記事・インタビュー

2020.12.18

製薬企業で働く医師に聞いたメディカルドクターとしてのマインドセットとは

約20年に亘り、医師の転職を支えるヒューマンダイナミックス社。様々な医師と製薬会社・CROとの縁を結び、多くの転職を成功に導いてきました。

実際に、メディカルドクターへの転職を志す場合には、どのような準備やスキル、心構えが必要なのでしょうか。人事担当者にお話を伺った第1弾に引き続き、外資系製薬会社にメディカルドクターとして勤務されている2人の医師にお話を伺います。臨床医にはイメージしにくい、勤務の実態などもお聞きしました。

<お話を伺った方>

大谷 哲也(おおたに・てつや)先生
アッヴィ
神経疾患・ウイルス領域臨床開発部 部長

 

川合 祐美(かわい・ゆみ)先生
アッヴィ
医学統括本部 メディカルアフェアーズ リウマチ疾患領域部

Q:米国に本社を置き、グローバルでも有数の研究開発型のバイオ医薬品企業であるアッヴィ。入社された動機を教えてください

大谷:私はもともと公衆衛生学の出身です。10年ほど前に、自分が得てきた疫学や生物統計学の知識とスキルをより多くの患者さんのために役立てたいと考えて製薬企業に入社しました。2度転職して、アッヴィは3社目になりますが、ぜひ取り組みたいと思っていた臨床試験の安全監視活動に注力できると聞いて入社を希望しました。

川合:5年間臨床医として勤めた後、患者さんと1対1で向き合う形ではない、別の自分の可能性を試してみたいと考えて、4年前に製薬業界に飛び込みました。

もう一つ本音を言うと、私は人より常識に乏しいという自覚があって(笑)、病院を離れた場所で社会勉強をしてみたいという気持ちもありました。医局に入った経験もありませんでしたが、今は業界トップのKEE(※1)の先生方とディスカッションさせていただく機会なども増えて、緊張もありますが良い経験を積めています。
※1 Key External Expert/社外医科学専門家

Q:入社前にはどのような準備をされましたか

大谷:転職して2社目からは臨床開発に携わってきたため、GCP(※2)を一通り勉強しました。GCPのグローバルとローカルの細かな違いなどは、入社後の業務の中で掴んでいきました。
※2 Good Clinical Practice/医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令

それから、ビジネスや心理学関連の本を読み、会社人としての働き方のスキルや、スタッフのマネジメント、コーチングなどのノウハウをざっと吸収しました。転職前のスケジュールに余裕があるなら、読書をするのはおすすめです。

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川合:準備と言えるかどうかわかりませんが、入社前に、過去に製薬企業でメディカルアフェアーズ(以下MA)として働いていた医師に話を聞く機会があり、大変参考になりました。同じMAでも業務については会社ごとに異なりますが、入社後のイメージ作りに役立ちました。

Q:現在担当されているお仕事の内容を教えてください

川合:現在はMA、またメディカルリードとして、来年上市する新薬の準備を進めています。プランの立案からエビデンスの構築、グローバルを含めた社内外との調整や連携など、開発から市販後までの間を橋渡しするようなイメージの仕事をしています。

大谷:神経疾患領域での新薬開発責任者のラインマネージャーを務めています。クロスファンクショナルチーム上のクリニカルリーダーと呼ばれるポジションです。具体的な業務は、チームメンバーへの医学的なアドバイス、業績評価、新規プロジェクトの医学的な側面の評価など様々ですね。

Q:1日の大まかなスケジュールは、どのようなものでしょうか

川合:最近で言うと、社内外とのリモート会議やMTGが非常に多く、特に今年の春以降は、COVID-19の影響で激増しました。ファシリテーションを務める機会もあれば、そうでない場合もあります。会議と会議の合間などに、資料作りや業務連絡等を行います。MAは出張の多い仕事という印象があるかもしれませんが、アッヴィの場合は戦略に関わる業務が中心で比較的外勤の少ない部隊と、担当地区を抱えていて外勤が多い部隊とがあり、私は前者にあたります。

大谷:私の場合は、スケジュールはほぼ定型化しています。午前中は大量のメールチェック、午後は会議資料の作成やチェック、担当領域の疾患や薬剤の調査などに腰を据えて取り組みます。スタッフからの相談や面談なども、多くは午後に設定します。私も出張等の機会はあまりなく、あっても昨今はリモート上でのアポが多い状態ですが、PMDA(※3)とのやりとりが必要になった場合等には外出することもあります。
※3 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

Q:専門分野以外に、どのような知識やスキルが必要でしょうか。また、入社後にそれをどのように習得されましたか

大谷:まず必要だと考えているのは、臨床での充分な経験です。5年ならベター、10年ならベストでしょう。実は、自分も10年は経験していないのですが、基本的にどんな疾患についても、疫学、診断、標準治療に関する知識を頭に入れておくこと、わからなくてもすぐ調べて応えられるようにしておくことが望ましいと思います。さらに、外資系企業であれば民族差はあるか、遺伝子の観点ではどう見られているかなど、グローバルとの違いを説明したり、調べたりといったスキルも求められます。それから、GCPのガイダンスは一通りさらっておき、何がどこに書かれているかを大まかにでも把握しておくことをおすすめします。

英語力も必須ですが、私の場合は研修と、ディクテーションのアプリを使った学習にかなり助けられました。あとはグローバルとの会議等の実践で鍛えられました。勉強と実践の繰り返しで伸ばしていった感じです。

マネジメントを担当する立場に就くのなら、日本型のリーダーシップ、またコミュニケーション術の習得も意識するべきでしょう。具体的な例で言うと、最近アサーティブネス(※4)という、臆することのない積極的なコミュニケーションと自己主張の手法を学び、大変役に立っています。
※4 自他を尊重しながら適切な言葉による表現によってコミュニケーションをはかるためのメソッド

川合:ソフト系スキルの社内研修が充実しているので、コミュニケーション術やビジネスのスキルなど、テーマを絞らずどれも積極的に活用しています。ただ、当たり前ですが全てには出席できないので、業務とのバランスを考慮して、場合によっては上司とも相談をしながら受講をセレクトするようにしています。

Q:ちなみに、業務以外の情報収集にはどのように取り組まれていますか

大谷:資料作成の必要が生じた際などに集中して取り組み、現状の課題に対して必要な部分、インパクトのある部分を確実に押さえていくようにしています。研究者だった頃とは違って、今は効率化とスピード感を優先する“80点主義”。正確さには気を配りますが、完璧を求めすぎると、企業人としてはつぶれてしまいます。

Q:入社されてから、業務について悩まれたことはありますか。また、それにどのように対処されましたか

大谷:複数の視点のすり合わせには毎回苦労しますね。例えば、新薬について説明する資料のエビデンスをまとめる際に、科学的にはこれが最適だと思っても、マーケティングの担当者の視点で見ると不足があったり、食い違っていたりする場合もあります。そんな時、ただ持論を押し付けても通りませんから、自分と他人の正しさの基準が違うことを一旦冷静に分析して、相手のベネフィットを考えて別の提案をするなど、柔軟に切り替えるようにしています。伝え方を変えたり、中長期的な見方を取り込んだり、win-winの提案、“三方良し”の提案になるように、常に試行錯誤しています。

川合:私も同じように、「人にどう伝えるか」については、日々苦労しています。病院では患者さんやスタッフとのごく一般的なコミュニケーションが主ですから、同じ目線で丁寧に話すことで、たいていのことは伝わりました。今は、様々な専門家やビジネスに関わる人に納得してもらわなくてはなりません。まだうまく伝えられていないと感じることも多いので、自分の課題として意識しながら取り組んでいます。場合によっては、一度他のスタッフに話して、フィードバックをもらうようにもしています。

Q:臨床からのニーズと、会社の方向性などにギャップを感じることなどはあるのでしょうか

大谷:確かに、必ずしも「臨床のニーズ=会社のニーズ」とはいかない場合もありますね。例えば臨床の先生が欲しい情報と、マーケティングのチームが出したい情報、会社が出すべき情報にずれが生じているといった場合ですね。
悩むことはありませんが、折衷案などを提出する必要が生じて、手間がかかると感じる場合はあります。ギャップが大きいとコンプライアンスに抵触する可能性もあると思いますが、今のところそのようなケースに遭遇したことはありません。

Q:製薬企業での勤務において、どのような点にやりがいを感じられているか教えてください

大谷:“患者さんや先生方が喜んで使える薬剤を上市できる”という点に尽きると思います。「アッヴィの薬を使い始めてから病気のリスクコントロールが容易になり、ほぼ普通の生活を送れるようになった」という患者さんにお会いした時、薬の開発に携われたことに心から感謝しました。

アッヴィでは一部の薬について、小児用医薬品としての適応取得のために臨床開発を進めていることなども、企業人として誇れる取り組みだと思います。医療保険の範囲内で安心して使ってもらえる、自社の薬剤が社会貢献に役立っている、という充足感は、日々の大きなやりがいに通じていますね。

川合:人材や資金などの大きなリソースを背景に、新しいコンセプトやアイデアでエビデンス作りに取り組めるという点は、製薬会社ならではのやりがいや強みを感じられる部分だと思います。

グローバル企業にジョインしたことで、より広い視野を保てるようになったことなども、やりがいに通じていると思います。同じテーマでも、「国内ではどうか」「海外も含めた領域全体ではどうか」という風に、視点を切り替えて物事を考えられるようになりました。

Q:最後に、製薬企業への転職を考える医師へ、一言コメントをお願いいたします

川合:MDとして、臨床医や産業医として働く以外にも活躍の場があるということをぜひ知ってほしいと思います。北米では製薬企業スタッフの医師の割合が非常に多く、医療全体の発展に貢献していると考えられています。日本の医療のグローバルな発展のためにも、MDという選択肢にも目を向けるドクターが増えることを願っています。

大谷:先述の通り、製薬企業には臨床の現場とは違ったやりがいがあります。もちろん、臨床にはない苦労もあります。人間関係も多様ですし、外資系なら夜勤がない代わりに、海外との深夜の会議もあります。「病院勤務より楽だろう」ということは、ひとつもありません(笑)。

ぜひ、自らの可能性の拡大と、大きな意義に取り組む覚悟をもって臨んでください。

<プロフィール>

堤 康行(つつみ・やすゆき)
株式会社ヒューマンダイナミックス
代表取締役社長

ノバルティス、イーライリリーおよびCROのパレクセルで、主に臨床開発とメディカルアフェアーズ部門に所属し、約30年間にわたり各部門の企業医師と業務を共にする。製薬企業およびCROでの業務内容のみならず、近年の製薬企業動向や雇用条件も含めたクローズ情報に精通。その確かな経験と豊富な情報をもとに、製薬業界への医師転職サポートを行う。

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