記事・インタビュー

大阪大学名誉教授
仲野 徹
#01
すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険
人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか
人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病
記念すべき第1回、さて、どんな本を押し売りしよか。2回目以降に影響するわけでもないんやから、なんでもよさそうなもんやけど、やっぱりちょっと緊張しますな。と、悩みながら選んだのがこの本、山本健人の『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』でおます。さぁ、いきまっせぇ。
新聞をはじめあちこちで書評が出ており、すでに10万部を突破しているベストセラーだ。「むっちゃ売れてるおもろい本」として押し売りがしやすい。ただ、ちょっと気にならないわけではない。読者の多くが医学関係者の雑誌だけに、何をいまさら人体やねんと思われるかもしれんぞと。
そういうふらちな医師や医学生にこそ読んでほしい。この本がカバーする領域は膨大である。医学に関係ある人でも、全てを知っているような人はおらんだろう。それに、何しろ面白い。「医学を学ぶことは、途方もなく楽しい」という姿勢が全編ににじみ出ていて、「うりゃ、楽しまんかったら承知せんぞ」オーラが全開なのだ。
第1章「人体はよくできている」だけでも、「おならは何でできているのか?」とか、肛門はおならと便をどうやって区別するのかという「とてつもない肛門の機能」とか、さらには、誰もが興味を持たざるを得ない「陰茎はどのように伸び縮みするか」など、言われてみれば不思議なテーマがめじろ押しだ。
あと、「人はなぜ病気になるのか?」、「あなたの知らない健康の常識」、「大発見の医学史」、「あなたの知らない健康の常識」、「教養としての現代医療」へと章はつづく。どの項目もせいぜい数ページの短いエッセイなので、あっという間に読めてしまう。なるほど、こういう構成の本が売れるんや、先に気付けばよかったと思ったりしている。われながら、せこい。
仲野堂店主が出した本でいちばん売れたのは『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)で、約8万部だ。そのとき、医学系ノンフィクションでこれだけ売れるのは異例だと言われたから、10万部突破は異例中の異例である。お前も突破したかっただろうと言われるかもしれないが、そうでもない。10万部を超えたら、無料招待の大祝賀会を催せと約束させられたから、8万部くらいでちょうどよろし。まぁ、ちょっと負け惜しみですけど。
2冊目、『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』はやや重厚だが、『すばらしい人体』に劣らず面白いし、さくさく読める。『すばらしい人体』がおいしい物のつまみ食いとすると、こちらはフルコースを食べきったような印象だ。気分と目的によって使い分けたいといったところだ。
新潮社の『波』に『「素人にこんなオモロイ本を書かれたら困るがな」的な医学エンタメ』というタイトルで書評を書いたので、よければ【人体大全×仲野】で検索して、そちらをご覧いただきたい。そのタイトルから分かるように、山本健人が現役の外科医であるのに対して、ビル・ブライソンは医学については全くの門外漢である。それでよくこれだけ高度な内容の本が書けたと感動すら覚えた。やっぱり医学は学びだしたら楽しいのだ。
もう1冊、人体つながりで『人体600万年史:科学が明かす進化・健康・疾病』を紹介しておきたい。上下2巻と大部な本だが、面白い本なので一気に読める。著者のリーバーマンは「走る能力」の進化が専門で、靴を履かずに走る「裸足への回帰」を提唱しているハーバード大学の人類進化生物学の教授だ。どうだす?この肩書きだけで、ちょっとそそられますやろ?
600万年前というのは、類人猿と人類が枝分かれした時代のことである。専門的な立場から、二足歩行、そして走ることがいかに人類進化において重要であったかが詳しく説かれている。他にも、腰痛や生活習慣病が人類の進化といかに密接に関係しているかが説かれている。われわれの体は進化の果実であると同時に、不都合な真実の蓄積でもあるのだ。
ということで、仲野堂が自信を持ってお薦めする、人体を巡る3冊を紹介させてもらいました。3冊とも面白おまっせぇ。そのうえ、知識が増えて、周囲の人にうんちくがかませるんですわ。どないだす、買わな損みたいな気がしてきましたやろ?
| 今月の押し売り本 |
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| 今月の押し売り本 |
『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』
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| 今月の押し売り本 |
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仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2022年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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