記事・インタビュー
このシリーズでは、多様な環境で働く若手家庭医・総合診療医が、今考えていることや取り組んでいることを熱く語ります。
最終話となる第6話目は、家庭医療専門医を取ったあとにどのようなキャリアがあるのかについてお話したいと思います。
私のキャリア① 〜家庭医になるまで〜
皆さんのまわりに、「家庭医療専門医」はいますか? 日本にはさまざまな「専門医」がいます。いろいろな組織がそれぞれの基準を設けて認定を行っており、その一つが、日本プライマリ・ケア連合学会が認定する家庭医療専門医です。どんなことをしているかはこれまでの連載を見ていただければよく分かると思いますが、2018年7月時点の専門医総数は672名。日本の医師数が31万人(2016年)なので、0.2%しかいない計算となります。激レアです。まずは、なぜ私がそんな専門医になったのか、話を始めたいと思います。
そもそも医師を目指した動機ですが、崇高なものはなく、収入と生活の安定、そして幸いにも成績が医師を目指せるレベルであったことでした。ただ、そうして医学部進学を決めてから世の中のニュースを見ていると、妊婦たらい回し事例など、決して医療を取り巻く仕組みがうまくいっているわけではないことを知り、何とかしたいと感じていました。そして大学に入り医学を学ぶにつれ、人体とはとても興味深いものなのだな、と感じました。当時はまだNHKのテレビ番組「ドクターG」も放送されていない頃でしたが、自分の興味は次第に「幅広く診る」ことに向かっていきました。身の回りの人から相談されたときに「自分の専門外のことは分からない」と言いたくない、と思ったからです。そうした中で5年生のとき、米国から帰国した先生の話で家庭医療のことを知り、さらに6年生のときに北海道家庭医療学センターの草場先生(現日本プライマリ・ケア連合学会理事長)の講演を聞いて、この道に進むことを決めました。
その頃すでに初期研修先は神戸市立医療センター中央市民病院に決まっていました。無事国家試験を終え、2011年より医師人生が始まりました。本当に良い研修を受けさせていただき、どの科の指導医も、研修医が良い臨床医になるために協力を惜しみませんでした。特に日本一の評価を誇る救急救命センターでは、小児も成人も含めてありとあらゆる初期対応と診断学を学ばせていただき、現在に至る自分の臨床の根幹となっていると思います。専門分化の進んだ三次病院でしたが、自分が家庭医になりたいと言っても理解してくれる指導医ばかりだったのは幸いでした。
また、後期研修先探しについては、当時、老舗プログラムがいくつかと、新しいプログラムがちらほらでき始めたくらいの時期でした。北海道家庭医療学センターにも見学に行きましたが、家族のことや、病院総合診療に対する興味もあったことから、家庭医・病院総診の両方に力を入れている福岡県の飯塚・頴田家庭医療プログラムに決めました。そこで3年間の研修を行い、2016年に専門医試験に無事合格、晴れて家庭医療専門医となりました。
私のキャリア② 〜家庭医のその後〜
専門医となったものの、家庭医療学という学問への理解が十分ではないと感じていたことや、地元関西に戻りたいという事情もあったことから、京都府の金井病院に就職。指導医として働きながら、北海道家庭医療学センターが提供する2年間の遠隔フェローシップ1)を受けることにしました。
フェローシップでは、家庭医療学・教育・経営・研究(量的・質的)について、90分のレクチャーやディスカッションを週2コマくらい受け、それを元に現場で実践。報告して振り返り、また実践するというサイクルを繰り返し行いました。さらに年2回、北海道に集まり研修を受けました。そして最終的には教育レポート、開業計画書(シミュレーション)、量的研究の実施に加え、コースポートフォリオという形で2年間の学びをまとめて(僕の場合はA4で174枚になりました)提出し、評価を受け修了となります。
具体的な内容についてはホームページをご参照いただければと思いますが、4領域を学ぶことで視野が非常に広くなりました。また、それぞれの領域が他の領域の学びを深めることもありました。例えば、研究を知ることがEBMの教育に役立ったり、教育を知ることが組織学習に役立ったり、経営を知ることが地域ケアに役立ったり、といったものです。
こうして2年間のコースを修了、翌年度から金井病院の家庭医療センター長を任命され、現在はマネジメントや教育を行っています。具体的には、外来・病棟・在宅・救急といった医師の役割分担=シフトの調整、職場の環境調整・業務改善、各種委員会(医療安全など)、専攻医の教育とサポート、学生・研修医の教育、リクルート、などなどです。今年度は、外来でのウィメンズヘルス領域の拡大にも取り組んでいます。民間病院なので決して経営的に恵まれているわけではないのですが、それでも経営的なノルマをそこまで意識せずに教育に専念できているのは理事長の理解があるからこそだと思います。そうはいっても、経営的にも家庭医としてやれることがないかと考え、今年度は神戸大学が提供する実践的病院経営マネジメント人材養成プラン2)を受講しています。
家庭医療専門医取得後のキャリア
2016年に出版された家庭医療専門医の活動に関する実態調査3)では、回答した家庭医療専門医302名のうち、診療所勤務と病院勤務はほぼ1対1でした。サブスペシャルティとして専門医・認定医資格を取っている人は、在宅専門医が5%、消化器内視鏡が2.3%、産業医が9.6%などでした。量的に出ているデータはこれくらいなのですが、質的に、私が見知った若手の進路を挙げてみると、以下のようなパターンがあると思います。
(1)プログラム指導医パターン
私のように、あるプログラムに所属し指導医として研鑽するパターン
中には新しいプログラムを立ち上げる医師もいる
(2)開業医パターン
時期の差はあれ、親の後を継いだり、一から開業して診療所経営を行うパターン
中には在宅専門クリニックを開く医師もいる
(3)研究者パターン
大学院や、遠隔・スクーリングといったコースで研究を学び実践するパターン
公衆衛生(MPH)がメジャーだが、医療人類学など文系に近い分野もある
中には海外留学する医師もいる
(4)スキルアップパターン
小児科、産婦人科、消化器、在宅、緩和などさらに極めたい分野の研修を受けるパターン
医療にとどまらず、MBAなどを取得する医師も増えている
(5)職業転向パターン
厚生労働省の医系技官や起業など、臨床医以外の仕事につくパターン
(6)ライフ重視パターン
子育て・介護などしながら無理のない範囲で働くパターン
中にはいくつも重複したり、順を追って経験している人もいます((1)+(3)、(4)→(2)、(6)→(1)などさまざま)。そうしたフレキシビリティは家庭医療の診療に通じるものがあります。こうした柔軟な姿勢は、VUCA(※)と呼ばれるこれからの時代には必要なことかもしれません。一つの道を極めることももちろん大切なことですが、技術革新の著しい現代では、それが一瞬で過去のものとなるリスクも抱えています。診療の場や働き方を、その時々の環境やライフスタイル、興味関心に合わせて変化させることができる総合診療医は、時代の変化への対応もうまく行えるのではないかと考えています。
(※)Volatility(変動)Uncertainty(不確実)Complexity(複雑)Ambiguity(曖昧)の頭文字。
ちなみに「総合診療専門医」は、2014年に設立された一般社団法人 日本専門医機構という組織によって認定される専門医の1つです。細かいことは置いておいて、基本的にはこれから専門医を取る人はまず、機構が認定する19領域の専門医資格のどれかを取ることになります。その中で、学ぶべき内容や学び方が現在の家庭医療専門医に最も近いのが総合診療専門医です。実際に総合診療専門医プログラムの9割以上で家庭医療専門医による教育が行われていますし、私の施設でも総合診療専門医の教育を行っています。ですので、専門医資格取得後のキャリアについても、上記のパターンとほぼ同じと考えていただいてよいと思います。
最後に
全6話にわたり、若手総合診療医のリアルをお届けしました。この記事が少しでも皆さんのキャリア形成のお役に立てばうれしいです。少しでも総合診療医に興味がある方は、私たちが全力でサポートしますので、下記(若手医師部門Facebook)よりご連絡ください!
[参考文献]
1) 北海道家庭医療学センターホームページ
2) 神戸大学実践的病院経営マネジメント人材養成プランホームページ
3) 遠井敬大, et al. “家庭医療専門医の活動に関する実態調査.” 日本プライマリ・ケア連合学会誌 39.4 (2016): 243-249.
<プロフィール>
「若手の家庭医/総合診療医、どーしてる?なにしてる?」
松島 和樹
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