記事・インタビュー
薩摩川内市下甑手打診療所所長
齋藤 学
皆さん、こんにちは。鹿児島県の西の沖に浮かぶ下甑島の手打診療所より、離島での日々の出来事をお届けいたします。2月といえば、気になる人とのご縁がビターかスイートかとそわそわする季節ですね。今回は、私とあるおばあさんのご縁の話から始めてみようと思います。
「やっぱりあのときの!」


夕方に時間ができると、入院患者さんにお灸をしています。
ぼーっと夕焼けを眺めながら昔話を聞くのは、心地良いひとときです。ご主人に布団をかけてあげようとして腰を痛めた88歳のおばあさんに、お灸をしていたときのことです。「先生、15年前は沖縄にいましたか?」「はい。いましたよ~」「昔、うちのばあちゃんが熱を出してね。夜に往診を頼んだら、そのとき来てくれた先生が沖縄から応援で来ていた先生だったんです」と言うのです。「ばあちゃんは歩けないから車椅子に乗せようか、と言ったら、その先生が抱きかかえて車まで運んでくれたんですよ」「それ覚えています! 私です!」「やっぱり先生だったんかー」。それからは聞くも涙、話すも涙。15年前に私が沖縄から下甑島へ代診に来ていたときに出会った患者さん家族と、今こうしてつながるとは、びっくり仰天です。ご縁を感じずにはいられません。
「みんながみんなを知っている~ Everybody knows every body~」
▲2020年8月29日に開通した甑大橋
▲2020年8月29日に開通した甑大橋ある日、往診を頼まれて患者さんの家に向かっていたときのこと。
途中まで来たものの場所が分からず、ご家族に迎えを頼みました。近くの海で待っていると、バイクに乗ったおばあさんが来て、私を見つけるやいなや「先生! こっちです!」と言うのです。
「僕の顔、見たことないのによく分かりましたね」と私が驚いていると、「“知らない顔だから” すぐに分かったのよ」と。矛盾するようなこの出来事、彼女いわく「島の人はみんな知り合いですから」ということなのです。人口1700人の下甑島。看護師さんはどこそこのおばちゃん、患者さんは誰それの息子、楽しいことも悲しいことも、みんなで分かち合っています。先日、甑大橋の開通を記念して行われたマラソン大会に、私も副所長に当番をお願いして参加しました。体育の時間しか体を動かしたことがないと尻込みする妻も、記念にということで走りました。終わってみると、妻は女子総合で2位という驚きの結果でした。翌日の外来は、患者さんから祝福の嵐です。「すごいね~。頑張ったね~」「奥さん優勝したんだって!」とうわさは瞬く間に広まり、そして大きくなっていきます。
「75%と25%の法則」
島のみんなが顔見知り。うわさ話も5G級の速さで広がる(笑)。
最初は島での暮らしになじめるのか、少し不安があったのは事実です。そんな私が支えとしている法則があります。離島医療のプログラムを探しに海外を回っていた頃、日本でオーストラリアのへき地医療の話をすると、国の広さも文化も全く違うから参考にならないよ、と言われることがよくありました。そのことをオーストラリアの総合診療医、ロナルドさんに相談すると、こんなことを教えてくれました。「75%と25%の法則を知っている? ある事柄において、いいことは75%、そうじゃないことは25%。つまり、オーストラリアと日本の違うところなんて25%くらいしかなくて、共通点は75%もある。そんな感じしない?」。こんな法則聞いたことないけれど、確かにその通りかもしれないと妙に納得したものです。おかげで、うれしいことや楽しいことが多く、充実した日々を過ごしています。ちなみに妻は、優勝したんだって!といううわさにとても喜んでいます。
▲甑大橋の開通を記念して開催された「甑マラソン大会」
「ちょっと離島まで」と題してスタートしたこの連載も次回がいよいよ最終回です。おっと、忘れていました。めでたく2位となった妻ですが、女性参加者は全部で6人だったことを付け加えておきますね。
齋藤 学
2000年順天堂大学医学部卒業。千葉県総合病院国保旭中央病院で研修後、救急医として沖縄県浦添総合病院に勤務。その後、国内外の離島やへき地での修業を経て、へき地医療をサポートする合同会社ゲネプロを設立。2017年オーストラリアへき地医療学会とコラボしたRural Generalist ProgramJapanをスタート。2020年4月より薩摩川内市下甑手打診療所所長。同年8月、国内外のへき地視察をつづった『へき地医療をめぐる旅』(三輪書店)を上梓。
※ドクターズマガジン2021年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
齋藤 学
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