記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】地域医療へのミッション

社会保険 徳山中央病院 病院長
林田 重昭

 我が国における医療崩壊は1990年代より続く過度の医療費抑制策に遠因があり、2002年頃より医療安全に対する過剰な社会的要求に加え、警察の介入や過激なマスメディアの報道等もあって、現場の勤務医師に『立ち去り型サボタージュ』等の風潮が観られるようになった。その後2004年初期臨床研修義務化の施行に伴い大学医局にも医師不足が発生、それに続く地域病院への医師派遣の減少や集約化等のために中小病院は勤務医が不足。いわゆる医療崩壊が進み、少し改善したとはいえ未だ深刻な状況にある。

2007年4月私は社会保険徳山中央病院の病院長に新任致しましたが、その4月1日第5次医療法改定が施行されました。幸い当院には山口大学の協力もあり医師の派遣は行われていましたが、私達の2次医療圏においても小児科医、脳外科医、その他内科や周辺へき地の医師不足、また小児の1次、2次救急、NICUや3次救命救急センター未整備等の問題を抱えていました。

私達はこのような状況下において、地域医療に貢献すべく当局の推進する[(1)4疾病5事業の強化。(2)均霑化された地域完結型医療の推進。(3)地域の医療施設と連携し切れ目ない医療の実践。]に取り組んで参りました。一方、地域の医療施設や行政より要請があれば可能な限り協力してきました。因みに現在も小児科医、脳外科医、整形外科医、泌尿器科医、その他内科医等のパート派遣を続けています。また現在まで①周南地域休日・夜間こども急病センター(一次救急)を当院内に設置。②小児救急医療拠点病院(二次救急)。③緩和ケアー特例病床25床。 ④地域がん診療連携拠点病院。⑤救命救急センター。⑥災害拠点病院。などの修得と充実に努めて参りました。更に先日入院医療完全体制加算は既に認可され、地域医療支援病院は現在申請中であります。

さて社会保険病院の現状ですが、2011年6月17日に改正年金・健康保険福祉施設整理機構法案(改正RFO法案)が成立しました。これは独立行政法人RFOを独立行政法人 地域医療機能推進機構に改組するもので、2012年4月1日新たなRFO理事長に尾身茂氏が新任されました。社会保険病院である当院も2014年4月1日には地域医療機能推進機構に参画する決定がなされました。この新機構は社会保険病院、厚生年金病院、船保会病院を統合し、全国の傘下病院を挙げて地域医療に貢献することを最大のミッションとしています。特に地域医療連携の強化と広い診療能力を持つ医師即ち総合診療医の育成と普及を掲げ、新機構の公的病院グループとして実践すると表明しています。既に新機構においては平成25年度プレ事業計画の作成に着手しており、傘下病院に対しては前述しました如く地域医療推進の明確な決意を要請されています。

徳山中央病院においても従来より地域医療への貢献は最も大きなミッションであり、地域の基幹病院として努力して参りました。既に行政には第5次医療計画に続き第6次医療計画には精神疾患を加えた5疾病5事業が浮上しており、2013年度より執行が予定されています。従ってこの度の新機構への参画は今までのミッションの単なる引継ぎではなく、第6次医療計画を念頭に置いた新たな対応が必要であります。また新機構の重要なミッションとして、総合診療医の育成と地域医療への普及が挙げられています。私達も総合診療医の必要性は承知していますが、この対応は著しく困難な事業であり、自治医科大学を始めその成功例は未だ比較的少ない状況にあります。これは総合診療医がへき地医療の医師や病院でも診療科不足の医師の補助要員などに想定され、また専門医との住み分けの問題などがその原因で、総合診療医の育成と地域医療の勤務医としての普及には未だ充分な理解が得られていないと思われます。実際、地域医療における総合診療医の存在は病院においても、初診で原因疾患の専門分野が特定できない場合や、多くの疾患を有す高齢者の複数科受診等に極めて有用であると考えられます。また重症患者のチーム医療で、しばしば主病以外の複合合併症コントロールにもその有用性は今後益々高くなると推定されます。

徳山中央病院はこれに対応するため、重大な決意を持って総合診療医育成を企画、地域医療への普及に貢献することをミッションに加えました。

※ドクターズマガジン2012年10月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

林田 重昭

【Doctor’s Opinion】地域医療へのミッション

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