記事・インタビュー
COVID-19流行により感染症専門医のみならず感染症医療従事者の不足が明らかとなりました。感染症に関わる医療従事者のエキスパートの育成は勿論、一般医療従事者の感染症対応スキルのボトムアップは新興感染症への対策のためにも喫緊の課題です。感染症診療・対策について専門研修の場を設け、研修プログラムを提供し、専門職医療人を育成していくために当センターは今年開院160年を迎える長崎大学病院に設立されました。
様々な分野で活躍できる感染症専門医になるための3年間の研修プログラム
感染症専門医は臨床分野のみならず多くの分野で活動できるポテンシャルを持つ専門医資格と考えられます。その礎を培うための3年間の研修プログラムです。
第一種感染症指定医療機関である当院は複数の感染症診療科・診療部門(呼吸器内科(感染症班)、感染症内科、感染制御教育センター、臨床検査科・微生物検査室)を持ちます。ローテーション研修を行うことで一般感染症から、特殊状況下の感染症(がん治療中、免疫抑制剤治療中、固形臓器移植・造血幹細胞移植関連)、結核、真菌感染症、COVID-19などの新興感染症、ダニ媒介感染症、HIV/AIDS、輸入感染症など多彩な症例経験を積み、discussion形式のcase studyにより小児感染症の実際、臨床微生物学、検査医学、感染制御学と広範囲に臨床感染症を学びます。
更に院外の協力医療機関での専門研修、公衆衛生・保健行政の見識を深めるため長崎県庁や保健所でのインターンシップも行います。リサーチに参加しアカデミックキャリアの礎を作る機会、熱帯感染症を学ぶため熱帯地での臨床研修、長崎大学DTMHへの参加の機会も設けています。研修を通し感染症学は学際的な領域であり、感染症専門医のキャリアパスは多数あることを示し、キャリア支援を行います。
非感染症医のために学ぶ機会を提供し、地域の感染症対応力を高める
いずれの診療科でも外来、入院問わず患者が発熱を来すことは日常経験し、その原因が感染症であることが多く、感染症診療・対策は日常臨床の一つとなっているものと思います。
感染症診療は特殊な診療ではなく(勿論特殊感染症は専門医の診療になりますが)、どの医師も感染症診療・対策の原則を身につけておくことは必要不可欠です。感冒を始めとした急性気道感染症の病因の多くは呼吸器病原ウイルスによるもので溶連菌性咽頭炎など一部を除き抗菌薬の適応はないものの、不適切に抗菌薬が処方されているのが実情で薬剤耐性菌の拡大が懸念されています。
薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020の取り組みの中の適正抗菌薬使用の成果指標の一つとして経口抗菌薬処方の減少がありますが、2019年のデータでは目標に到達できていません。私が医師になった26年前に比較して今では感染症に関する情報を多くの書物、websiteから知ることができ、自学する環境は随分と良くなっていますが、実臨床の場で非感染症医が臨床感染症を学ぶ機会・場所は十分ではないと思います。
当センターは非感染症医向けに臨床感染症学を学び、実践する場を提供し、地域医療の感染症対応力の強化を考えています。
更なる高い専門性を求めて
医師には生涯教育が必要であることは論を俟たないと思いますが、ICD(インフェクションコントロールドクター;ICD制度協議会)や感染症専門医の生涯教育として、ICD講習会や感染症関連学会の教育講演など行われており、各医師は必要単位を取得しその質を維持しているのが現状です。
また、感染症専門医も勤務する医療機関の特性などで要求される感染症診療、保健行政、地域社会への関わりも其々異なっているものと思います。医育機関である大学病院の役割として専門医の生涯教育にもっと関わるべきではないかと考え、ICDや感染症専門医のための研修プログラムを提供するようにしました。
各医師の背景や希望に応じた研修内容とし、大学病院での感染症診療、院内感染対策、AST活動、学生、若手医師、医療従事者の教育にも従事、また行政機関との連携にも参加していただき、臨床感染症学に関する知識のアップデート、スキルの向上を図り、更なる高い専門性を持った感染症医として活動できるような研修を提供します。また、研修終了後の感染症専門医としてのキャリアの提案や支援に加え、地域の感染症対策のコアメンバーとなっていただけるよう継続的なサポートもできればと思っています。
まとめ
日本感染症学会によると日本の病院勤務の感染症専門医の適正人数は3,000~4,000人程度としています。しかし、令和3年6月7日時点で同学会認定感染症専門医は1,622名で、専門医の高齢化も進んでおり、臨床現場で活動している感染症専門医は更に少ないものと考えられます。
専門医の育成は喫緊の課題でありますが、多くの医療従事者の感染症対応スキルのボトムアップも当センターの重要なミッションとして活動し、地域の感染症医療の支援を進めて行きたいと思います。
<プロフィール>
古本朗嗣(ふるもと あきつぐ)先生
施設名:長崎大学病院感染症医療人育成センター
役職: 教授 センター長
平成7年鹿児島大学医学部医学科卒業、日本内科学会認定内科医、総合内科専門医、内科指導医、日本感染症学会感染症専門医、指導医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、ICD、抗菌化学療法指導医、臨床研修指導医 プログラム責任者養成講習会修了 医学博士
古本 朗嗣
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