記事・インタビュー

2021.03.19

ちょっと離島まで②

薩摩川内市下甑手打診療所所長
齋藤 学

 皆さん、こんにちは。今年の4月から鹿児島県の西の沖に浮かぶ下甑島の手打診療所所長を務めております齋藤学です。そう、フジテレビのドラマ、「Dr.コトー診療所」のモデルとなった島です。第2回となる今回は、離島にたどり着くまでの修練の日々をつづってみようと思います。

「川を上り、海を渡りなさい」

ちょっと離島まで
ちょっと離島まで

医師として10年目(2009年)に救急医から離島医に転身した私は、徳之島で歯が立たない悔しい思いをしていました。
救急医である私が弱点として痛感したのは、「がん」と「プライマリ・ケア」。そして、何より必要なのは「一人で遂行する能力」でした。救命救急センターには多くの仲間がいて、バックにも多くの専門家がスタンバイしています。一方、離島医療を支えてくれる仲間は皆「島外」で、医師は自分一人なのです。
医師として11年目から15年目に、師匠のつてで、「内視鏡」や「消化器内科」、「在宅医療」を学び、自分のイメージする離島医に近づこうと奮闘しました。ところが今度は診療所から16km以上離れた地域への訪問診療はできないという「在宅医療の16kmルール」に悩まされました。
「16kmのその先にいる人たちには、どうしたら医療を届けられるのだろう」。その時私の目に飛び込んできたのは、T Vに映った「AKB48」の総選挙。私は「これだ!」と叫びました。小さな円でも各地に拠点があれば、手の届く範囲は広くなる。何かがひらめいたような気がしました。すがる気持ちで母校順天堂の二人の恩師に相談に行きました。医史学の大家、酒井シヅ名誉教授からは「歴史をさかのぼれば必ず同じようなことをした人がいる」という言葉を、そして海外の地域医療に精通した医学教育の武田裕子教授からは「海外には必ず同じチャレンジをした人がいる」という言葉を授かりました。「何か新しいことを始めるなら、川を上り、海を渡りなさい」。歴史をさかのぼり、他の国を見て、そして自分の地域で考えなさい、という行動の指針を受け取ったのです。

「一番の離島は宇宙だぞ!」

ちょっと離島まで
ちょっと離島まで

弱点を見つけては補強し、離島医療に必要とされるであろう科目を学び、離島で通用する医師になる。そんな自己流で生易しいトレーニングでは、離島にチャレンジしてもまたもやコテンパンにやられ、悔しい思いをすることだろう。恩師から確かな指針を得た私は自分を奮い立たせて、まずは世界最先端の離島医療を見て回ることにしました。しかし、どこの国が世界で最も進んでいるかなんて全く分かりません。インターネットで調べる限りでは、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアが4強でした。そこで大学野球部の後輩で、家庭医療をしっかり学んでいる福井謙(福島県・モミの木クリニック院長)に質問してみました。「世界で一番盛んな家庭医療の学会って何?」、「齋藤さん、そりゃあウォンカ(WONCA : 世界家庭医療機構)じゃないっすか?」即答でした。早速私は家庭医療のへき地版の集会であるWONCA rural なるものを見つけ、参加を決めます。その会は、2015年4月、宮崎駿監督の「紅の豚」と「魔女の宅急便」の舞台となった、クロアチアのドゥブロヴニクで開かれました。
へき地で帝王切開を行う医師や、国際協力とへき地医療を掛け持ちする医師、南極から帰国した医師や、ジャングル・クリニックで働く医師……。想像をはるかに超える、多種多様な医師たちがそこにはいました。その中に、へき地で働く医師に向けて南極プログラムをスタートさせたジェフ・エイトンがいました。彼はオーストラリアへき地医療学会の会長を歴任した非常に面白い男です。私が面白がって南極の話を聞きに行くと、「お前はまだ南極なんて言っているのか! これからの時代は……」とニヤッと笑いながら天井を指差しています。「世界で一番のへき地は宇宙だよ、宇宙!」。
スケールの大きなへき地で、なんとも楽しげに働く医師たちに出会い、彼らの強力なサポートを受けて、私は日本版の離島・へき地研修プログラムを立ち上げることにしました。自己流ではない、世界標準レベルのトレーニングをついに見つけたのです。次回は、いよいよ甑島でのエピソードをご紹介できたらと思います。どうぞお楽しみに!

齋藤 学

2000年順天堂大学医学部卒業。千葉県総合病院国保旭中央病院で研修後、救急医として沖縄県浦添総合病院に勤務。その後、国内外の離島やへき地での修業を経て、へき地医療をサポートする合同会社ゲネプロを設立。2017年オーストラリアへき地医療学会とコラボしたRural Generalist ProgramJapanをスタート。2020年4月より薩摩川内市下甑手打診療所所長。同年8月、国内外のへき地視察をつづった『へき地医療をめぐる旅』(三輪書店)を上梓。

※ドクターズマガジン2020年11月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

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齋藤 学

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