記事・インタビュー
民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。
医学書を読むのが大好きな先生方が初学者に向けた医学書解説・比較の医学書レビューと、日々医師のために医学書を作る出版社の担当者がおすすめの良書をこちらで集めて発信していきます。
購入先のリンク(Amazon)も掲載していますので、お気に入りの書籍があればご購入ください。
レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)
- 腹痛の患者さんで、CTでは明らかな異常所見がない。果たして帰宅させてもいいのだろうか? 結構痛がっているけど…
- CTには胆石がうつっていないから、胆石症ではないよね…? でも症状は胆石症っぽいな…
私たちは腹痛患者さんの初期診療において、CTの画像所見に治療方針やdispositionを影響されることが非常に多いと思います。
私自身、専攻医になってから「CTである程度診断できるじゃん」と、たかをくくっていた時期もありました。
ですが、実臨床においてはCT画像だけで診断が完結するほど、単純な疾患ばかりではありません。
CT画像で明らかな異常所見がなかったため帰宅させ、結果として患者さんの根治的な治療が遅れてしまった、という苦い経験をしたことがありました。
CT全盛期の今は、よりいっそう、CT画像診断ばかりが先行してしまいがちです。
ですが、そのようなCT画像診断だけを頼みとした場合、見落としがちな疾患をもつ患者さんを救うには、どのような思考回路で診療すべきなのか、またそのある程度体系だった診療の指針をもとに、どうやって後輩を指導すべきなのか、いつも悩んでいるところでした。
そんな時、このたび医学書院様からこのような腹痛診療の書籍をいただきました。
この『急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT』(窪田忠夫著/医学書院)は救急外来で複数の患者さんを診察する際に知っておくべきことがすべて網羅されている実用的な一冊だと思います。
今回、救急外来における腹痛診療のエッセンスが学べる、腹痛診断で困った際に読むべき必携の一冊である! として自分が自信をもっておすすめするのがこちらです。
- 書評『急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT』
1.本書のターゲット層と読了時間
【ターゲット層】
・救急外来で腹痛診療に従事するすべての研修医専攻医
・腹痛診療について指導する機会の多い専門医
【推定読了時間】
・7~8時間程度
2.本書の特徴
本書は、東京ベイ・浦安市川医療センター外科部長の窪田忠夫先生が執筆された、
●逃してはならない疾患を念頭におき、各論や鑑別診断の進め方を提示している
が特徴の一冊です。
本書を読むことで学べる項目は特徴的なものをピックアップすると、このようになります。
●急性腹症に対する心構えやCTの使い方、その他急性腹症に関する周辺知識
●救急診療において大切なオンセットや基礎疾患、背景事象や年齢への理解
●CT画像と診察で考えるべき差異や見るべきポイント
これらは研修医の先生方にとっては今後どのような診療科に進んでも学んでおくべき大切な事項であると思います。
3.個人的総評
本書の特徴はなんと言っても、急性腹症に対する心構えから、CTの使い方、その他急性腹症に関する周辺知識まで、エッセンスが随所にちりばめられている点です。
救急診療において非常に大切なオンセットや基礎疾患、背景や年齢について、これだけ腹痛疾患の中で言及している書籍はこれまでなかなか見たことがありません。
私自身、本書にはとても共感し、「たしかに現場ではこのような思考回路で考えているな」というのを改めて確認することができました。
例えば、ついつい救急外来で診断してしまいがちな便秘症や急性腸炎など、いわゆる“ゴミ箱診断”に該当するような、急性胃腸炎などの病名を、いかに診断名としてつけて無理やり納得しないようにするか、という思考回路を深く学ぶことができました。
この書籍中、腹痛の診断を行うために欠かすことのできない要素がたくさん詰まっていて、軽く読み飛ばすのはもったいないと感じるページばかりでした。
加えて、虫垂炎や下部消化管穿孔など、どのような症例でも最後まで見逃してはならないと念頭に置き続けて診断に臨むという救急診療における原則を踏まえた解説が秀逸だと感じました。
逃してはいけない症例を念頭に置いた上での各論、フローチャートや鑑別診断の考え方に一貫性があり、すごく共感しました。
また本書では、非常に実践的な知識を紹介しています。
例えば「急性腹症の3分割法」は覚えるべきポイントが絞られており、医療現場で明日から使える知識だなと感じました。
この方法では、急性腹症を「上腹部痛」「下腹部痛」「腹部全般痛」の3つのカテゴリーに分けて考えます。
それぞれで早期診断すべき重要疾患について、年齢、性別、基礎疾患からのアプローチ方法で解説しており、診察で得られる情報をもとにして重要疾患の有無を考えていくことが、非常に役立つ知識だなと感じました。
その他、CT画像が診察に適している疾患とそうでない疾患、単純と造影の違い、そしてエコーに強い疾患と弱い疾患についても言及されており、それぞれの検査の特性について改めて考え直すことができます。
実際に臨床現場で悩ましい「CTの活用法」や「診断がつかない場合の考え方」について解説されている点も、研修医の皆さんの不安を解消してくれるのではないでしょうか。
一方で、個人的な印象ではありますが気になった点としては、
あくまで急性腹症の診療時の思考回路について語っている書籍ですので、「明らかに異常な画像所見」や「覚えておくべき画像所見」などを、実際にCT画像などで勉強することはできない点が挙げられます。
この辺りは、画像診断に焦点を当てた別の書籍で学ぶ必要があると感じました。
これらは本書の個人的な評価であり、しかも何様だよと言われてしまうことは重々承知ではありますが、自分は
本書は救急外来における腹痛診療のエッセンスが学べる、腹痛診断で困った際に読むべき必携の一冊である!
と感じました。
4.おすすめの使い方・読み進め方
●まずは最低限の知識を押さえよう!
●目次を参考にさらっと通読して、どこに何が書いてあるかざっくり把握(付箋を貼るのも良いでしょう)
●興味のある事項は目次を通じてつまみ食い感覚で読んでみる
●その後は経験した症例の前後で読み直して復習!
個人的におすすめの使い方をご紹介します。
自分の意見としては、
まずは最低限、研修医が知っておくべきエッセンスを押さえるところから始めるのがいいと思います。
本書は、最低限研修医が知っておくべき内容からスタートし、鑑別診断のリストアップを医師の年次に応じて、少しずつバージョンアップしていくという構成になっています。
腹痛は考えられる疾患が多く、学ぶハードルが高いと思われがちではありますが、本書を読むことで「これなら自分も、少しずつ腹痛診療のスキルをレベルアップさせていけるかもしれない…」という自信を感じることができると思います。
その後は、前述のバージョンアップに従って、興味のある事項を少しずつ読み進めるのが良いかと思います。
その際、「鑑別疾患の優先順位が変わるシチュエーション別」に解説されているので、それぞれ経験した時に読むととても参考になると思います。
そのため、一度さらっとすべてを通読しておいて、実臨床で経験したようなシチュエーションで読み進めたり、知識を深めたりするのが良いと思いました。
私自身、一番初めに読んだだけではあっさりと読み飛ばしてしまっていたような文章に、後々その奥深さや大切さを思い知らされることが何度かありました。
本書には腹症診断に関するエッセンスがちりばめられており、読めば読むほど大切な知識を余すところなく吸収することができます。
そのあとは実際の症例を通じてインプットとアウトプットをたくさん経験していきましょう。
5.まとめ
本書は救急外来における腹痛診療のエッセンスが学べる、腹痛診断で困った際に読むべき必携の一冊である!
まとめると、本書は急性腹症について、わかりやすくかつ深く学ぶことができるので本当におすすめです。
この書籍を通じて学ぶことで、
今後救急外来での、急性腹症に対する診断の自信をつけることができます。
今後の学びや業務をより良いものにしたい方には是非手にとっていただきたい一冊です。
以下に要点や基本事項をまとめましたので、
購入する際には是非参考にしていただければ幸いです。
6.医書レビュー
この記事を読んで参考になった方、面白いと思ってくださった方は今後も定期的に記事を更新していきますので応援の程よろしくお願いいたします!
みなさまのリアクションが今後の記事を書くモチベーションになります。
★今回の書籍以外にも、踊る救急医先生の医学書レビューはこちらのページで読むことができます!
想定読者や各診療科ごとにわかりやすくまとめられているので、興味がある方はぜひ参考にしてみてくださいね。
詳細はこちら≫https://dancing-doctor.com/2021/03/31/review-reader/
<プロフィール>
三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター
立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。
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