記事・インタビュー
獨協医科大学 総合診療医学講座 主任教授 / 獨協医科大学病院 総合診療科 診療部長
志水 太郎
■「愛され指導医になろうぜ」出版の回想
「愛され指導医になろうぜ」(日本医事新報社)を出版してから10年が経とうとしています。出版当時、自分は卒後9年目で、「若手指導医として書いてもらうことに意義があるのでぜひ書いてほしい」と出版社の磯辺さまから依頼されたことがきっかけでした。本書は当時としては珍しくキャッチーなタイトルで書店に並びました。内容はタイトルに準じ、若手指導医がさらに若手指導医を指導するという内容で、当時類書はそこまで多くなかったのではないかと思います。本書の構成はリーダーシップ、マネジメント、教育の章に分かれ、自身が経営管理学で学んだコントローラーシップなどの理論を裏付けに、具体例を豊富に盛り込んで実践力の向上を期す内容になっています。自身のもう一つの代表作「診断戦略」(医学書院)と同時並行で作成され、出版もほぼ同時期でした。
■最近感じていること
「愛され指導医」で書かれたことは、当時立ち上げに関わっていた練馬光が丘病院総合診療科での経験がもとになっています。それから年月が経ち、現在までにさらに二つの総合診療科の教育プログラム(東京、栃木)を立ち上げました。加えて現在は約100名の研修医を擁する大学病院の初期臨床研修センター長も担当しています。先日はERアップデートという全国の熱心な研修医が集う、年2回の素晴らしい勉強会に参加する機会を得て、全国の研修医たちのリアルな声に触れることもできました。また日本医療教育プログラム推進機構(JAMEP)の基本的臨床能力評価試験では問題作成委員会の委員長を務めていますので、全国の臨床研修医たちの強みや弱みをデータでも身近に把握することが可能です。学年が上がるにつれ自施設はもちろん、このように全国の臨床研修の現状に触れる機会が多くなり、自身としては「愛され指導医」出版時とはまた異なった視座を持つようになりました。それは日本の臨床研修全体を、自分事として、どのように良い方向に引っ張っていくかという視座を持つようになったともいえます。一個人にとっての研修とは自身で行動し、問いを立て、技術を鍛え抜く作業であり、指導医はそれを見守り導くもの、というスタンスは自分にとっては一貫して変わらない考えです。昨今の医師の働き方改革などの変化の中では、より効率的で効果的、そして強靭な臨床能力を研修医みんなに身に付けてもらうために、指導医側の持つ教育システムとしてどのような手を打つことができるかをアクティブに考えて行動する必要があると考えています。例えば急性期の診断、ルーティン、脊髄反射的な対応などをモジュール化して、可能な限り再現可能な形で均一な質を担保できるような教育システムにする、などです。日本の研修医指導も他国に追いつけるように……ではなく、折角やるのだから世界をリードする研修システムにするために、志ある仲間らとの集合知で、本邦の文化背景にも気を配りつつ、現時点でベストのプロダクトを作りたいと思っています。
■個人として、指導医として、これから
個人としての道はdiagnosticianとしての思考技術を常時開発、実践し、生涯鍛え続けることです。同時に、医師研修に携わる者としては指導医の仕事も続くと思います。この両者は全く異なるようですが、実は良い相乗効果があるのではないかと思っています。丁寧に指導することは、指導側の思考力と洞察力を上げ、それが新しいイノベーションにつながります。そのため、医師個人として、指導医として、日々研修医らと共にベッドサイドで工夫し、驚き、喜び、感動する日々を送り続けることはこの両者を達成する良い方法だろうと感じています。現在行っているような研修医との診察、教育回診、救急と外来の振り返りを大事にしながら、自らも学ぶことに執着する気持ちを抑えず、鍛錬し、同時に研修医らにとって超えるべき壁となり続けたいと考えています。ちょうど自身のロールモデルである青木眞先生、ローレンス・ティアニーJr.先生、徳田安春先生、藤本卓司先生の4名の臨床医たちが自身にとってそうであったように、その教育文化が連綿と次世代に続くように、医師としての人生を生き切りたいと思っています。
志水 太郎 しみず・たろう
2005年愛媛大学卒業。2018年より現職。総合診療医。経営管理学で学んだことをベースに当時の総合診療科の立ち上げの経験から『愛され指導医になろうぜ』を執筆しベストセラーとなる。現在は約1100床の大学病院での総合診療科の運営とともに、自らのエッジである診断思考体系の開発・研究・教育・実践と、診断医としての世界規模の活動を展開している。国際論文は200本以上。他の著書に『診断戦略』『MMF』『おだん子×エリザベスの急変フィジカル』など多数。
※ドクターズマガジン2023年10号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
志水 太郎
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