記事・インタビュー

大阪大学名誉教授
仲野 徹
#00 店主敬白 開店の辞
| 今月の押し売り本 |
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まいど! 仲野でおます。本誌の読者の皆さま方には、連載15回にわたりました『座右の銘は銘々に』でごひいきを賜り、誠にありがとうございました。心から感謝いたしとります。このたび、『押し売り書店・仲野堂』の連載を始めることにあいなりました。あらためて、何卒よろしゅうお願い申し上げます。
いまは、大阪大学医学部で病理学の教授をしとりますが、来年の3月で定年を迎えることになっとります。ひょっとしたら、退職後はうちに来てくれという申し出が山ほどくるのではないかと心配しておったのでございますが、そのようなことは全くおませんでした。まぁ、こちらとしても、定職に就くつもりはなかったんで、べつにかまへんのですが。
で、基本的には、およそ50坪ある畑での農作業、文筆業、読書、家の用事を4時間ずつ、それから、しっかり8時間眠ることでの計24時間を日課にしようと思っとります。ただ、その結論に至るまでに、なんか新しいことを始めてみよかといろいろと考えたんですわ。そのうちの一つが小さい本屋さんでおました。気に入った本だけを置いて、入ってきたお客さんに薦めまくって売りつける。しかし、ビジネスモデルとして成り立ちそうにありまへん。そこで、そのバーチャル版という感じで、この連載を始めさせてもらうことにしましてん。まぁ、うけるかどうか分からへんので、何回続くことやら分かりまへんけど。
「こんなベタな大阪弁の文章、読みにくくてたまんないよ」、とか思われる方が多そうな気がしますので、標準語に変えます。実は、押し売り書店の連載は、10年以上前から抱いていた企画です。ある雑誌で実現寸前までいっていたのですが、ちょうどその頃にノンフィクションのレビューサイトHONZ.jp からお呼びがかかり、そちらで書くことになったので、立ち消えになってしまいました。
HONZは、普通の書評ではなくて、ノンフィクションを薦めるサイトですから、押し売り書店と同じ発想です。そうこうしているうちに、なんと、読売新聞の読書委員に任命してもらえたのであります。これは本当にいい経験になりましたが、2年任期なので、今年いっぱいでそれもおしまいです。HONZでのレビュー執筆は継続中なのですが、もう1カ所くらい自由に本の紹介をできる媒体がないかしらんと思っていたところに、座右の銘の連載があまりに好評だったので(ホンマですか?)、何か次の企画をというお話をいただきました。こういった事情で、ハゲて、ではなくて、晴れて仲野堂の開店とあいなったわけでございます。
本当は、仲野堂ではなくて禿心(とくしん)堂という屋号にしたかったんです。定年を機に隠居するので、人生の一区切りとして、なんか違う名前、字(あざな)のようなものを名乗れば格好いいのではないかと考え続けてました。ご存じないかもしれませんが、不肖、若い頃から髪の毛の不自由な生活を強いられてまいりました。話せば長いのですが、一時は気の迷いがあったとはいえ、カツラやら育毛やらには手を出さず、そのような運命を心静かに受け入れることといたしました。そういった、穏やかな受容の気持ちを「禿心」という名に託し、なんでも素直に得心するという気持ちを込めて、禿心斎を名乗ろうと決めたのでございます。
肝心の連載内容でありますが、これは絶対おもろいから読んでほしい!と熱望する本を、毎回2〜3冊ずつ禿(はげ)しく、じゃなくて、激しく推してまいります。少なくとも、うち一冊は比較的新しい本にするつもりです。ドクターズマガジンなので、もちろん医療関係の本です。と言いたいところなのですが、それだけだとあまりおもろくなさそうなので、医学を中心にさまざまなジャンルの本を紹介してまいります。
今回は、とりあえず開店のご挨拶ということなのですが、一冊だけ紹介させてください。厚かましくも自著『仲野教授の笑う門には病なし!』を。これは、週刊日本医事新報に毎週連載していたものから、おもろいのをえりすぐったエッセイ集であります。おそらく、お読みいただけますと、『座右の銘』の連載では決して分かり得なかった、禿心斎の波乱に富んだおもろい日常をお分かりいただけるのではないかと存じます。
ちゅうことで、連載第ゼロ回は、こんなところで。次回から気合いいれていきますんで、何卒よろしゅうお願い申し上げます。って、今回は気合いはいってへんかったんか、というツッコミは堪忍してくだされ。
仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2022年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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