記事・インタビュー
ドイツはノルトライン=ウェストファーレン州にあるボン大学で循環器内科のフェローとして働いている杉浦淳史です。
この記事では、日本生まれ日本育ちの循環器内科13年目がドイツでの研究・臨床留学の中で経験するさまざまな困難・葛藤・喜びを、ありのままにお伝えします。
カテ中の雑談
久しぶりのブログになってしまいました。実際の雇用切り替えの前から、いつの間にかカテ三昧の生活が始まりました。朝7時半頃に当日のカテ室マネージメントをする看護師から電話がかかり、Hybrid OP室と心カテ室3部屋の中で、どこに入れるか聞かれます。心カテ室の場合は8時前から開始していき、2〜3件を終わらせたあと、9時頃からボスの心カテ検査・治療(プライベート保険)のアシスタント、その後また通常保険の患者の心カテを行なっていきます。一人でカテ台に立つので、特に最初は手間取ったりしていました。Approbationを持っていない僕は、基本的に上級医の監視下で手技を行なっていて、治療適応やストラテジーなどは毎回相談しています。
ただ、ここで思わぬ大きな試練がありました。治療中の雑談です。同僚とではなく、患者と……。これまでの弁膜症治療では、患者は麻酔薬を使って寝ている事が多かったのですが、心カテ治療は違います。ばっちり起きています。50〜60代の人もたくさんいます。住んでいる場所、家族、仕事、趣味、生い立ちなどの話と並行して、進行中の手技の説明もします。そんな中、開始して5〜10分もすれば「終わった?」と聞いてくるのはしょっちゅうで、また、ただでさえアジア人顔の自分の第一印象は「若手で経験が少なそう」と見られることもあるため、ほんの5分くらい喋らないで手技をしていると、「合併症でも起きたのか?」と聞いてきたりすることもあります。実際、小難しい話になると十分説明ができているか、コミュニケーションがとれているか不安になることがあります。僕のように、ある程度の年齢から初めて海外に在住して仕事をするというのは、言語のハンデを背負っていると感じます。非母国語の言語力が母国語並みでないと、情報処理能力が低下するために、一時的に知能や思考能力が低下しているような状態になることがあり、これを「外国語副作用」というようです。この差を覆すのは大変ですが、もっと努力しなきゃいけないと痛感しています。
ドイツの教育
実は、夏から家族が少し長めの一時帰国をしていました。COVID-19の影響で、しばらく帰省して祖父母や友人と会う事ができていなかったこと、子供達の日本語能力を向上させたかったこと等が理由で約4ヶ月間日本に滞在し、その間子供たちは現地の小学校や幼稚園に通っていました。
年が明けて再びドイツに戻り、こちらの学校に通い始めたわけですが、子供達は子供ながらに大きな不安を抱えながら、学校生活をリスタートさせました。不安の理由は主に言語で、「日本で全く英語・ドイツ語を喋っていなかったから忘れちゃったよ……」と。
そんな不安も吹き飛ばすくらいのWelcome back!!!オーラ全開で迎え入れてくれた学校。そして学校生活4日目、聞くとどうやら娘が全校生徒の前で表彰されるとのこと。「表彰といえば、何かの結果としてされるもの」という認識がある日本人として、開始したばかりで一体何が?と不思議に思っていたら、その内容は「素晴らしいスタートをきれていること」に対する表彰とのこと。目に見えないものを評価して表彰までする、というのは素晴らしいし、自信につながるなと思います。また、こちらでは中学生の分類に当たる長男に関しては、休み時間に学校の外に出てもよく、スーパーマーケットなどで「買い食い」など、友達と冒険感覚で学校生活を楽しんでいます。親の許可が大前提ですが、この辺の自主性を重んじる文化は日本とは違うなと感じますね。ま、お菓子ばかり買っていて、妻がキレたのも事実ですが……(笑)。何だかんだで、ドイツに再び来て10日目の今日、子供3人それぞれが友達とプレイデートをして遊んでいて、娘が友達とピクニックごっこをしているのを横目に見ながら、このブログを書いています。
Approbationの書類申請で提出したもの
Approbationの書類申請は、基本的には「医学教育の同等性」を示せれば良いのですが、当然日本とドイツは同じ教育・研修内容ではありません。実際にシラバスを比べてみると、いくつか足りない科目があります。そういった点を審査の中で「補う」ために、余分に書類を提出します。僕は以下の書類を提出しました。
1.シラバス
2.初期臨床研修修了証明書およびその研修内容
3.後期研修修了証明書およびその研修内容
4.認定内科医
5.循環器専門医
6.各病院の在職証明書
7.ボン大学での業務証明書およびその内容
これらの書類を、1)各施設で発行、2)行政書士に委託して公証人役場提出およびアポスティーユ付与、3)ドイツで法廷翻訳士に委託して翻訳およびBeglaubigungしてから保健局に提出します。その過程で保健局の事務から書類の不備などを指摘されたりするので、僕はApprobation申請だけで、この過程を3回くらい行なっています。また、保健局は非常に連絡がとりづらく(24話参照)同僚も巻き込んで繰り返しアプローチをしていました。現在はその書類審査中ですが、果たしてうまくいくのかどうか。同僚はしきりに、「KP(Kenntnisprüfung:医学知識試験)受けちゃいなよ〜、アツシなら絶対いけるでしょ」って言ってくれますが、今からドイツ語で医学全般を網羅するのはエベレスト級の山を登るのと同じようだなと、笑顔で受け流してしまいます。
<プロフィール>
杉浦 淳史(すぎうら・あつし)
ボン大学病院
循環器内科 指導上級医(Oberarzt)
論文が書けるインテリ系でもないのに「ビッグになるなら留学だ!」と、2018年4月からドイツのボン大学にリサーチフェローとして飛び込んだ、既婚3児の父。
杉浦 淳史
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