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2024.03.21

けいれん、てんかん、意識障害―研修医からできるトリアージと専門医へのコンサルテーション―おまけ

はじめに

けいれん、てんかん、意識障害をテーマに以下の全5シリーズでお届けします。

シリーズ1から5を通して、神経救急の中でも「けいれん」「意識障害」「てんかん」を中心にその急性期対応を概説しました。最後に、知っていれば神経救急での鑑別がスムーズとなるような神経診察の考え方について説明したいと思います。

おまけ. 神経救急のフィジカル!!

1 .急性期での変な動き

脳梗塞などの脳血管障害での運動障害は麻痺が一般的ですが、時に不随意運動が出現することがありますので急性発症の経過であれば必ず画像検査をします。脳血管障害で認めやすい不随意運動としてはヒョレアやバリスムと呼ばれるものがあります。一方で、不随意運動の中でミオクローヌスは脳梗塞で認めることはまれで、蘇生後脳症で認めることが多い症候です。この様に、中枢神経で起きている病態・病因に応じて発現される運動異常が異なる傾向がありますので、ざっくりと覚えておくと鑑別に役立つと思います(表1)。なお、けいれん発作はどの病態でも起こり得るので、病因鑑別には不向きです。

表1 病因別で認めやすい不随意運動
病因 認めやすい症候
中毒・代謝性障害 けいれん発作、アステリキシス、ミオクローヌス
炎症性 けいれん発作、ジスキネジア、ヒョレア
感染性 けいれん発作、振戦、ヒョレア
低酸素 けいれん発作、ミオクローヌス、(ジストニア)
血管障害 けいれん発作、まれにヒョレアやバリスム

不随意運動の種類:
ミオクローヌスはピクッとなる一過性の短い不随意運動です(過去のシリーズでも説明しましたので、そちらをご参照ください)。一方、ヒョレアとは舞踏運動のことで「落ち着きのない様子で、不規則に、素早く、目的のない運動」をさします。一箇所の身体部位から他所へ流れる様に動きが連動してみられます。

バリスムとは四肢を近位部から大きく投げ出すような粗大な動きを示す不随意運動の一つです。ヒョレアを激しくした感じがまさにバリスムなのですが、バリスムは同じ運動の繰り返しであるのに対して、ヒョレアにはその様な常同性がありません。

2.非けいれん性てんかん重積を疑うポイント

遷延する意識障害での診察ポイントを概説します。血液検査や血液ガス検査、フィジカル、脳画像検査で診断が絞れないような意識障害に遭遇すれば、非けいれん性てんかん重積状態(NCSE: non-convulsive status epilepticus)が鑑別に入ります。NCSEの診断には可及的速やかに脳波検査を実施することが望ましいのですが、施設によっては緊急脳波検査の敷居が高いところも多いでしょう。そこで、漠然としたNCSEの疑いよりも、NCSEを疑うべき根拠を持っている方が脳波検査のオーダーに踏み切りやすいと思います。つまり、NCSEをより疑うべきシチュエーションやフィジカルを押さえておきましょう(表2)。

表2 変動あるいは繰り返す場合にNCSEを疑う臨床症状
● 変動する意識障害
● 失語(無言、反響言語、発語減少、保続など)
● 場にそぐわない感情表現や、精神症状、行動異常
●ミオクローヌス(眼瞼、口輪筋、咽頭部、四肢など)
● 四肢の筋トーヌスの左右差
● 誘引のない一過性のバイタルサインの変化
(脈拍上昇や血圧上昇が出現し自然に止まる、を繰り返す)

Claassen J, Perotte A, Albers D, Kleinberg S, Schmidt JM, Tu B, Badjatia N, Lantigua H, Hirsch LJ, Mayer SA, Connolly ES, Hripcsak G. Nonconvulsive seizures after subarachnoid hemorrhage: Multimodal detection and outcomes. Ann Neurol. 2013 Jul;74(1):53-64. doi: 10.1002/ana.23859. Epub 2013 Jun 27. PMID: 23813945; PMCID: PMC3775941.
Benbadis SR, Chen S, Melo M. What’s shaking in the ICU? The differential diagnosis of seizures in the intensive care setting. Epilepsia. 2010 Nov;51(11):2338-40. doi: 10.1111/j.1528-1167.2010.02683.x. PMID: 20738384.を参考に作成

非けいれん性てんかん重積を疑うポイント:
ICUでの意識障害では常にNCSEを意識しなければいけませんが、ポイントとしては「本来の臨床経過からは説明が難しい意識障害」あるいは「画像検査とは解離する意識障害」をみたら積極的に疑うようにしましょう。そして、診察所見も大事です。よくよく観察するとミオクローヌスや眼振など微細な症候が隠れていることがあります。また一点凝視や自動症、失語症などを認めることもあります。そしてこれらの症候はしばしば短時間だけ出現しては自然に消退し、一定のインターバルを経て繰り返し出現します。そのため、診察のタイミングが悪ければ発作症候を見逃してしまう可能性があります。つまりNCSEを除外するためにはある程度の観察時間が必要となるのです。また繰り返す一過性のバイタルサインの変化もNCSEではしばしば観察されますので、モニターのトレンドグラフの履歴が参考になります。

用語も整理しておきましょう。けいれん発作が確認できるようなてんかん重積状態をconvulsive status epilepticus(CSE)と呼びます。対して、明らかな痙攣発作を認めないてんかん重積状態をNCSEと呼びます。そしてこれらを包括したものが、てんかん重積状態(SE)です。

3.ベンゾジアゼピントライアル

何かしらの神経症候がありNCSEが疑われたとしても、脳波検査が当日中に実施できない状況はあると思います。そのような場合、抗てんかん薬による診断的治療が選択されることもあるでしょう。具体的にはジアゼパムなどを静注して、症状の改善があればNCSEだったとする判定方法です。ただしその判定は厳密に行わなければいけません。例えば意識障害+震えがあったとして、ジアゼパムを投与にてその震えが消失したとしても、それだけでNCSEと診断はできないのです。ジアゼパムの投与により、陽性所見の消失に加えて、意識状態の改善を伴う必要もあるからです(厳密には脳波の改善も必要)。なお、判定は結構難しいので、NCSEを疑うべき症候として何があったのかを投与前にしっかりと診察しておくことは当然として、理想的には脳波検査を行いながら抗てんかん薬を静注し、症状と脳波の改善があるかを観察するのが良いと思います。

まとめ

ICUでの意識障害の診療において、観察すべき神経所見とその解釈について説明しました。しっかりと観察しつつ、「確かな神経学的所見」を確認していきましょう。

<プロフィール>

音成 秀一郎

音成 秀一郎(ねしげ・しゅういちろう)
所属先:広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学 助教、広島大学病院 てんかんセンター
2008年に大分大学医学部を卒業。脳神経内科での後期研修を経て2015年より京都大学大学院医学研究科臨床神経学講座(同てんかん・運動異常生理学講座)で、てんかんと脳波の臨床研究に従事。福島県立医科大学ふたば救急総合医療支援センターでの復興医療支援を経て2019年4月から現職。脳神経内科での診療に加えてICUでのcritical care EEGにも従事。主催するてんかん・脳波のウェブセミナーには全国から年間のべ3000名以上の医師が参加。管理するLINEチャットでの遠隔脳波診断・診療サポートにも300名以上の臨床医が参加。著書に脳波判読オープンキャンパス~誰でも学べる7STEP~(診断と治療社)がある。

音成 秀一郎

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