記事・インタビュー
ドイツはノルトライン=ヴェストファーレン州にあるボン大学で循環器内科のフェローとして働いている杉浦淳史です。
この記事では、日本生まれ日本育ちの循環器内科13年目がドイツでの研究・臨床留学の中で経験するさまざまな困難・葛藤・喜びを、ありのままにお伝えします。
Approbation(永久 医師免許)取得のための書類審査
だいぶ久しぶりのブログになってしまいました。前回(25話)は、2021年夏に日本帰国をやめてドイツに残留し、永久医師免許取得とさらなる治療経験を積み重ねることを目標としていることを書いたと思います。
それから2021年の書類提出後、第1回の審査結果が届きました。
その内容は、
「日本の医学教育はドイツのものと同等とは認められない」。
そう、まさかの不合格。
外部委託された審査官の文言をよく見てみると、
①神経内科の履修内容には、多発性硬化症の疾患名がない。
(心の声)「いやいや、当然学んでいますがな」
②産科は、危機的疾患の項目に子宮破裂が含まれていない。
(心の声)「いやいや、当然学んでますって」
③ドイツ社会に基づいた社会医学が履修されていない。
(心の声)「日本の大学ですから〜!」
④以上の点について追加の資料を提出する場合には、1ヶ月以内に行うこと。それ以降の資料提出はいかなる場合も認めない。
つまり、Major revisionが求められるが、Rejectではないという審査結果。
しかし、1ヶ月はキツすぎる。なぜなら先方が送った手紙が手元に来たのが1週間後、大学に追加資料を作成してもらうには最速で2週間、外務省での処理に1週間、ドイツ郵送に1週間、翻訳に2週間、郵送に1週間。合計7~8週間はかかる……。どうするか……。
さらに、追い討ちをかけるように日本からの郵便が停止(ロシア・ウクライナ問題)。
忘れていたとは言わせない
しかしピンチはチャンス。まず先方に資料提出の延期を申請。資料に関しては、各やりとりをPDFでのデジタル通信で行うことを関係各所にまず交渉。
翻訳士に事前に話をしておいて……、これ以上はここでは書けない内容(笑)。
結果的に4週間ほどで資料を再提出。
郵送の追跡も行って、先方に着いたことを確認。e-mailで「本日、ライセンスを取得するために必要なすべての書類をお送りしました。数日以内にそちらに届くはずです。念のため、スキャンした書類をメールに添付します」と送って一件落着!これでいけるだろうと、この時点で2022年3月末。
その後約1ヶ月半音沙汰なし。ふと不安になったのでメールで確認してみると、
「……延長された審理期間(2022年5月31日)が過ぎると、事後審査を開始することが許されるのですが、さらなる申請書類の提出を希望されるかどうか教えてください。審査に必要な書類をすべて受け取り次第(簡単な確認メールを送ってください)、すぐに審査を開始します」
3月末の書類提出時に、すべての必要書類を送ったって言ったやんか。
5月中旬時点でのこの返答。
忘れていたけど謝らない、言い訳全開。典型的なドイツ人の反応。
さらにその後の7月上旬、驚きのメールが先方より届いた。その内容とは、
「今回、新たに費用負担申請が必要になりました。社内の医療評価者と協議した結果、外部審査機関で事後評価の一部を実施する必要があるためです」。つまり、「2ヶ月弱内部審査にかけたが自分達だけでは、審査は無理でした。外部に委託しますので、お金も払ってください」ということ。これがドイツクオリティ。。
患者からの苦情の手紙と労働免許剥奪
2021年の夏〜秋はカテーテル漬けの毎日で、ボン大学で最も診療件数が多かったのがAtsushi Sugiura(私)という、忙しくも充実した日々を過ごしていました。
ある日、ボスが何やら険しい顔で私のところへ。聞くとどうやら匿名の患者さんから、ボスの元に苦情の手紙が来たとのこと。
内容は、「外国人医師のDr.Sugiuraと私の間には、大きなコミュニケーションの問題があった。この医師が本当にドイツのApprobationを有しているか、あるいはBerufserlaubnisを有しているか確認したい」というもの。しかも、その手紙と同じものが、保健局にも直接届いたという連絡が。。
保健局の判断は、「Berufserlaubnis単独では、専門医修練の一環であるカテーテル治療を単独で行うことは許可されていません。説明を求めます。さらにこの苦情の手紙があることから、労働免許の延長を認めず、Fachsprachprüfungの再試験を課します」とのこと。
この判断を受けたボン大学のボスの決断は、「Atsushiはオペレーターとしてカテーテル治療を行なうことを、一旦やめなくてはいけない」というもの。
この一連の出来事があった頃は、ドイツ生活の中でも非常につらい時期でした。海外で積み重ねてきたものをいきなり奪い取られたような、そんな感覚にも陥りました。
なお、この患者さんからの「苦情の手紙」、怪しい点が多分にあり。その内容だけでなく、一般的でない専門用語が列挙されていること、医師会ではなく免許を司る「保健局」に直接郵送していることなど、到底普通の患者さんとは考えられない。近しい同僚医師やナースが言うには、「内部からの告発」の可能性が高いとのこと。
それから、ドイツ語を必死に勉強しました。
2022年3月に再試験を受け、なんとか再合格。モデル患者さんが心筋梗塞だったのが救いでした(笑)。
同僚達とお祝いをし、カテーテル治療も再開し、念願の小倉ライブのオペレーターを務めることもできました。
そんなとある日のカテーテル治療。治療後に患者さんから、「最初は不安だったけど、あなたは常に説明してくれて私を落ちつかせてくれた。あなたを信頼している。次の治療もあなたにやってほしい!」という嬉しい言葉を頂戴しました!
お久しぶりの更新となりましたが、ドイツで四苦八苦しておりました。でもなんとか過ごしています(笑)
次回もお楽しみに!
写真左:再試験に合格して同僚達と勝利の美酒
写真右:小倉ライブ。三尖弁カテーテル治療の撮影風景
<プロフィール>
杉浦 淳史(すぎうら・あつし)
ボン大学病院
循環器内科 指導上級医(Oberarzt)
論文が書けるインテリ系でもないのに「ビッグになるなら留学だ!」と、2018年4月からドイツのボン大学にリサーチフェローとして飛び込んだ、既婚3児の父。
杉浦 淳史
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