記事・インタビュー
現在、ドイツはベルリンにあるシャリテ・ベルリン医科大学の免疫学教室にポスドクフェローとして研究留学中の池田敦世です。医学部卒業後、日本では消化器外科医として情熱と愛情を持って働いていました。しなやかに、おおらかに、かつ力強く、流れる水のように生きる日々を、ヨーロッパの地からささやかにお届けしていきたいと思います。
留学までの経緯 ~Noと言えないのは日本人だけではない~

研究留学先の探し方は、「自力でアプライする」か「先輩や医局を介した紹介」に大別されると思います。さらに、財団や学会などを介した留学プログラムもあるかと思います。私は、当医局・大阪大学消化器外科の先輩がかつて留学していたドイツの免疫学教室を紹介してもらいました。当医局からは、毎年数名の外科医が留学しており、その多くはアメリカが留学先となっています。
私がボスと初めて会ったのは、留学する2年程前の2018年12月、ボスがILC(Innate lymphoid cell)conferenceという、とあるマニアックなリンパ球の学会で来日された時でした。その、とあるマニアックなリンパ球を今も追究し続けているのですが……。それはさておき、かつて留学していた当医局の先輩も交えてボスと食事をしながら、「2020年4月頃から留学を希望している」と話すと、“Welcome!!”との返事をもらえました。
2019年7月、翌年4月からの留学に備えるため、ボスにメールを送りました。ところが、スルーされます。めげずに何度かメールを送ってみましたが、返信はありません。そこで、当医局の先輩にrecommendationのメールも送ってもらいましたが、それでも返信はなく、いわゆる音信不通状態でした。
嫌な予感が続いていたのですが、2020年1月にボスが再来日し、再会することができました。留学について尋ねると、同じように“Yes! Welcome!” とのお返事が……。「ほんまに思ってる?」と思いましたが、“Thank you”とにこにこ笑顔で返しておきました。ただし論文が通ってから、という条件を提示されており、私の場合、論文がアクセプトされたのが2020年3月であったこと、また、ちょうど新型コロナウイルスの第1波が訪れていたことから、当初目標としていた留学時期を4月から10月にと設定し直しました。
さて、留学準備をするにあたり、留学助成金の申請や、新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中での入国準備には、留学先からのAcceptance letterが当然必要になります。Acceptance letterを頂きたいとボスにメールしますが、再度スルーされ、待つこと数ヶ月間……。
「これで本当に10月から留学できるのかしら?」と思いながら、一応準備を進めていた8月頃だったでしょうか、突然ボスからメールが来ました。「お金がないから雇えません。来るなら自力で来てください」とのこと。いやいや(笑)。嫌な予感はしていたけども……。無理なら最初からNoと言っておくれ~。という話でした。
今になってみれば、その理由が分かります。ボスは自然免疫学分野では世界的権威で、世界各国からは優秀なimmunologistが集まります。それによって、ラボが巨大化しており予算に余裕がないので、少し免疫学をかじったことがある、という程度の外科医をポスドクとして強く求めているわけではありませんでした。さらに、ボスはとても優しく人当たりがよくて、誰に対しても“Yes, Welcome!”と言ってしまうようなチャーミングなお人柄なのでした。もちろん研究に対しては、とても厳しい方ですが……。
というわけで、当医局の関連病院から助成金を援助して頂き、無給でのドイツ・ポスドク生活が始まったのでした(後々ちゃんと雇用契約をゲットしてお給料は出るようになりました!またお話しします)。
ドイツ首都ベルリン

さて、ベルリンで生活して1年以上が過ぎましたが、ベルリンという街を表すなら、首都でありながら「自然豊か」で「多様性に富む」という言葉に尽きると思います。非常に生活しやすく、私はとても気に入って快適に暮らしています。街中に自然が溢れており、どこに住んでいても少し足を延ばせば美しい森や湖に出合います。週末や夏場の午後には、自然の中でゆったりと過ごし、心が癒され満ち足りていくのを感じることができます。コンクリート地獄大阪からやって来た身としては、人生の充電期間のようなもので、一生分のfresh airとsunを取り入れて帰りたいと思っています。
また、街を歩いていてもラボにいても、非常に多様性に富んでいることに気付きます。自分が「外国人」といった感覚はあまり感じません。ラボメンバーは、ヨーロッパ各国やブラジル、メキシコなど様々な国から来ており、ドイツ人はわずか数名です。
私はラボメンバーをとても尊敬しています。多くがPh.D. studentsなので、随分と若い者ばかりですが、皆寛容で、どこから来たのか、どういう嗜好をもっているのか、英語が流暢かそうでないか、などの個人特性で決して他人をジャッジしません。相手を選ばず、常に対等な目線でまっすぐに会話ができる人達です。
ずっと日本にいると、なかなか海外から来た方と過ごす機会がありません。留学していなければ、世の中には、こんなに根本的に違った視点を持った尊敬すべき人達がいるということ、また、自分の狭い考えから知らず知らずのうちに他人を評価してしまっているということに気付けなかったと思います。
留学経験のある多くの方が口にすると思いますが、「留学は本当に良いです。」。
人生は一度きりです。ぜひ旅をしてください。美しい景色を見つけてください。多くの人に出会ってください。
これからも、留学生活、外科医の研究生活がいかに魅力的であるかをさらにお伝えできるよう引き続き更新していきたいと思います。
美しい湖や森がたくさんあります
まとめ
今回は、留学に至るまでの状況とベルリンでの生活についてお伝えしました。
次回は、研究内容に触れて、ちゃんとまともに研究もしているということをアピールしたいと思います。Tschüss.
ラボの仲間達と夜のベルリンの街で(左端が筆者)
<プロフィール>

池田 敦世(いけだ・あつよ)
施設名:Charité ― Universitätsmedizin Berlin (シャリテ・ベルリン医科大学)
役職:Postdoctoral researcher
1986年兵庫県生まれ。2011年神戸大学医学部卒業。初期研修修了後、市立豊中病院で3年間外科医として研鑽を積んだ後、大阪大学消化器外科入局。外科専門医、消化器外科専門医、博士号取得後、2020年10月よりシャリテ・ベルリン医科大学の免疫学教室に研究留学中。
池田 敦世
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