記事・インタビュー

2023.02.14

【Doctor’s Opinion】睡眠とその障害の未来

獨協医科大学 副学長

平田 幸一

われわれ人類にとっての睡眠は、脳の発達のため必然であったといってよい。睡眠がさらなる高度の脳機能獲得につながり、また効率的に体を休めるのに役立っているわけである。

一方、現代社会では、効率化を求めるあまり睡眠時間の短縮傾向が年とともに見られている。睡眠障害は、単に不眠という症状があるだけと思われがちであるが、実は睡眠障害自体がライフスタイルの変化や老化を表す指標でもあり、総睡眠時間の減少、睡眠効率の低下や中途覚醒の増加、浅く分断された睡眠は高齢者では歩行スピードの低下、椅子からの立ち上がりや狭い幅の歩行などのパフォーマンスに悪影響を与えるとの研究結果がある。また、睡眠障害と密接な関連を持つものにうつ病があるが、まさにこれは、健全な脳機能や心に睡眠が深く関与していることの証しと思われる。また、睡眠障害は疾病発症の一つの誘因であるともいえる。実際、米国での大規模な疫学調査では、適切な睡眠時間には個人差があるものの、平均睡眠時間と死亡率の間にはU 字型の関係があり、6~7時間の睡眠をとる者の死亡率が最も低く、それ以下でもそれ以上でも死亡率は上昇する、これは高血圧、糖尿病、脂質代謝異常そして肥満度の間にも、このような関係がある、すなわち、6~7時間の睡眠をとる者の血圧は低く、糖尿病、脂質代謝異常も少なくそして肥満度が低い、また閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を代表とする睡眠の質の低下は、認知症の発症にも関与しているという報告もある。この適度な睡眠時間の個人差といわれている部分に関しては、実は睡眠の質が大きく関与していると考えられている。

診断の進歩
睡眠障害を診断するには睡眠障害国際分類第3版に基づき、睡眠の機会が十分であるのにもかかわらず、入眠障害、頻回の覚醒、早朝覚醒のどれかがあり、一週間に3回、少なくとも3カ月以上続く場合とされている。睡眠日誌といわれるものや、日中の眠気を測定する質問表なども汎用されているが、睡眠ポリグラフすなわち脳波、筋電図、眼球運動などにより作成される睡眠図で一夜の睡眠の状況を把握するのが最も客観的である。

原発性睡眠障害の代表的なものであるOSA、レム睡眠行動異常症(RBD)、中枢性過眠症さらにはレストレスレッグス症候群については、かなり診断が進歩し、病態解明も行われてきているが、やはりそのモニタリングに結びついた治療については、まだまだであるといえる。もちろん、OSAに対する持続陽圧呼吸療法(CPAP)を遠隔モニタリングで行うことは、現在すでに始まっているが、少子高齢化が進むわが国では、今後Society5・0ともいわれる超スマート化社会において、遠隔診断、自動診断が必要となるであろう。スマートフォンあるいはウェアラブルデバイスは、不眠を訴える患者のみならず、健常者を含めたヘルスケア、さらには生活習慣病を合併している患者に関してかなり有用なツールとなるであろう。このデバイスには、心拍や歩行などの現在すでにある一般的なセンサーのみでなく、睡眠に影響を与える因子として重要な、体温、外界の温度、照度、そして可能であれば、脳波、筋電図も持続測定できるものが必要であろう。さらにこれらによって得られたビッグデータを年齢別、職業別、収入別、地域別などに分けてAIで解析することにより、睡眠障害の俯瞰的データが得られることになる。この検討は、睡眠障害の可視化に繋がり、それに対する国や世界的な施策に昇華される一方で、Personalized sleep medicine を可能にすると思われる。

治療の進歩
睡眠障害の有病率は10%、不眠症状を有する割合は25%と対象患者は多いにもかかわらず、治療介入をされている割合は40%に満たないと指摘されている。治療介入が不十分となっている理由の一つとして、睡眠障害診断後の治療方針として睡眠薬が導入されがちであることが挙げられている。認知行動療法(CBT)がガイドライン上、第一選択として推奨されている米国および欧州でも、同様の状況になっており、CBTを実施する医療従事者のリソース不足が課題となっている。情報技術を用いて行うプログラム医療機器の開発により、医療現場のリソース不足を乗り越えCBT治療を行う取り組みが進んでいる。また、前述のスマートフォンあるいはウェアラブルデバイスを基盤とするアプリはCBT治療のみならず、睡眠導入薬の投与とその服薬状況、簡易睡眠ポリグラフによる睡眠障害改善をフィードバックしてくれると考えられる。

睡眠障害が引き起こす疾患が、新規デバイスによるモニター、治療により改善されれば、医療経済学的問題の改善に繋がり、睡眠社会学のみならず社会全体としてのアウトカムとなる。すなわち、人生100年時代における健康寿命を延ばす鍵として、睡眠医療の革新的進化が必要になるであろう。

平田 幸一ひらた・こういち

 

1980年獨協医科大学医学部卒業。1986年Zurich大学神経学教室研究員を経て、1988年獨協医科大学神経内科講師、1996年同主任教授、2010年獨協医科大学病臨床研修センター長、2014年同副院長、2017年同病院長就任。2020年獨協医科大学 副学長 内科学(神経)名誉教授。「ドクターの肖像」2019年5月号掲載。

※ドクターズマガジン2023年1号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

平田 幸一

【Doctor’s Opinion】睡眠とその障害の未来

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