記事・インタビュー
現在、ドイツはベルリンにあるシャリテ・ベルリン医科大学の免疫学教室にポスドクフェローとして研究留学中の池田敦世です。医学部卒業後、日本では消化器外科医として情熱と愛情を持って働いていました。しなやかに、おおらかに、かつ力強く、流れる水のように生きる日々を、ヨーロッパの地からささやかにお届けしていきたいと思います。
SurgeonからSurgeon-scientistへの第一歩

私は、多くの留学中の先生方とは違って、もともと強く留学を志していたわけではありません。海外旅行は好きでしたが、あくまでハワイ・マウイ島やギリシャ・サントリーニ島で優雅に寝て暮らしたいというlazyな妄想を抱く程度でした。典型的日本人なもので、英語も得意でないし、自分から意見を主張することも苦手で、海外に飛び出して視野を広げたい!という志や勇気も、恥ずかしながら持ち合わせていませんでした。さらに、基礎研究に興味もなく、ひっそりと島国ヤパーンで手術を続けていくことができればそれで十分と思っていました。
臨床・手術はとても好きで、卒後5年目までの外科医生活は非常に忙しかったですが、何ものにも代えられないやりがいを感じていましたし、日々生きる力や輝きを得ながら、消化器外科医として情熱を持って働いておりました。そんな折、6年目の時点で、入局して大学院生として一定期間臨床を離れ、基礎研究を行うという選択肢を与えられます。
外科医が基礎研究をする意義とは…?レジデントの頃、論文執筆はおろか学会発表でさえできれば避けたい、もちろん立派なことだとは思うけど、自分はそんなことをしている時間があるのなら1件でも多くの手術に入りたい、常にそう思っていました(今思うとなんとまぁ視野の狭い調子に乗ったレジデント…)。しかし、尊敬すべき上級医の先生方が口を揃えて「まぁ経験はしてみては?」的な雰囲気を醸し出していたため(もっと良いアドバイスをしてくださった方もいた)、医学・科学の基礎たるやに触れることもきっと自分や将来の患者のためになろうと自分に言い聞かせ、入局・大学院生活を選択しました。こうして、渋々Surgeon-scientistの第一歩足を踏み出したのでした。
留学を志したきっかけ~Bench to bedside, bedside to bench scienceの進歩の一助に~

いざ研究生活を始めてみると、予想通り全く面白みを感じず、1秒でも早く臨床に戻りたいと思いながら、夜中実験・朝帰宅・スッキリを見ながらビールという、オワコンな院生生活を始めたのでした。
しかし、この大学院生活で大きな転機が訪れます。私は、手術切除後の腸管サンプルから免疫細胞を採取し解析するといった研究を行っておりました。消化器外科教室のみではなく、免疫制御学教室、いわゆる臨床医ではなく基礎研究者達の集う教室と協力して研究を進めていました。そこで出会った研究者達は、皆非常に勤勉で、謙虚で、温かく、人間としても研究者としても尊敬できる人達でした。基礎研究・免疫学の知識は彼らに比べるとはるかに乏しい我々外科医にも真摯に意見を求め、本当に患者さんの治療につながる研究を追究していました。医学・科学の進歩は、多くの研究者達が膨大な労力と情熱をかけて発見したごく小さな真実の積み重ねであることに気が付きました。彼らの姿勢が次第に自分の考え方を変え、自分も一人の医師として、bench to bedside, bedside to bench scienceの進歩の一助となるような真実を追究したいと思うようになりました。
4年間の研究を終え、博士号取得後、久々に臨床に戻って手術をしたい!という気持ちもありましたが、もう少し免疫学を勉強してみたい、可能であれば海外に挑戦してさらに違った研究や研究者達に触れることもいいかもしれない、と考えるようになったのでした。
大学院時代、尊敬すべき免疫制御学教室の研究者達と一緒に
入局・大学院生活は牢獄か?

私は、中学高校時代を某K女学院という私立女子校(外から見れば秘密の花園、中身は動物園あるいはモンキーセンター)で自由奔放に過ごし、かけがえのない一生涯の友人に巡り合いました。これ以上の友人に出会うことはないと思っていた後、神戸大学医学部時代、硬式テニス部で涙と汗を分かち合う最高の仲間に出会いました。研修医として働き始めると、そのような出会いはもうないと思っていましたが、初期・後期研修を過ごした市立豊中病院で信頼・尊敬できる同期や上級医、コメディカルに出会いました。
その後の大学院生活は、大好きだった臨床を離れ、医局という牢獄の中で、ひたすら耐え抜く人生の修行にすぎないだろう、と覚悟していました。
ところが、大学院でまた、苦楽を共にできるかけがえのない同期達に巡り合いました。さらに、先述したように免疫学教室の研究者達に出会っていなければ、今の留学生活はありません。後々述べますが、ここベルリンでさらにまた素晴らしい出会いをして、幸せな毎日を送っています。
入局・大学院生と聞くと、ネガティブなイメージを持っている方もいるかと思いますが、おすすめする理由を一つに絞って挙げるとすれば、人との出会いです。大きな組織であるため、その分多様な人々に出会い、多様な考えに触れます。私は今、かつて牢獄であろうと懸念していた大学院に、素晴らしい友人と留学の契機、そしてまたとない人生経験・留学生活を与えて頂き、とても感謝しているのでした。
まとめ

人生は選択の連続です。「やりたい」と思うことを選択していけることが理想ですが、時に本当にやりたいこととは違う選択をすることもあるでしょう。しかし、本望ではない選択の末に、思いもよらない出会いがあり、今までの考え方が大きく変わったり、予想外の幸せが訪れたりすることがあると思います。いかなる環境においても、腐らず、明るく、輝き続けて下さい。
次回より、具体的な渡独までの経過やベルリンでの研究生活を気ままに更新していきたいと思います。Tschüss.
同僚とひとときを
<プロフィール>

池田 敦世(いけだ・あつよ)
施設名:Charité ― Universitätsmedizin Berlin (シャリテ・ベルリン医科大学)
役職:Postdoctoral researcher
1986年兵庫県生まれ。2011年神戸大学医学部卒業。初期研修修了後、市立豊中病院で3年間外科医として研鑽を積んだ後、大阪大学消化器外科入局。外科専門医、消化器外科専門医、博士号取得後、2020年10月よりシャリテ・ベルリン医科大学の免疫学教室に研究留学中。
池田 敦世
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