記事・インタビュー

2020.03.11

「月刊米山」vol.2 -いざ、渡米の時-

「“月刊”米山」と称しつつ前回から2ヵ月以上空いてしまいました。お許しください。米国テキサス州ヒューストンのTexas Children’s Hospitalで心臓外科医として働き始めた米山文弥と申します。
今回は、留学先が決定した後はどんなことをしなければいけないのか、僕自身の渡米直前・直後のリアルな状況をお伝えできればと思います。

渡米までのTo Do ~やはり書類作業の嵐~

Texas Children’s Hospitalで面接を受け、その後OKを頂いたのが2019年3月だったので、渡米まで半年以上はかかりました。

その間に必要だった書類の提出先は「ベイラー医科大学」「Texas Children’s Hospital」「テキサス州医師免許」「就労ビザ(H1B)」に大別されます。もちろん施設やプログラムによって差異があるとは思いますが、主だったものを列挙しますと(結局必要無かったものもありますが)、

  • 日本の医師免許の英訳
  • 日本外科専門医の英訳
  • USMLE score reports(STEP 1, STEP 2CK/CS, STEP 3)
  • ECFMG transcript
  • 予防接種の証明一式(TDap, MMR, Varicella, TB, HBV…)
  • 各研修施設の修了証明
  • テキサス州の医師免許申請
  • テキサス州の医事法の試験合格
  • 過去2年分の手術記録
  • NPDM(National Practitioner Data Bank)の登録と公証
  • FBIへ送る指紋証明

また出身大学関連では、

  • 在学・成績証明書
  • 大学のCredentialing(米国機関に依頼)
  • 医学長からの推薦状
  • 大学医学部のシラバスの英訳

これらに加え、各種契約書のサイン、ビザの申請が必要でした。

これから留学を考えている方は、施設が決まったら間髪入れずに次の準備に移るべきだと思います。僕の場合は「そろそろ先方から書類作業の連絡が来るかな(ワクワク)」なんて待っていたら、2カ月くらい音沙汰無く過ぎてしまい、自分から積極的に連絡を取る大切さを学びました。
もちろん日本を去るにあたっての事務作業も行わなければいけません。日本の保険の整理、海外転出届、自家用車の処分、戸籍謄本英訳、歯医者、国際自動車免許証…・・・。また渡米1カ月前はアメリカのアパート、電気ガス水道やらの契約書類に追われていました。更に渡米1週間前にはTexas Childrenから「この前ネットで入力した(1ヵ月以上かけてやっと入力した)アプリケーションの期限が過ぎちゃったから最初からやり直して!」と連絡があり、「いやいや、うそでしょ」と泣きそうになりながら準備しました。いや、半分くらいは泣いていたと思います。

渡米直後のTo Do ~生活のセットアップ~

バタバタしながらも何とかテキサス州ヒューストンに到着。テキサス州といえばカウボーイやガンマンとかを想像していましたが、僕は今のところ遭遇していません。むしろ、ダウンタウンや病院周辺は意外と都会です。最初の1週間は生活のセットアップを行い、携帯電話・インターネットの契約、銀行の開設、アパートの家具や最低限の必要物資を調達しました。

また、この壮大なテキサス州で車のない生活は不可能だと判断し、貯蓄のぎりぎりの範囲内で車も購入しました。日本製の中古車で綺麗でお手頃で事故歴もなく、既に4万マイル(6万km強)くらいの走行距離でしたが、こっちの人は「車はタイヤが吹っ飛ぶまで乗り倒すもの」らしいので、走行距離はあまり気にしないみたいです。たしかに、黒煙を上げながら走っている車にたまに遭遇します。

渡米前後はこのようにお金がかかるので、渡米前にはしっかりと貯蓄を行うこと、日本の銀行口座をネットバンキングが可能な状態にしておくこと、また日本からの外国送金ができるようにしておくことが大事だと感じました。

いざ、ベイラー医科大学附属Texas Children’s Hospitalへ

Texas Children’s HospitalはBaylor College of Medicineの附属病院で、Texas Medical Centerというヒューストンの病院都市群の一画を成しています。他には、日本人留学経験者も多いMD Anderson Cancer CenterやMethodist Hospitalといった50施設以上の医療・研究機関が密集しています。

Texas Children’s Hospitalは僕を含めたクリニカルインストラクターが5人、スタッフは7人。皆さんアクティブでとても紳士的です。心臓専用手術室は4部屋で手術は毎日3~4件行われています。2018年の心臓手術は年間962件で、その後現在の新病棟に引っ越したので年間1200件まで増加すると予想されています。本年からACHD(Adult Congenital Heart Disease;成人の先天性心疾患)の病棟運営も始まるので、より活発になります。

多くの施設ではCredentialing(病院での勤務証明)が必要で、僕の場合は米国のSocial security numberがないとその許可が下りなかったので、すぐには手術に入れませんでした。またNPI number、DEA numberの取得も必要となります。

その間はオリエンテーションや書類作業、電子カルテのマンツーマンレッスンも受けました。そのレッスン1日目は早朝から始まり、担当のアメリカンなおばちゃんが「あなたはほんっとに習得が遅いわね」的な雰囲気を出しながら、得体の知れないピンク色のジュースと大量のドーナッツをすごい勢いで食べながら教えてくれました。午後は「わたし体調不良になったから残りは明日でお願い。」と連絡があり、レッスンは中止になりました。まず食生活には気を付けようと思いました。

留学は始まったばかりですが、自分が理想とする心臓外科医を目指すべく、日々奮闘しています。まだまだ未熟者ですが、米国のこのようなハイボリューム施設でトレーニングを行うこと、そもそも米国に留学することの「意義」を自分なりに見出すことができれば、と考えています。

次回からは具体的なヒューストンでの生活、そして仕事内容を取り上げていきます。

<プロフィール>

米山 文弥

米山 文弥(よねやま・ふみや))
Texas Children's Hospital Clinical Instructor
1987年生まれ、2012年筑波大学医学部卒業。Challengers' Live Demonstrations 2018 優勝。筑波大学附属病院、長野県立こども病院等を経て2019年に渡米。先天性心臓外科医としての一歩を踏み出す。

米山 文弥

「月刊米山」vol.2 -いざ、渡米の時-

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