記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】医師の負担軽減について

香川県立中央病院院長
塩田 邦彦

 近年、病院勤務医師の長時間過重労働が大きな問題となっています。当院も同様で、労働基準法に定められた週40時間勤務を大幅に上回っている医師も多いのが現状です。また、救命救急センターを開設していることもあって当直回数が多く、その翌日の手術は可能な限り避けているものの、当直明け休暇がとり難く、日常業務を行う場合もあります。患者の生命と健康に関わっている我々の業務は強い精神的緊張を強いられるものです。良質で安全な医療を提供するためには、このような状況を早急に改善する必要があります。そのため、医師事務作業補助者と看護補助者の大幅な増員を行い、看護職や事務職など他職種間との業務分担の見直しを検討していますが、様々な問題に直面し、苦慮しているのが実情です。簡単そうで決して簡単ではない「医師の負担軽減」について当院の実情をご紹介させていただきます。

医師の負担増の最大の要因のひとつは書類作成の増加です。入院診療計画書、手術や検査に関する説明と同意書、退院療養計画書、診療情報提供書、退院サマリー、各種診断書・意見書と一人の患者に数多くの書類を作成する必要があります。新入院患者の増加と在院日数の短縮により、書類作成数が増加するとともに、医療の質の向上の観点から記載内容の充実が求められています。私自身、日常診療で重症患者が集中しても治療そのものは苦でありませんでしたが、多忙な中での書類作成は勤務時間外に行わざるを得ませんでした。この面では、医師事務作業補助者の導入が極めて効果的であり、ある程度の経験を積めば、診断書などはほとんど加筆修正の必要がないものを作成してくれます。一方、医師の中には、入院診療計画書から退院サマリーまでの全ての書類を医師事務作業補助者に作成してほしいとの要望もあります。できるだけ医師の負担を軽減したいところですが、入院診療計画書、説明・同意書や退院サマリーは診療の根幹であるので、医師自らが作成すべきだと思っています。

以上の対策は医師の業務を側面的に支援するものでありますが、同時に、医師の診療そのものの負担を軽減する対策も検討する必要があります。この面では、厚生労働省の進めているチーム医療の充実が効果的です。当院でも栄養サポートチーム、呼吸ケアチーム、感染対策チーム、褥瘡対策チームなどのチーム医療の充実を図っており、看護師、薬剤師、リハビリテーション関係職種、管理栄養士、臨床工学技士、臨床検査技師などの各職種が行う業務範囲の検討結果を踏まえて、医療スタッフの協働・連携による診断、治療方針を主治医が承認、施行することにより、医師の負担軽減に効果が生じています。

また、厚生労働省において、医師の包括的な指示があれば、医師にしか認められていない診療行為の一部を担うことのできる「特定看護師制度」が検討されているところです。賛否について様々な意見があるようですが、社会全体の高齢化が進むなど、医療現場の負担がさらに増加することは確実で、是非とも前向きな検討をお願いしたいと考えています。

患者と医師の円滑な関係を維持することが難しい患者の存在も、医師の精神的な負担となっています。暴力行為を働く患者は稀でありますが、暴言を吐く患者、医師の指示や病院のルールに従わない患者は決して稀ではありません。医療従事者の負担軽減を目的として、平成20年に警察本部の助言を得て警察OBの方をお招きしました。そこで、暴言や暴力に対応するマニュアルを見直し、一定の基準を満たす場合は、最悪、強制退去や強制退院も辞さないよう改めたところです。限度を超えた行為に対しては警察の協力を得て毅然とした対応を取っており、近年は初期段階で解決できることが多くなったので、結果的に一定の改善が図られたものと考えています。

医療事故への対応も医師にとっては大きな精神的負担となります。最近、予期せぬ死亡に関する医療事故調査委員会についての新聞報道がなされていますが、患者・家族にとって有益であると同時に、是非、病院に勤務する医師にとっても有益な仕組みとなることを切望しています。

医療を取り巻く環境には依然として厳しいものがあります。近年の診療報酬改定など、医療従事者の負担軽減について様々な取組みが行われていることに感謝すると同時に、引き続き、国・県・市町村や関係団体の皆様のご支援をお願いする次第です。

※ドクターズマガジン2013年10月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

塩田 邦彦

【Doctor’s Opinion】医師の負担軽減について

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