記事・インタビュー

2024.08.28

【Doctor’s Opinion】世界を繋ぐ医療ICT

東京慈恵会医科大学附属病院 脳神経外科 主任教授

村山 雄一

医療DX、オンライン診療、われわれを取り巻く医療環境はAIを含む医療ICTにより今後劇的に変わってゆくだろう。

2003年足かけ8年にわたる米国UCLAでの勤務から帰国し、母校の東京慈恵会医科大学で脳卒中に対する脳血管内治療を開始した。まだ30代であり、黎明期にあった脳血管内治療を身に付けようと意気込む若手脳外科医たちとチームを作りくも膜下出血をはじめとする脳卒中の緊急手術に対応していた。当初は術者1人なのに24時間365日体制で対応していたものの、さすがに外出先での携帯電話のみでのコンサルテーションには限界があり、出先でも画像が確認でき、複数の医療関係者と同時に意見をシェアできないかというニーズで開発されたのが現在のJoinというアプリである。Joinは国内初の医療機器として承認を得たソフトウエア、いわゆるSaMD(Software as aMedical Device)である。当初の機能はLINEのような限られたメンバーでのチャット機能での患者情報と匿名化された画像の共有であった。

開発のきっかけは早期治療ができれば命を救うだけでなく機能予後の改善が期待できる脳卒中であるが、問題は専門医不足、特に地域格差の問題であった。専門医不足の医療施設に搬送された患者の血管内治療の適応の有無、専門施設への転送の必要性などの判断が患者情報を共有することで適切なアドバイスを仰ぐことが可能になった。脳卒中治療は言うまでもなく夜間を含めた緊急診療であるが、リスクがあり緊急手術の多い脳神経外科は全国的に人材不足である。

働き方改革の導入で脳卒中診療はさらに危機的状況になることが危惧される。ICT活用による遠隔の医療機関への診療支援がますます重要になると考えている。Joinは現在では世界1000カ所以上の医療機関で利活用されるまでになり、単なる画像のみならず血管撮影や内視鏡などのライブイメージの共有も可能になった。次なるステップは国境を超えた遠隔医療支援システムの構築である。すでに日米での新規デバイスのproctoring は医療機器メーカーと協力して行っているが、グローバルサウスの国々への技術支援も開始している。われわれの施設ではインドネシア大学と提携し若手脳神経外科医を受け入れて技術指導を行っているが、彼らが帰国後治療を開始する際に、日本にいながらステントやコイル留置手技がその場での指導と遜色なく行うことが可能になった。約2億7000万人の国民が1万を超える島々で生活する環境を考えると遠隔医療のニーズは大きい。経済的にも急速に発展しており、世界、それもグローバルサウスに目を向けるチャンスかもしれない。

村山  雄一  むらやま・ゆういち

1989年東京慈恵会医科大学卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校脳血管内治療部准教授などを経て、2003年慈恵医大附属病院脳血管内治療部診療部長、2004年カリフォルニア大学ロサンゼルス校脳血管内治療部教授、2013年慈恵医大脳神経外科学講座主任教授、2015年同大脳卒中センター長就任。生体反応性を高めた世界初の塞栓用コイルを開発、動脈瘤治療の名手として知られている。「ドクターの肖像」2012年11月号に登場。

※ドクターズマガジン2024年8月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

村山 雄一

【Doctor’s Opinion】世界を繋ぐ医療ICT

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