記事・インタビュー
ドイツはノルトライン=ウェストファーレン州にあるボン大学で循環器内科のフェローとして働いている杉浦 淳史です。
この記事では、日本生まれ日本育ちの循環器内科11年目がドイツでの研究・臨床留学の中で経験するさまざまな困難・葛藤・喜びを、ありのままにお伝えします。
年に1回? ボスとの面談
昨日COVID-19のワクチンを打って今日は熱で布団に籠りながらブログを書いています。今まで人生でワクチン接種後に40℃の熱が出たことはなかったなあ。
さて、先日ボン大学のボスと面談(Personalgespräch)をしてきました。ドイツではどこの企業でも年に1回はこういったボスと社員の1対1の話し合いがあるようで、働き方、給料、将来のビジョン、キャリアプランについて話し合うようです。双方が考え方やビジョンを共有するのは、とても効率的だと思いますし、キャリアパスを考える時に重要だと思います。ドイツ人ははっきり言うので、僕はもう君を必要としないよ、とか言われた同僚もいます(笑)。
今回は、給料と働き方について交渉したかったので、僕の方から面談を申し出ました。内容は給料を増やしてほしい、術者件数をもっと増やしていきたい、というもの。それなりに交渉時に話すことを準備して臨みましたが、中々手強かったです。微動だにせずに僕をじっと見つめるボスは、顔のシワに百戦錬磨の経験値が滲み出ていて、久しぶりに手に汗をかきました(笑)。こういうのは、海外とか外資系企業で働いている人にとってはきっと日常的なことなんでしょうね。
面談待ちをしている時、ボスの部屋の前で。ピンと張り詰めた雰囲気の中……
学会ライブ配信
昨年から、いろんな学会での治療ライブ配信に、術者チームとして参加する機会が増えました。ボン大学に来た当初は外から見ているだけだったのが、今はこのようなチャンスがまわってきていることをとても嬉しく思います。後任として来られた田中先生、須藤先生も素晴らしい症例スライド作りを担当してくれています(地味にすごい助かっています)。
ライブには多くの機材と人員が必要なだけでなく、医療チームの総合力も問われます。そして、術者は結構骨が折れる仕事だろうと感じます。プレッシャーの中で、時間配分に気を使いつつ、コメンテーターとディスカッションしつつ、治療を無事に完了させなければなりません。ハードルがとても高すぎてワクワクします。将来、日本からアジア、ヨーロッパ、北米に向けてライブ配信ができるようにしたいです。
ライブ撮影時の写真
休暇の使い方、ドイツ人編
前回、1週間の休暇をとってゆっくり休んだことを書きましたが、ドイツ人はどのように休暇を過ごしているのでしょうか。今までに聞いた内容をまとめると、以下のようになります。
1.旅行
2.のんびりする
3.試験や資格などの準備期間にあてる
4.子供の誕生日
1や2は十分な休息をとれるので、その後の仕事への原動力になります。僕も思っていましたが、「長く休むと仕事に戻れなくなる」という意見をよく耳にしていました。それは、ドイツ人的には「期間が短い」からだそうです(笑)。実際僕は、2週間しっかり休むと、かなりリフレッシュして休暇をより楽しむことができつつ、休暇後の仕事にも熱が入りました。一方、4週間休暇をとった同僚は、休暇から戻ってきた時に「もうこれ以上休暇はいらない、とにかく働きたい!」と言っていました。それが面白かったです。日本の病院では、まず主治医制を崩していかないと難しいと思いますが……。3もあまり日本にはない考え方ではないかと思います。個人が資格をとったりスキルを身につけたりすることは組織のレベルアップにつながるはずですし、そのためにいわゆる「有給休暇」をとること、とらせることは大事なことだと思います。あと、特に驚いたのは4です。どんなに忙しい役職の人でも、子供の誕生日には休暇をとっています。家族がいてこその自分という考え方が、バリバリ出世街道を進む人たちにも浸透しています。どんなに出世したり給料が上がったりしても、家族がアンハッピーだと意味ないよね、といった感じです。
日本は、みんなが働いている時に休む、ということに罪悪感を覚えるような社会です。そう教育されてきましたし、職場もそういった雰囲気だから仕方ありませんが、「過労死」という難しい単語をドイツの人たちが知っているほど、日本の労働環境は褒められたものではないと思います(ちなみに、過労死なんてこっちの国々ではまず考えられません)。効率的に生産的に働いて、余暇を十分楽しむことが、日本の社会でできるようになったらいいなあと思います。だれか同世代のキレキレの人が政治を変えていってくれないでしょうか。まあ、こんなことを書いた僕は日本に帰国したら村八分にされるかもしれませんが(笑)。
左:明るくなってきた2月後半の公園の風景 右:同僚の田中先生とライン川沿いをランニング
<プロフィール>
杉浦 淳史(すぎうら・あつし)
ボン大学病院
循環器内科 指導上級医(Oberarzt)
論文が書けるインテリ系でもないのに「ビッグになるなら留学だ!」と、2018年4月からドイツのボン大学にリサーチフェローとして飛び込んだ、既婚3児の父。
杉浦 淳史
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