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2023.09.05

書評『しくじり症例から学ぶ精神科の薬 病棟で自信がもてる適切な薬の使い方を精神科エキスパートが教えます』

民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。

医学書を読むのが大好きな先生方が初学者に向けた医学書解説・比較の医学書レビューと、日々医師のために医学書を作る出版社の担当者がおすすめの良書をこちらで集めて発信していきます。

今回は、『しくじり症例から学ぶ精神科の薬 病棟で自信がもてる適切な薬の使い方を精神科エキスパートが教えます』(井上真一郎著/羊土社)を紹介します。

購入先のリンク(Amazon)も掲載していますので、お気に入りの書籍があればご購入ください。

レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)

せん妄やアルコール離脱が起きてしまった場合に、治療として打てる手数が少なくて悩んでいる……。

不眠やせん妄は対処が難しく、精神科医の先生にすぐコンサルをしてしまう。何か自分で介入できることはあるのだろうか……?

 

精神疾患に関連した薬剤の調整の難しさについて、上記のように研修医の先生と話し合ったことがあります。

「精神科領域の薬剤について学べる、体系だった書籍があればいいな」と思いながら日々を過ごしていたところ、このたび羊土社様よりこのような書籍を贈呈いただきました。

本書を読むことで、精神科領域の薬の扱いや長期的に持つべき視点など、基礎的かつ重要な事項を学ぶことができ、処方の際に「怖いな」と感じるのを減らせるでしょう。

精神科領域で扱う薬を学ぶ際に、ベースとなる知識を身につけるのに最適な一冊として、自分が自信を持っておすすめするのがこちらです。

しくじり症例から学ぶ精神科の薬〜病棟で自信がもてる適切な薬の使い方を精神科エキスパートが教えます
井上 真一郎 (著)/ 羊土社 発行
価格:3,740円(税込)
発刊:2023/5/13
Amazon

書評『しくじり症例から学ぶ精神科の薬 病棟で自信がもてる適切な薬の使い方を精神科エキスパートが教えます』
    1. 1.本書のターゲット層と読了時間
    2. 2.本書の特徴
    3. 3.個人的総評
    4. 4.本書の読み方・活用方法
    5. 5.まとめ
    6. 6.医書レビュー

1.本書のターゲット層と読了時間

【ターゲット層】
・自分の担当患者が精神疾患の薬剤を飲んでいる時に、どのように管理したらいいかわからない非精神科医・研修医
・病棟における薬剤管理や、不眠やせん妄などの疾患に対する体系だったアプローチを学びたい方

【推定読了時間】
・4~5時間程度

2.本書の特徴

【本書の特徴】
本書は、新見公立大学健康科学部看護学科教授の井上真一郎先生が執筆された、
●「しくじりポイント」を元に精神科疾患の薬剤を解説
●会話形式による解説で、初学者でも取り組みやすい
が特徴の一冊です。

本書を読むことで学べる特徴的な項目をピックアップすると、次のようになります

【本書で学べること】
●精神疾患に関する“病棟あるある”の事例
●薬剤処方に加えて、患者さんとの接し方やリラクセーション法を含む包括的な対応方法
●処方すべき薬、状況をまとめた“処方例集”

これらは、精神疾患について初めて学ぶ先生方が知っておくべき基本であり、大切な事項であると思います。

3.個人的総評

本書の特徴はなんと言っても、“行うべき治療ができなかった例”や“判断の難しい例”などでの「しくじりポイント」を基に精神科の薬の解説を行なっている点です。

私自身、本書で紹介されている事例を読み、自分自身が救急医や整形外科医として勤務していた時を思い出しながら、「本当にあるあるだよなあ」と感じました。

精神科専門医と研修医の会話形式による解説は非常に現実に即した内容であり、初学者であってもストーリーを楽しみながら理解することができるでしょう。

エピソードとして記憶ができるため、覚えやすさという点でも、初めての方にはおすすめの一冊です。

  • 薬物療法に関して、それぞれの患者さんのシチュエーションや症状に応じて、最適な処方内容が細かく記されており、かなりのこだわりを感じました。
  • 患者さんの全身状態や肝機能、腎機能の状態によっては、使えない薬剤もあります。そのような場合についても、セカンドアプローチが示してあるため、悩ましい時や困った症例で参考にできると感じました。

加えて、薬剤のみの治療やアプローチを扱っている訳ではないのが、本書の良い点として挙げられます。

「不眠やせん妄に対する処方薬」といった目前のアプローチについて書いてあるだけでなく、

  • 患者さんごとに、今後の長期的な生活や予後を考えること
  • アルコール離脱せん妄の患者さんの、アルコール依存を断ち切るための治療へとどう繋げるか

といった長期的な展望についても詳しく書かれていました。

これらの知識を持っておくことで、非精神科医の先生方が「どのように精神科の先生方と協力し、患者さんの診療を進めていくべきなのか」という指針についても併せて理解することができます。

以上のように、精神疾患に関わる薬剤の知識から長期的なアプローチまで、会話形式でわかりやすく学ぶことができる本書は、“精神科領域で扱う薬を学ぶ際に、ベースとなる知識を身につけるのに最適な一冊”であると言えるでしょう。

一方で、あくまで個人的な印象ではありますが、気になった点としては、少し分量が多く感じられることが挙げられます。本書はほとんどが会話形式で執筆されているため、わかりやすい一方でページ数が膨らんでしまうという欠点があります。会話形式の箇所を少し減らしたり、サマライズである程度解説したりするなど、工夫があるともっと読みやすいかも?と感じる部分もありました。

あくまで個人的な印象ではありますが、この点について少しだけ念頭に置いた上で、一度手にとっていただければと思います。

これらは本書の個人的な評価であり、何様だよと言われてしまうことは重々承知ではありますが、本書は精神科領域で扱う薬を学ぶ際に、ベースとなる知識を身につけるのに最適な一冊である! と感じました。

4.本書の読み方・活用方法

【本書のおすすめの読み方・活用方法】
●まずは高頻度で遭遇する事例を知る
●目次を参考にさらっと通読して、どこに何が書いてあるかざっくり把握(付箋を貼るのも良いでしょう)
●その後は症例を経験した後に読み直して復習!

個人的におすすめの使い方をご紹介します。

筆者個人の意見としては、まずは病棟にて高頻度で遭遇する事例を学ぶことが大切だと感じます。

特に、不眠やせん妄、アルコール離脱せん妄については、自分自身が対応に悩んだり今後必ず高頻度で向き合ったりすることになると思いますので、本書で早めに学んでおくことをおすすめします。

具体的な時期としては、「精神科ローテーションまでに、うつ病の治療など精神疾患の加療について書かれている項目について学びおわる」ペースが最適です。その後は、目次を読み内容を把握しておくことで、いつでも参照できるようにすると良いでしょう。

私自身、自分がベストだと思っていた薬剤選択よりも、参考文献を確認することでより良い薬剤選択を見つけることができた経験があります。

本書には、処方すべき薬、状況をまとめた“処方例集”が付属していますので、実際に自分が不眠やせん妄の指示簿入力について悩んだ際に、辞書的な使い方でこの書籍をすぐに参照することができると思います。

その後は、症例を経験した際に復習をすることで、盤石な知識としていきましょう。

5.まとめ

本書は精神科領域で扱う薬を学ぶ際に、ベースとなる知識を身につけるのに最適な一冊である!

まとめると、本書は精神疾患への対応について、薬剤選択から長期的な視点まで幅広く学ぶことができる、本当におすすめの一冊です。

この一冊を通じて学ぶことで、精神科領域の薬の扱いを学び、処方の際に「怖いな」と感じるのを減らすことができます。

以下に要点や基本事項をまとめましたので、購入する際には是非参考にしていただければ幸いです

6.医書レビュー

基本情報 タイトル:しくじり症例から学ぶ精神科の薬 病棟で自信がもてる適切な薬の使い方を精神科エキスパートが教えます
編集:井上 真一郎
出版社:羊土社
発行年月日:2023/05/13
ターゲット層

●自分の担当患者が精神疾患の薬剤を飲んでいる時に、どのように管理したらいいかわからない非精神科医・研修医
●病棟における薬剤管理や、不眠やせん妄などの疾患に対する体系だったアプローチを学びたい方

推定読了時間

4-5時間程度

本書の特徴

●「しくじりポイント」を基に精神疾患の薬剤を解説
●会話形式による解説で、初学者でも理解しやすい

本書で学べること

●精神疾患に関する“病棟あるある”の事例
●薬剤処方に加え、患者さんとの接し方やリラクセーション法を含む包括的な対応方法
●処方するべき薬、状況をまとめた“処方例集”

評価
購入先

本書の読み方・活用方法

●まずは高頻度で遭遇する事例を知る
●目次を参考にさらっと通読して、どこに何が書いてあるかざっくり把握(付箋を貼るのも良いでしょう)
●その後は症例を経験した後に読み直して復習!

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この記事を読んで参考になった方、面白いと思ってくださった方は、今後も定期的に記事を更新していきますので、その他の記事も是非読んでみてくださいね!

★今回の書籍以外にも、踊る救急医先生の医学書レビューはこちらのページで読むことができます!
想定読者や各診療科ごとにわかりやすくまとめられているので、興味がある方はぜひ参考にしてみてくださいね。
詳細はこちら≫https://dancing-doctor.com/2021/03/31/review-reader/

<プロフィール>

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
広島大学救急集中治療医学所属
広島大学病院 救急科 医科診療医
日本医師会公認健康スポーツ医
日本救急医学会認定ICLSインストラクター

立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。


【踊る救急医】
Twitter https://twitter.com/houseloveryuki
ブログ https://dancing-doctor.com/

三谷 雄己【踊る救急医】

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