記事・インタビュー

2022.05.26

もう迷わない!救急外来の初期対応 ~緑内障発作編~

もう迷わない!救急外来の初期対応 ~緑内障発作編~

症例(主訴や検査結果など)

特記すべき既往の無いADLが自立した60歳女性。来院前日の夜間より増悪する頭痛と嘔吐があり、翌日になっても改善しないため救急外来を受診した。
右眼の軽度散瞳による瞳孔不同を認める以外には神経学的な異常所見は無く、頭蓋内疾患の精査のために撮影した頭部CTでは、明らかな異常所見は認められずであった。
眼科医へコンサルトしたところ右急性緑内障発作の診断となった。

急性緑内障発作の病態


人間の眼では常に房水という水が毛様体で産生され、虹彩の裏面を通った後に、角膜と虹彩の隙間にある線維柱帯に流れ込みます。この隙間のことを隅角と呼びます。
隅角の広さには個人差があり、正常な場合、隅角には十分なスペースがあるのですが、上図のように虹彩と角膜の角度が狭いことがあり、これを狭隅角と呼びます。

狭隅角患者の瞳孔が開くと、虹彩の根元が分厚くなるために隅角が完全に閉じてしまうことがあります。全周の隅角が閉じると房水が流れていけなくなりますが、産生量はそのままであるため、眼内がパンパンに膨らんでしまい、眼圧が上昇します。
この状態が急性緑内障発作です。正式には急性閉塞隅角緑内障と呼びます。

落とし穴

風邪薬抗ヒスタミン薬などの薬剤には抗コリン作用があり、瞳孔を開いてしまうので緑内障には禁忌と記載されています。これは正しくは、狭隅角で緑内障発作リスクの高い人には禁忌ということであって、開放隅角緑内障の場合には禁忌ではありません。

診断、診察のポイント

60歳以上の遠視には注意すべし!

急性緑内障発作を疑う場合に、好発年齢やリスク因子といった患者さんの背景を理解することで診断に近づくことができます。急性緑内障発作は60歳以上の遠視女性に好発しますが、それには具体的に以下の2つの因子が影響しています。

1.遠視では隅角は狭くなる


無限遠を見た時に、網膜上に焦点を結ぶ場合を正視、網膜より手前に焦点を結ぶ場合を近視、網膜より奥に焦点を結ぶ場合を遠視と呼びます。
人間の眼にはピント調節機能があり、網膜より奥に像を結ぶ場合には網膜上にピントを持ってくることができます。しかし、網膜より手前に焦点がある場合、奥へと移動することはできません。このため、近視の人は遠くを見るのに眼鏡が必要ですが、遠視の人は眼鏡無しでも遠くを見ることができます。

なお、上図の通り、水晶体の大きさや屈折力は遠視でも近視でも大きな違いはなく、眼球の長さである眼軸長の違いによって遠視や近視が決まります。
遠視の人は眼球が小さい割に、水晶体の大きさは近視や正視の人と変わらないため、水晶体によって虹彩が押されることで隅角が狭くなります。

2.白内障の進行で隅角は狭くなる

白内障とは加齢とともに水晶体が混濁する疾患で、全ての人に発症します。白内障が進行すると、ただ水晶体が混濁するだけでなく水晶体も分厚くなります。そして水晶体の厚みが増すにつれて隅角は狭くなっていきます。白内障手術を行った後の患者さんは、分厚くなった水晶体が取り除かれた代わりに、非常に薄い人工の眼内レンズが挿入されているため隅角は広がります。

以上のことより、急性緑内障発作は、遠視で元々隅角が狭い人の白内障が進行すると隅角がさらに狭くなり、瞳孔が開いた際に完全閉塞してしまうことで起こるものであると言えます。
一方で、近視が強い場合や白内障手術の既往がある場合は隅角が広いので、急性緑内障発作の可能性は低くなります。

遠視や近視を救急外来で調べることはできませんが、「若い時から眼鏡をかけていましたか?」と聞いた際に、眼鏡をかけたことが無いという方は、遠視や正視の可能性が高まります。

充血や対光反射を確認すべし!

狭隅角患者が散瞳すると、隅角が完全に閉じてしまうために急性緑内障発作が起こります。発作中は高い眼圧のため、その圧に負けて虹彩へ血流が届かなくなり虚血となります。その虚血により一時的に瞳孔括約筋が麻痺してしまうため発作中は瞳孔が中等度散瞳状態のままとなり、対光反射も消失してしまいます。

そのため、逆に対光反射がしっかりある場合は緑内障発作の可能性が低いか、発作状態が解除された後と考えられます。

その他の所見としては、緑内障発作中に出る強い充血も、参考となります。しかし、充血に関しては非特異的な所見であるため、あくまで参考程度です。

また、瞼の上から両眼を指で圧迫して、非常に硬く感じられる場合は眼圧が高いと判断する診察方法もありますが、こちらは熟練を要します。

落とし穴

緑内障の既往を持つ患者さんの頭痛では、急性緑内障発作を考えてしまうかもしれません。
しかし一般的に緑内障の既往があり点眼をしている患者さんは、ほとんどが開放隅角緑内障です。開放隅角緑内障では急性緑内障発作を起こす可能性は低いので、既往歴にとらわれずにリスク因子や対光反射などの所見から鑑別疾患を考えることが重要です。

専門医への引継ぎ

本記事で読んでいただいた通り、患者さんの背景やリスク因子を考えた上で、対光反射や充血などわかる範囲で所見をとり、対光反射の消失や瞳孔不同などの急性緑内障発作を疑う所見があれば、眼科医へコンサルトいただければと思います。
また、眼科医が見ればすぐにわかることはたくさんあるので、少しでも疑わしいと思った時にはご紹介いただいて良いと思います。

研修医へのメッセージ

眼科の疾患は普段関わることが無いので、難しく考えてしまうかもしれませんが、基本的には普段の救急外来での考え方と同じです。
具体的には、丁寧に現病歴や患者背景を聞いた上で検査前確率を推定し、自分でとれる所見や検査をして鑑別疾患を考えます。

眼科だけでなく、どの科の疾患においてもこのように検査前確率を考えて、診察や検査によって検査後確率を推定するというプロセスは非常に重要です。
ただ漫然と日々の診療に取り組むのではなく、このプロセスを考えながら働くことで臨床の経験値が2倍にも3倍にもなるはずです。

 

ぐちょぽい先生の自己紹介

「全国の眼科医が勉強したり、情報交換ができたりする場を作りたい」という思いからLINEオープンチャット「眼科専門医試験勉強会」を主催し、1000名以上の眼科医が参加。ブログ「眼科医ぐちょぽいのオンライン勉強会」Twitter「ぐちょぽい@感染症眼科医」で眼科医に向けた情報を発信中。

ぐちょぽい先生

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