記事・インタビュー
この春からいよいよ研修医としての勤務が始まった皆様さんは、新社会人としての忙しい日々を過ごしていることと思います。医学生に限らず、学生から社会人になったとき、最初にぶつかる壁は、おそらくコミュニケーションではないでしょうか?
医学生の先生方に初期研修医の皆様に勤務が始まるにあたっての不安要素等についてヒアリングをしたところ、コミュニケーションと回答される方が多く、他の職種の新社会人だけでなく、研修医の回答も例外ではないようです。そこで今回は、研修医にとって関わる機会の多い、上級医と看護師さんに焦点を当て、明日から実践できるコミュニケーションスキルについてお話しさせていただきます。
本題に入る前に、まずは私が昔経験した最悪な1日をご紹介しましょう。
ここまでひどいことが重なることはめったにないかもしれませんが、皆さんが似たような経験をされる可能性も少なからずありますので、自分事だと思いながら読み進めてみてくださいね。
経験談(とある1日)
患者さんがごった返したある日の救急外来……。
初期研修医1年目の私は心不全で入院になった患者さんの入院手続きをしていたのですが、救急外来の上級医に、救急搬送された腹痛の患者さんの初期対応を指示されました。看護師さんに「とりあえず採血しておいてください」とお願いすると、「忙しいので先生やってくださいよ。無理です」と冷たく返されてしまいます。仕方ないなと思いつつ、採血の準備をしていると、病棟から電話がかかってきました。「先生の担当患者のAさんが風邪で39度の熱が出ているので、カロナールを処方してほしいです」と、病棟看護師さんからでした。さっきの一件で少しイライラしていた私は「忙しいのであとでやりますね。」とぶっきらぼうに返事をしてしまいました。その後、腹痛の患者さんの診察や検査を一通り行いましたが、原因がよくわからず今後の方針も決定することができません。dispositionを決められない私に、周りのスタッフもだんだん苛立っているのがひしひしと伝わってきます。「痛みは落ち着いてきているけれど、とりあえず腹痛だし消化器外科の上級医に相談しよう」と電話をかけ、現在の症状や検査結果を事細かに伝えてみると、「誰だ、お前は!結局お前はオレにどうしてほしいんだ?!」と一喝されてしまいました。平謝りしながらなんとか救急外来に来ていただき、対診の結果、鎮痛薬で経過観察可能と判断されたため患者さんは帰宅することとなりました。「やれやれ。風邪で発熱中の入院患者さんにカロナールを処方するか……」と思いつつも「まずは内科の上級医に連絡して聞いてみよう」と考え、何気なく電話すると、「ほんとに?その熱の原因は何?」と詰められます。とっさに「たぶん風邪っぽいです」とお茶を濁していると、「ちゃんとアセスメントしないといけないね」と返されてしまいました。各種検査の結果、Aさんは尿路感染症による発熱であったことが判明し、抗菌薬治療が開始となりました。さらに後日、病棟の看護師さんたちから、「あの研修医は病棟に来るのが遅くて困るんだ」と噂されていることを知りました。ああ、つらい……。
ポイントとなるルール・マナー
1.上級医への報・連・相は結論から簡潔に!SBARを意識し、ただの伝書鳩になってはならない!
まずは、今回連絡した2人の上級医とのコミュニケーションについて振り返ってみましょう。研修医から上級医へ相談することが多いシチュエーションとしては、救急外来からコンサルテーションするときと、病棟患者さんの管理について相談するときの2つでしょう。以下、それぞれについて解説していきます。
救急外来からのコンサルト
大原則として、いくら自分が救急外来で忙しくしていたとしても、コンサルトを受ける上級医も同じく忙しいということを覚えておきましょう。とはいえ、相談のタイミングが遅れてしまうと診断や治療にも影響が出てしまい、患者さんが不利益を被ってしまいます。そこで大切なのが、まずは相手に何をしてほしいのか、結論から簡潔に話すことです。相談する先生に、診察してもらいたいのか、画像所見を見てもらいたいのかなど、電話相談が必要だと思った理由をまずは伝えましょう。そのうえで、相手が患者さんの状態や鑑別疾患をイメージしやすいよう、頭の中で検査所見や病歴を一度しっかりと整理して、患者さんの状態を一文で端的に表現できるくらい、自分の中で準備しておきます。それに加えて、コンサルトをする際に意識すべきコミュニケーション手段である『SBAR』を活用して会話を組み立ててみましょう。
SBARとはそれぞれ、
・状況(Situation)
・背景(Background)
・評価(Assessment)
・提案(Recommendation)
の頭文字からとった略語であり、「わかりやすく相手に伝えること」を重視した手段のことです。医療現場でこのSBARを用いることで、コンサルトの満足度やコンサルトの必要項目の漏れが少なくなり、結果としてミスが減ったという報告もあります1)。
そのため、まずは相手に結論を伝えつつ、患者さんの状態を端的に表現できるよう思考をまとめたうえで、SBARに沿って話してみましょう。救急外来のコンサルトの場面でいう結論とは、SBARの中のR(提案)にあたるものであることがほとんどなので、R-SBARと覚えておいてもよいかもしれませんね。
ちなみに、今回のように頭の中が整理できていない状態にもかかわらず、相手になんとか伝えようとすればするほど、SBARの中でもB(背景)に該当する現病歴を詳しく説明してしまいがちです。「詳しく説明しているのに電話口の反応があまりよくない」ときは、Bについて話し過ぎていないか、またはあまりにBを意識し過ぎてしまうがゆえにS(状況)とBが逆転していないか、振り返ってみましょう。
そして、「結局どうしてほしいの?」と言われてしまう場合は、SBARの中でもA(評価)とR(提案)が足りていないことが原因です。現病歴やバイタルサイン、検査結果を伝えるだけでは、ただの伝書鳩と同じです。自分なりのA(評価)を加えつつ、そのうえでしっかりと相手への要望や提案を伝えることができるように考えてからコンサルトするようにしましょう。
病棟患者さんの管理についての相談
病棟患者さんの困りごとについて、看護師さんは一番連絡しやすい研修医へ連絡することが多いです。働き始めはそれだけでもなんだか頼りにされているような気がして、仕事ができているような気になるものですが、その内容をただ上級医に伝えるだけでは研修医がいる意味がありません。そのため、ここでも単なる伝書鳩になるのではなく、まずは自分で診察と判断をし、自分の考えをもって上級医へ連絡することが大切なのです。私たち医師に求められているのは、自分でできることをしっかりやり、それでも必要なときは上級医など専門科に相談しながら診断治療を進めていくというスタンスであり、それは研修医も同じです。SBARの中でも、ARのない相談ばかりしてしまわないよう、自分なりの評価や意見を伝えましょう。
2.研修医は営業マン!まずは名前を覚えて話を聞いてもらえるような信頼を勝ち得るべし!
業務を進めるうえで上級医とのコミュニケーションは欠かせないものであり、会話をとおして信頼関係を築くことが非常に重要です。上級医と良好にコミュニケーションを取ることができれば、上級医への報告や連絡、相談をスムーズに行うことができるようになるはずです。自分にとって職場の雰囲気が良なれば、より効率よくストレスフリーな状態で業務にあたることができるでしょう。上級医の先生方と良好な関係を築くことにはメリットしかないのです。
今回の上級医とのコミュニケーション内容を振り返ってみると、そもそも私自身が上級医に認識されていないことが文脈から伝わってきますね。様々な診療科をローテーションしている研修医全員の顔や名前を覚えている上級医は、まずいないでしょう。そのため、研修医のとき、私は上級医に「自分のことを営業マンだと思ってたくさん挨拶しなさい」と教わりました。まずは自分から名乗りつつ挨拶をして、顔と名前を覚えてもらうところからスタートするのだと思っておくとよいでしょう。
そして、いわゆるコミュニケーション能力が高い方であれば、世間話やプライベートな内容をきっかけにどんどんと親密さを増していくことができるかもしれません。ですが、人によってはかなりハードルが高く感じる方もいることでしょう。
そこで、誰でも実践できる効果的なコミュニケーションの方法を紹介します。
それは教わり上手になることです。よく教えてくれる教育的な上級医がいる一方で、中には職人気質で背中を見て学べというスタイルの人もいるでしょう。
ただ、研修医側にも教わり上手かどうかという資質の違いはあると私は思います。まず、指導してもらったときは、最大限に感動を伝えましょう。上級医に何かを教わったり、自分で見たり体験したりしたことに、素直に感動し、その驚きを上級医に伝えることができたなら、教わり上手と呼ばれる日は近いです。
なぜなら、指導している側からすると、何かを教えた後輩が感動している様子を見るのが何よりもうれしいからです。私自身、研修医の先生方や後輩にレクチャーをしているとき、最もやりがいを感じるのは、この喜びや感動を共有できることに他なりません。どんなに自分が忙しいときでも、たとえ自分が求めていなかったようなアドバイスであったとしても、気にかけてもらえていることに常に感謝の心を忘れず、素直に感動を伝える心がけが大切です。
3.スタッフからの依頼は“Three No”の精神で快諾!常に相手の立場に立って行動する!
国家試験を突破してなんとか医師免許を取得したとしても、研修医は病院という社会においては新人の立場です。医師になったからといって、自然と周囲のスタッフからの信頼が得られるわけではありません。周囲からの信頼を得るためにも、日々の自分の行動やほかのスタッフとの接し方には配慮したいものです。中でもとくに、病棟や救急外来で、ともに働く看護師さんの信頼を勝ち得ることこそが、初期研修医にとっては最も大切です。
その観点で考えると、過去の私の対応はNGといえます。今回のように、たとえ忙しくて看護師さんからの依頼に対応できないとしても、まずはすぐに対応できない理由を穏やかな言葉で伝えるべきです。そして、そもそも研修医が忙しいのは、仕事自体に慣れていなかったり、自身の要領が良くなかったりするからということも多々あります。そういった仕事におけるフラストレーションの矛先をスタッフに向けてしまえば、あなたの評価は急降下してしまいます。他人からの信頼を勝ち得るのは地道な行動の積み重ねであり、多大な労力を必要とする一方で、信頼を失うのは一瞬であると心得ましょう。
そこで、私が研修医時代に読んでからずっと心得として大切にしている言葉を引用して紹介させていただきます。それは、どんなスタッフとでもThree No(No busy,No excuse,No complaint)の心構えで話すというものです2)。
指示や依頼されていたことが遅れたり、達成できなかったりしたとき「ちょっと急患対応をしていたので」とか「ご家族にIC中だったので」と自分が忙しかった(busy)ことをアピールし、言い訳(excuse)として利用してしまいがちですよね。これを相手に伝えることで自分自身の罪悪感は解消しますが、相手に気を遣わせてしまうだけで、現状の問題解決にはつながりません。そもそもスタッフのほとんどは、研修医は様々なマルチタスクを抱えていて忙しいものだと認知してくれています。そうであるにもかかわらず、忙しかったことを相手に愚痴ってしまう(complaint)なんてもってのほかですね。
こんなふうにならないよう、依頼への対応が遅れてしまったり、忘れてしまったりした場合は、言い訳をせずにまずは素直に謝りましょう。相手が、自分に対してポジティブな感情を持ってくれる方がお互い気持ちよく仕事ができるだけでなく、時には先回りして色々と手助けしてくれることもありますよ。
そして最後に、スタッフに自分から業務を依頼したいとき時のことも少しお話しします。例えば、今回、私が救急外来で「採血をお願いします」と看護師さんに伝えたとき、その看護師さんが何の業務に追われているのかを確認していたでしょうか?もしかしたら画像検査へ患者さんを搬送しようとしていた最中であったり、患者さんのご家族へ入院の説明を始めようとしていたタイミングだったりしたかもしれません。
そんなふうにお互いの業務ができるだけ滞ることのないよう、まずは周りのスタッフの動きを俯瞰的に見て、今必要としているタスクを自ら率先して行っておく姿勢をつくっておきましょう。救急外来の掃除、ストレッチャーやブランケット、毛布の準備、採血スピッツのラベル貼りなど、普段看護師さんが率先してやってくださっている業務は、何も看護師さんでなければできない仕事ではありません。
必要な業務を何でもできるよう、普段から周りのスタッフの業務に目を配って、何でも積極的に行っていれば救急外来全体の業務そのものがスムーズに回り、きっとみんなが協力的に動いてくれるようになるはずです。いつも相手の立場に立って物事を考え協力する、その姿勢がきっとあなたの信頼度を高める要素となることでしょう。
まとめ
今回は研修医として業務にあたるうえで大切なコミュニケーションを中心にお話しさせていただきました。自分自身が初期研修医の指導をする立場となった現在では、いわゆるデキレジと呼ばれる初期研修医は漏れなくコミュニケーションが上手で、患者さんやスタッフに対して真摯に向き合っているなと感じます。日々、私もそういった様子を見て、気を引き締め直しています。
今回ご紹介したような少しの心がけで日々の行動は変わると思うので、初期研修医としての第一歩で私のように損をしないよう、参考にしていただければ幸いです。
参考文献
1)Pavitt S, et al., (2021). :Pediatrics, 147(5)
2)週刊日本医事新報 4714号 (2014年08月30日発行) P.43
三谷 雄己【踊る救急医】
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