記事・インタビュー

2024.03.21

【Doctor’s Opinion】やりたいことをやりましょう!

川崎大動脈センター・創設者 / 社会医療法人財団石心会 川崎幸病院 院長

山本 晋

今年、当法人(社会医療法人財団石心会)の設立者である石井理事長が退任しました。その退任の挨拶で、「これからの人は誰かからやれと言われたことをやるのではなく、自分のやりたいことを存分にやってください」と明言しました。私たち石心会は川崎における地域医療と救急医療の担い手として発足し、半世紀にわたり大いにその任を果たしてきました。それはまさに当時の法人設立メンバーが自分たちのやりたいことを徹底してやってきた証です。正義感・倫理観からすれば、「やりたいこと」は「やるべきこと」なのかもしれません。

私は今からおよそ30年前に「大動脈外科」という当時はあまり認知されていない医療に足を突っ込み、川崎幸病院に来てからは「大動脈一筋」で20年間やってきました。仲間たちの協力もあり(いや、協力があってこそです)、今では手術件数・手術成績ともに川崎大動脈センター(KAC)は世界に誇れるものとなりました。その最大の要因はやはり「自分のやりたいことをとことんやる!」ことだったと思います。3年前には心臓外科のトップランナーである高梨秀一郎先生(実はレジデントの頃からの親友です)も、「やりたいことができる病院」ということで当院に合流しました。ちなみに当院では大動脈外科と心臓外科はそれぞれ独立しています。

梁山泊は“はみ出し者”の集まりかもしれませんが、やはり川崎幸病院は梁山泊のような場所でありたいと思っています。それぞれの診療科や部署に強者(つわもの)が集まってお互いに影響し合い発展していくことができれば理想的です。ここ数年は国内だけでなく、タイ、台湾、フィリピン、インド、インドネシア、フランス、そしてウクライナから、医師や看護師の留学生が当院に集まってきています。大動脈センターに影響されたのか、当院の脳血管センターのactivityも急速に高まりました。また、整形外科は当院では収まりきらず買収した別病院で単科独立を果たしました。一方で、当院で育った医師や看護師にはもちろん当院で活躍してもらいたいですが、海外に出て行って活躍するもよし、大学教授や他院の責任者になるもよし、です。

病院は多職種の集合体です。医師・看護師から医療技術者、そして事務職員に至るまで全ての職員にはそれぞれの思いがあり事情があります。もちろん全ての職員というのが理想ですが、それでもできるだけ多くの職員が「自分のやりたいことをやれる」ようにすることが組織の発展には欠かせません。しかし、みんなのやりたいことが必ずしも利益に結びつくとは限りません。民間病院では利益を無視して「やりたいことだけをやっていれば良い」という訳にはいかないのも事実です。むしろ、やりたいことをやってもらうためにはお金がかかる場合が多い。販売価格を自ら決定できない日本の医療制度の中で、どうやってこの二律背反を克服していくか、先行き不安になります。でもです、案外そうでもないかもしれません。

しかしながら勝つパターンが使えなくなった不連続性の時代だからこそ、開き直って「やりたいことをやっちゃえ!」というのもありです。私のやってきた大動脈外科はかつて不採算の代表でした。手術は時間がかかるし術後はICU で長期呼吸器管理となり“焦げ付く”ことが多い。なんとか呼吸器を離脱しても、その後の在院日数はバイパスや弁置換と比べたらはるかに長い。当然大赤字でした。それでも当時の経営者が、「(大動脈外科を)やりたいのならどんどんやりましょう!」と言って応援してくれたから続けることができました。その結果、今や川崎大動脈センターは病院の稼ぎ頭となっています。

経済合理性は考えなくてはなりませんが、それだけでは面白くありません。私たち組織の経営者は、かつて私がそうしてもらったように、職員がやりたいことができる環境を用意することが重要な仕事だと考えています。

山本 晋 やまもと・しん

1986年香川医科大学卒業。日本医科大学付属病院救命救急センターを経て、1987年順天堂大学医学部附属病院へ。1996年アメリカのベイラー医科大学外科、1997年Texas Heart Instituteの心臓血管外科に留学、2001年順天堂大学胸部外科。2003 年川崎幸病院に入職し、2018年に院長に就任。「ドクターの肖像」2018年3月号に登場。

※ドクターズマガジン2024年3月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

山本 晋

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