記事・インタビュー
ドイツはノルトライン=ウェストファーレン州にあるボン大学で循環器内科のフェローとして働いている杉浦淳史です。
この記事では、日本生まれ日本育ちの循環器内科13年目がドイツでの研究・臨床留学の中で経験するさまざまな困難・葛藤・喜びを、ありのままにお伝えします。
悩んだ6月
前項でも少し触れたように、6月は人生の大きな転機でした。ボン大学に残ってスタッフとして働き始めるか日本に帰るか。
ボン大学のボスからオファーを受けた数日後、申請中だったApprobation(永久医師免許)のための書類に関して、保健局から不備があるとのメール。しかしメールの内容はコピペ的なもので、いまいち何が不備なのかわからない。メールで問い合わせても返信なし。現在の労働許可の期限が10月までなので、Approbationを取得できなければ、そもそもボン大学からオファーをもらっていても意味なし! 日本に帰る選択が現実的だなと判断しました。このタイミングで大学のポストを取れなければ、日本で今後臨床医+アカデミアとして働いていくのは難しくなるだろうとも思いました。
某日、ボン大学のボスと面談。以下が会話の内容。
ボス「どうする?」
自分「オファーありがとうございます、でも日本に帰ります」
ボス「日本でポストがあるのは素晴らしいな」
自分「もっとここで働きたい気持ちもありますが、そもそも秋以降Approbationが取れないのじゃないかと。Approbationのための書類審査は思ったより厳しそうです。書類に関するメールが先日届きました」
ボス「見せてみろ」・・・・・・
ボス「これは見たところ形式的な不備だけだ。大丈夫だ、これは俺がなんとかする! 君はApprobationを取得できる、心配するな。飛行機のチケットはまだ予約してないだろ? ここでもっとやろう!」
そう言って、その勢いのまま保健局に異議申し立ての電話をし始めたボス。
正直なところ、Approbationが取れないならしょうがないね、と言われると思っていましたので、ボスの熱意と行動力はとても鮮明に記憶に残っています。
続く。
道なき道へ
正直なところ何か直感的に、ボスの発言と行動を見たその瞬間に決意しました。「このボスについていこう」と。何か鳥肌が立つような、それでいて心が勝手に覚悟を決めた感覚をよく覚えています。その翌日、ボン大学のオファーを受けることを表明し、その翌日に日本の大学の教授に辞退する旨をお伝えしました。
今回のタイミングで日本に帰りポストに就くことは、多くの偉大な先人たちが歩んできたいわゆるメインストリームであり、経済的にも、キャリア的にも、ある程度先が見えてくるものだと思います。ポストを用意してくれていた日本の大学の教授にも医局にも大変申し訳ない気持ちでいっぱいでした。そこから外れることが怖いという気持ちはありました。しかし、異端と言われようがアホと言われようが、心が動いた方に全力で突き進んでいくことを決めました。全てが上手くいくことを信じて。
お前がドイツ留学なんて無理だと言われていた2016年、リサーチフェローで始まった2018年、クリニカルフェローとなった2019年を経て、2021年秋からはボン大学のカテーテル室専属の循環器専門医として働きます。次の2年半の目標は、ボン大学で一番のカテーテル治療医になることです。もう決めました。(笑)臨床・研究能力と人間力をさらに磨き、今勢いのある分野を突き進んでいるボン大学のボスについていって、2~3年後にどういった景色が見えてくるか楽しみにしようと思います。
とはいえ、自分の家族や友人の家族達はびっくりです。すでに妻は帰国の準備を始めていて、子供達の学校には「退学届」を提出していましたし、お別れ会を企画していただいたりもしていました。こんなジェットコースターのような生活を支えてくれている妻には、本当に感謝しかありません。
Deutsche Bürokratie ドイツの事務キライ
ドイツの公的機関の事務手続きはカオスです。ドイツ人ですら理解できなかったり手こずったりします。今回の強敵は保健局のFrau T。
ボスから自分のApprobationの書類を早急に手配するよう同僚達に大号令がかかり、ボス直々にFrau Tに何度も電話、その後返答が自分宛にメールで送信されました。「電話でお話ししたように、6月●日に要求したものを、確実にそのフォーマットで投稿してください。そうでなければ審査にはまわりません」と。いや、だからそのフォーマットがわからんのよ……。
翌日木曜日、14時15分に質問のために電話するも、Frau Tは14時にすでに帰宅済み。
金曜日、ドイツ人の同僚に9時半に電話してもらうも、秘書がなかなか取り次いでくれない。「予約を」とか「1時間後にかけ直してみて」とか。しょうがないので10時の時点でメールを書く。「親愛なるFrau Tさん、書類審査のための書式に関することを、電話でお話ししたいのです。本日お話しできませんか? とても緊急なのです。ありがとう」
翌週月曜日、返信来たる。
「親愛なる杉浦さん、Frau Tは休暇の後、2週間後の月曜日にまたあなたに連絡します」
本当に嫌いだ、ドイツの事務。
<プロフィール>

杉浦 淳史(すぎうら・あつし)
ボン大学病院
循環器内科 指導上級医(Oberarzt)
論文が書けるインテリ系でもないのに「ビッグになるなら留学だ!」と、2018年4月からドイツのボン大学にリサーチフェローとして飛び込んだ、既婚3児の父。
杉浦 淳史
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