特集

2023.08.31

【特集】医師の働き方改革


2024年4月から「医師の働き方改革」がスタートします。これにより、医療機関は一般企業と同様に雇用する医師の労働時間の徹底した管理を求められ、上限時間を超過した際の罰則も規定されるようになります。そのため、医師の皆さんにもこれまでとは異なる働き方が求められます。そこで今回は「医師の働き方改革」をテーマに、制度の目的や内容を項目ごとにまとめて解説していきたいと思います。

1. 現状
2. 目的
3. 内容
4. 医師の働き方改革による変化
5. 病院ごとの好事例
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1. 現状

医療とは、医師が医学に基づき人命を預かることを中心とした公共サービスであり、公共性、不確実性、高度の専門性、技術革新と水準向上の特殊性があります。その中で医師のみなさんは「患者のために」「日本の医療水準の向上のために」その職務を全うすべく長時間労働を行っている現状があります。

一方で、長時間労働は健康への影響だけでなく、過労死のリスクも伴います。実際に日本医師会が行った「平成28年勤務医の健康支援に関する検討委員会答申」では「自殺や死を毎週/毎日具体的に考える」医師の割合が3.6%との調査結果もあり、過労死と隣り合わせで勤務する医師がいます。

しかし、医師は医師である前に一人の人間であり、労働者としてその生命が維持されるのはもちろんのこと、心身の健康が確保されなければいけません。

2. 目的

そこで、「医師の働き方改革」は、
①状況に強いられて長時間労働を行うのではなく、自らが選択した働き方ができるようになる
②医師が健康で充実した生活を送れるようになる
③仕事と生活の調和がとれ、それぞれの生き方に応じた多様で柔軟な働き方ができるようになる
④医師偏在の解消や地域医療構想とともに、日本の医療システム改革を目指す、そういったことを目的とし、実施されます。

3. 内容

それでは実際に、「医師の働き方改革」はどのような内容となっているのでしょうか。端的に述べると、医師を雇用する医療機関に対して、「時間外・休日労働の上限規制」「追加的健康確保措置」の二つの義務が課せられます。


※令和3年度 第1回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議
厚生労働省 「医師の働き方改革について」より引用

時間外・休日労働の上限規制

一つ目の内容は時間外・休日労働の上限規制です。そもそも労務管理上、1日8時間、週40時間が法定労働時間として設定されており、これを超過する労働時間は時間外・休日労働の扱いとなり、時間外労働協定(36協定)の届け出が必要となります。「医師の働き方改革」では、この時間外・休日労働の上限時間を設定し、際限のない長時間労働を禁止します。時間外・休日労働の上限については、水準ごとに設定されています。
具体的にはA水準は基本の水準となり、B水準は救急医療等を行い地域医療を支える医療機関、連携B水準は医師の派遣により地域医療を支える医療機関、C-1は臨床研修・専門研修を行う医療機関、C-2は高度技能の修得研修を行う医療機関が対象となっています。また、特例水準の指定を受けるにはそれぞれの基準が設けられています。


各医療機関は時間外労働の実態把握を行った後、時間外労働が年960時間を超過している医師がいる医療機関は、都道府県の支援を受けながら労働時間の短縮に計画的に取り組み、医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価を受けた後、特例水準の指定申請を行い、都道府県からその指定を受ける必要があります。

追加的健康確保措置

二つ目の大枠として追加的健康確保措置があります。医師の健康の確保及び医療の質と安全確保のために、上限時間を超えて労働させる場合に行う健康福祉確保措置のことです。内容は「面接指導」と「連続勤務時間制限および勤務間インターバル」があります。


 ・面接指導 
すべての水準を適用する医療機関に対して義務付けられています。
当該月の時間外・休日労働が月100時間を超過すると見込まれる医師に対して、月100時間を超過する前に事業者である医療機関が睡眠や疲労の状況等を含めた健康管理チェックを行い、面接指導を講じる必要があります。

 ・連続勤務時間制限および勤務間インターバル 
A水準以外の特例水準に対して義務付けられています。インターバルは連続した休息時間であることが求められ、断続的に勤務する場合には、それぞれの始業からの時間に応じたインターバルの付与が必要です。

連続勤務が15時間以下の場合:始業から24時間以内にインターバル9時間の付与
連続勤務が28時間以下の場合:始業から46時間以内にインターバル18時間の付与

以上が基本的な決まりの部分です。では、「医師の働き方改革」がスタートすれば、どのような変化があるのでしょうか。時間外・休日労働の上限時間が設定されることから、労働時間の考え方が重要になります。

 

厚生労働省 医師の働き方改革好事例集にて取り上げられている病院に取材を行い、実際の現場での取り組みをご紹介します。
厚生労働省 医師の働き方改革好事例集はこちら≫

 

4. 医師の働き方改革による変化

宿日直許可

宿直業務や休診日の日直業務については、原則として、指示があればすぐに業務にあたるよう求められており、労働から離れることが保障されていない状況である場合には、「労働時間」とみなされます。しかし、ほとんど労働が発生しない業務に関しては、労働基準監督署長からの「宿日直許可」を取得している場合、その業務対応時間は労働時間にカウントされません。
宿日直許可は、2024年4月以降、労働時間を制限される中で医療機関でのアルバイトを行う際には、注意すべきポイントです。

許可基準は下記の通りです。
1.通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること
2.一般の宿日直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限る
3.宿直の場合には、十分に睡眠をとれること
4.上記以外の一般の宿日直許可の際の条件を満たしていること

一般の宿日直許可の際の条件
1.内容:定時巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするもの(通常の労働の継続は許可しない)
2.賃金:勤務1回あたりの宿直手当・日直手当の最低額は、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われる賃金の一人1日平均額の1/3以上であること
3.回数:宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度とする
4.その他:相当の睡眠設備の設置を条件とする

厚生労働省へのご相談はこちらから
厚生労働省医療機関の宿日直申請に関するご相談について(相談窓口)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24880.html

副業・兼業

アルバイトの労働時間は誰がどのように管理することになるのでしょうか?
副業・兼業先での労働時間に関しては、医師本人が「主たる勤務先(本務先)」に自己申告の上、「主たる勤務先(本務先)」が管理することとされています。ただ2024年4月以降、実際どのように運用されるのかについては、医師の勤務先医療機関に異なる可能性があり、注意する必要があります。

自己研鑽

基本的な考え方としては、下記の通りです。
なお、所定時間外については上司の指示により行われる場合は、本来の業務と関連性がなくても労働時間に該当すると考えられています。

 ・所定労働時間内の研鑽:使用者に指示された場所(病院内)で研鑽を行う場合については、労働時間となる 
 ・所定労働時間外の研鑽:①本来の業務と直接の関連性がなく、②上司の明示・黙示の指示によらずに行われる限り、労働時間とはならない 

<労働時間に該当しない「研鑽」の具体的な内容>
※前提として、業務上必須ではない行為を、自由意思に基づき、所定労働時間外に自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行っていること

 1.一般診療における新たな知識・技能の習得のための学習 
(例)診療ガイドライン、新しい治療法・新薬、自らの実施する・した手術の予習復習、シミュレーターを用いた手技の練習等
※ただし、通常業務上の診療の準備、後処理として不可欠なものは労働時間に該当する

 2.博士の学位を取得するための研究および論文作成や、専門医を取得するための症例研究や論文作成 
(例)学会・勉強会(院内外問わず)への参加・発表準備、本来の業務とは別の臨床研究に係る診療データの整理・症例報告の作成・論文執筆、大学院の受験勉強、専門医の取得・更新に係る症例報告の作成・講習会受講等
※ただし、医師の業務上、研鑽の不実施で就業規則上の制裁等の不利益が課されているため、研鑽実施を余儀なくされている場合や、必須でなくとも上司が明示・黙示の指示をしている場合は労働時間に該当する

 3.手技を向上させるための手術の見学 
(例)症例経験の蓄積のために所定労働時間外に行う手術・処置等の見学
※ただし、見学中に当該診療を行った時間は労働時間に該当する。
また、見学中の診療が慣習化・状態化している場合は、見学時間すべてが労働時間に該当する

 

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参考・引用資料

いきいき働く医療機関サポートサイト「いきサポ」

(1)厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会報告書」
(2)厚生労働省「医師の働き方改革の推進に関する検討会」
(3)厚生労働省 「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について」
(4) 日本医師会 「勤務医の健康支援に関する検討委員会 答申」 平成28年3月
(5) 厚生労働省 「宿日直許可申請に関する解説資料」

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