点では生活が大きく変わった一方で、ミクロな視点ではあまり変わってないともいえます。街中・電車の人数はまばらになりました。もともとドイツ人は素朴な生活をしますし、自然の中でのんびりすることを好みます。のんびり散歩をしたり、ジョギングしたり、また最近増えたのは、祖父母と孫の散歩や、父と息子のランニング風景です。

実は私たち家族も、ドイツでは以前から外食はほとんどしていませんし、週末もピクニックをしたりジョギングしたり公園遊びをしたりという生活だったので、さほど大きな変化はありません。

ちなみに、カフェやレストランは店頭での持ち帰り販売やweb注文・配達のビジネスを開始して営業しているところも多いです。店の外で律儀に1.5~2mの距離をとって品物を待っているドイツ人たちの光景は、なんだかほのぼのします。

私もたまに平日に休みをもらって家族と一緒にランニングをしたり、週末ものんびりする生活を続けています。とはいえストレスは溜まってくるもので、そうした時にはなぜか不思議と無性に和食が食べたくなります。ああ日本人だなあ、と感じたりしながら、自宅で寿司を作ったりして家族で楽しんでいます。

<プロフィール>

杉浦 淳史

杉浦 淳史(すぎうら・あつし)
ボン大学病院
循環器内科 指導上級医(Oberarzt)

1983年千葉生まれ。2008年福井大学医学部卒業。
論文が書けるインテリ系でもないのに「ビッグになるなら留学だ!」と、2018年4月からドイツのボン大学にリサーチフェローとして飛び込んだ、既婚3児の父。

杉浦 淳史

山あり谷あり谷底あり! ドイツ留学(16)

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