記事・インタビュー

2023.03.16

【Doctor’s Opinion】沖縄県におけるCOVID-19 診療 全ての医療機関が一つの有機体として機能

おもと会グループ 特別顧問 / 琉球大学 名誉教授

藤田 次郎

沖縄県でのCOVID-19の流行の特徴は、観光、および米軍との関連が強いことである。特に都会からの観光客の増加と感染者数とは密接にリンクしていた。これらの影響を強く受けた結果、人口当たりの感染者数は高い状態を維持し続けた。

2021年12月からは、沖縄県では米軍基地経由でオミクロン株が全国に先駆けて大流行した。米軍基地経由であったため、同じく米軍基地が存在する山口県や神奈川県も同様に、日本で最初にオミクロン株の流行を経験した。オミクロン株(BA・1→BA・2→BA・5)に置き換わってから、沖縄県のCOVID-19の人口当たりの感染者数は2022年の早い時期から2022年8月にかけて全国最多を記録し続けた。その結果、オミクロン株の臨床的特徴を早期に把握し、全国にマスコミを通して発信できたことは、筆者なりに大きな役
割を果たせたと感じている。オミクロン株は、それまでのデルタ株と比較して、臨床症状が軽症化していた。当初、米軍基地で勤務する若者を中心とした感染症であったため、予後は極めて良好と感じていたが、その後、若者から高齢者に感染が移行したこと、また高齢者施設でのクラスターが多数発生したことで、第6波(主としてBA・1、BA・2による)、および第7波(主としてBA・5による)では、多くの高齢者が亡くなられた。オミクロン株以降の沖縄県の死亡例の年齢分布を調べてみると、オミクロン株以降の死亡例は圧倒的に高齢者が多いことが示されている。90代以上で女性の死亡者が多いのは、女性に長寿例が多いためである。オミクロン株以降、沖縄県では小児の感染者数も多かったが、小児の死亡例は経験していない。

さて沖縄県において、他県と比してCOVID-19の感染者数が多い理由をまとめると、⑴都市部の人口密度の高さ⑵移動人口の多さ⑶若者人口の多さ⑷有配偶者率の低さ⑸世代間交流の活発さ⑹締め切った生活環境(夏季)⑺在沖米軍における流行 - などが指摘されている。特に県の人口に加えて、米軍兵士、およびその家族の人口約5万人を加える必要があること、活動範囲の広い観光客が多いこと、および高齢化率が全国最低であることなどの要因は社会活動が活発であることを示しており、当然のことながら感染者数の増加に反映される。

加えて検査体制の充実も挙げられる。沖縄県では、民間運営のものも含め多くのPCR検査センターが稼働しており、沖縄県内の1日当たりのPCR検査能力は行政と民間を含め最大で約2万8000件となり、全国平均の1・5倍の検査が可能である。もともと沖縄県の救急診療は充実していることもあり、ほぼ全ての指定医療機関・重点医療機関の救急診療は発熱外来を立ち上げ、ここに多くの患者さんが受診することが可能な体制が整備されている。この結果、検査数がさらに多くなり、必然的に陽性症例が増加することになった。

沖縄県のCOVID-19診療の特色は、3つの指定医療機関と20以上の重点医療機関が、まるで一つの有機体のように機能している点である。沖縄県新型コロナウイルス感染症対策本部の3人の救急専門医が毎日の県全体の病床稼働を把握して、入院の適応、ホテル療養、在宅療養などの判断も含め、病床の運用を担っている。このように沖縄県全体の医療施設が一つの病院として機能するような体制を構築したにも関わらず、しばしば入院困難例が生じた。その最大の要因は医療従事者の感染と高齢者施設でのクラスターであった。

COVID-19の予後は高齢者ほど悪いことが明らかになっていることから、介護サービス事業所・施設で感染が拡大し、高齢者が感染した場合に重症化するリスクが強く懸念された。実際に第5波で高齢者施設内でのクラスターを多数経験した。これらの経験を踏まえ、感染拡大を未然に防止するために、沖縄県の予算で、無症状陽性者を早期に隔離することを目的に、介護サービス事業所・施設職員向けに2週間に1回PCR検査を実施した。また高齢者施設でクラスターが発生した際には、沖縄県感染制御・施設機能維持支援チームによるバックアップ体制が構築された。このチームには医師、看護師、ロジ担当者(県職員や各種病院の事務担当者)、DMAT・DPATメンバー、ソーシャルワーカー、介護関連事業者など100人以上のメンバーがほぼボランティアの状態で参加し、医療資源が手薄な有料老人ホームや障害者施設などのクラスター対策・支援を行ってきた。またゾーニングなどの感染対策、行政と連携した早期のスクリーニングPCR、物資の調達・供給、人員不足に対するBCP発動と人員派遣などを総合的に行い、施設内での療養を行うことで重点医療機関の入院病床への負担軽減を担ってきた。多くの医療機関が一つの有機体として機能することで、沖縄県では感染者数は多いものの致死率は比較的低く抑えられている。

藤田 次郎ふじた・じろう

 

1981年岡山大学卒業。虎の門病院、国立がんセンターでの内科研修を経て、1985年米国ネブラスカ医科大学 呼吸器内科に留学。1987年香川医科大学第一内科入局、2001年同講師、2005年琉球大学医学部 感染症・呼吸器・消化器内科(第一内科)教授、2015年琉球大学医学部附属病院 病院長、2022年現役。「ドクターの肖像」2010年10月号に登場。

※ドクターズマガジン2023年2号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

藤田 次郎

【Doctor’s Opinion】沖縄県におけるCOVID-19 診療 全ての医療機関が一つの有機体として機能

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