記事・インタビュー
年齢を問わず、妊娠すれば誰もが罹患する可能性がある「妊娠高血圧症候群」。
妊婦と胎児の命に係わる疾患であるものの、広く認知されておらず、医師の間でも誤解が多いのが現状です。
妊娠初期にスクリーニング検査をすれば早期に対応できることを啓蒙するために、クラウドファンディングを立ち上げた土肥 聡先生に、この疾患についてお話を伺いました。
<お話を伺った方>
土肥聡(どひ・さとし)
昭和大学江東豊洲病院 産婦人科 講師
日本産科婦人科学会専門医・指導医
日本周産期・新生児医学会専門医
日本超音波医学会専門医・指導医など
Q:「妊娠高血圧症候群」とは、どのような病気なのですか?
「妊娠高血圧症候群」とは、妊娠20週から分娩12週までの間に高血圧になる病気です。具体的には、妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、蛋白尿などを伴う妊娠高血圧腎症。同様の時期に高血圧を発症するものの、分娩12週までに正常に戻る妊娠高血圧。もともと高血圧だった妊婦さんが蛋白尿や臓器障害を伴う加重型妊娠高血圧腎症。そして、加重型妊娠高血圧腎症を発症していない高血圧合併妊娠といった4種類の病型があります。
妊娠すれば誰にでも起こる可能性があり、特に妊娠高血圧腎症の場合は放置していると肝臓や腎臓の機能障害や脳出血、痙攣発作、溶血と血小板減少を伴うHELLP症候群などを発生するリスクが高まります。また、胎児の発育不全や、胎盤が子宮の壁からはがれ、赤ちゃんに酸素を届けられなくなる常位胎盤早期剥離、最悪の場合は胎児死亡に繋がることもあるのです。
Q:原因や治療法について教えてください
妊娠中に起こる血管の病気であることは分かっていますが、残念ながら原因については特定されていません。血管が比較的多く通っている腎臓や肝臓、肺、胎盤などは特に影響を受けやすく、妊婦さんの20人に1人*が罹患すると言われています。降圧剤を投与したところで、妊娠したことが高血圧になった根本原因ですから、それを終了させないと治療はできません。妊婦さんを入院させ、安静に過ごしてもらいながら注意深く様子を見て、これ以上、妊娠を継続させることが母体や胎児に良くないと判断した場合は、早産での分娩。それが難しい場合は、帝王切開で妊娠を終わらせることが最善の治療法になります。
しかし、早産を増やすことも良くありません。赤ちゃんがその後、病気を引き起こしたり、お母さんが自分を責め続けてしまうこともあります。母体や胎児のリスクはもとより、精神的な負担を軽減するためにも、海外を中心に広がり始めている妊娠高血圧腎症スクリーニング検査を妊娠初期に実施することが非常に有効です。
*日本産婦人科学会HPより
Q:海外で実施されているスクリーニング検査についてご紹介ください
イギリスのFMF(The Fetal Medicine Foundation)が認可しているもので、正式名はプレエクランプシア(Preeclampsia)・スクリーニング検査と言います。オンラインで資格を取得できますが、FMFが認める超音波技術を有することが合格ラインで、日本で保有しているのは私を含め45名*しかいません。
妊娠初期に実施するスクリーニング検査では、両腕の血圧測定、子宮動脈血流の超音波測定、妊婦さんの年齢や既往症、糖尿病の有無を調べます。さらに、採血して胎盤から分泌されるホルモンや胎盤増殖因子(PIGF)の濃度などを測定し、これら全ての数値を入れ込んで妊娠高血圧腎症のリスクを判断します。
結果に応じて、重症化を防ぐための体制を早期に整えられるだけではなく、妊婦さんも食事や生活を見直すなど自身の健康に向き合うようになるため、このスクリーニング検査は安心・安全な出産にも繋がると思っています。
*2021年2月現在
Q:クラウドファンディングを立ち上げた理由は何ですか?
昨年、このスクリーニングの有効性が日本でも証明されましたが、まだ認知度が低く、保険適用の審査すら行われていません。このような背景から、一般人や医療者向けの講演会を開き、妊娠高血圧腎症とスクリーニング検査の周知徹底を図っていきたいと思い、クラウドファンディングを立ち上げました。
Q:最後に、若手医師へ向けたメッセージをお願いします
若い先生方には、とにかくがむしゃらに、いろいろなことに立ち向かってほしいです。すぐに諦めるのではなく、再度チャレンジすれば未来は必ず拓けていきます。これからの日本のためにも、自分が医師として、どのようにあるべきを常に考えて行動し、最新知識を身につけることも決して忘れないでください。
また、風邪など別の疾患で高血圧の妊婦さんを診察する機会がありましたら、妊娠高血圧腎症かもしれませんので、できるだけ早く産婦人科を受診するようアドバイスできる医師になっていただきたいです。
土肥聡
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